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処刑台上の詐欺師  作者: 十参乃竜雨
エピローグ「処刑台上の詐欺師」
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宴会


 どこにでもあるような宿の食堂にて俺は宴会を開催していた。

「マスター、女とハム追加で」

「メニューにないものは頼むな」

 マスターはそう言いつつもハムを調理場に指示をする。

「今回も派手にやったみたいだな」

「ああ、大暴れしてやったぜ」

「本人は何もしていませんねぇ」

 雲雀はたたき切るようなセリフを言う。本人はさっきから食べ物は食べずに果実のジュースをちょっとずつ口に運んでいる。

「そうそう、ただ大声であることないことしゃべってただけじゃない」

 いつものようにウエイトレス姿をしているが、普通に料理に手斧ばしている。職務怠慢にもほどがあるだろ。まぁ制服になったことであの胸についたでかい果実が際立って……おっと、ナイフが飛んできた。

「そうです、そうです、働かざる者は餓死しやがれです」

 小毬、それはお前のご主人に言ってやれ。

「それで土に返って跡形もなく存在が消えればいいのに」

 隣のテーブルで食事を静かに口に運んでいる。そもそもジャスティの次の仕事に行く途中だからってここに泊まらなくてもいいのに、これはジュリアちゃん、俺に気が……。いえ何でもないです。ごめんなさい。

「……黒、ひとり殴り倒してたよ」

「大丈夫よ、ココアたん。弱った奴だったから殴っただけよ」

「…………ヤ」

 リーアがココアに抱き付こうとするがするりと逃げていく。もちろん手のハムは離すことはなかった。 そんな時だった。厨房の奥から一人の給仕が現れた。

「お待たせしました」

 ハムといくつかの飲み物を持ってきたミュウナちゃんだった。彼女は給仕の服を着ていた。ロバトニルスにいた時も給仕をしていたのだから板についている。どこかの誰かさんとは違って……ナイフはマジで危ないからやめろ。

 ミュウナちゃんはてきぱきと配っていく。もちろんココアにハムを大量に。

 隣のテーブルに行った時だった。

「向こうはどんな様子ですか」

 向こうとはロバトニルスのことだろう。あれから二週間程度たっていた。俺たちはあの混乱の中飛び出してこの宿屋へと帰ってきていた。もちろんミュウナちゃんは元いたところにいることもできないのもあり、宿屋の部屋を一部屋借り、住んでいる。

 もちろん俺の借りている部屋から離れているし、その間にはリーアの部屋があるため、非常に遺憾ながら、まことに残念である。

「前よりは治安は悪くなっているな」

 答えたのはジュリアだった。この場では彼女が一番適任だろう。

 ジュリアはあの後、ジャスティとともにロバトニルスに残っていた。

 あれほどの騒ぎだ。国は大いに荒れた。軍がコルダイクに協力していたこともあり、それまでの魔法弾圧、その冤罪などで大いに不満に思っていた国民は感情を爆発させた。

 血みどろな展開になろうとしていた。

 しかし、結果的に全面的な衝突は避けられた。

 ジャスティが全面的に両者の間を取り持ったことが大きかった。

 軍としても休戦中といえども戦時中である。国内の混乱を避けたかった。国民のほうも軍を必要以上に軍を責めてしまえば敵国が攻めてくる可能性も考えていた。

 その両者の思惑をうまく利用し方々に動きかけ交渉の場を設立させた立役者がジャスティ。どのように交渉したのかは吐きそうになるぐらい面倒くさいことだ。考えたくもない。

 結果的にその混乱に乗じて敵国が攻めてくることはなかった。

 まず大きな要因の一つに『イデアール』存在だ。

 あの大きな炸裂はその敵国のどこにいる人間も目撃していた。町一つが軽々しく破壊される大きさのものであったのだ。その国も混乱が生じた。

 『イデアール』に対する情報封鎖は完璧であったため、未知数の兵器があると相手は考え、チャンスと思いつつも手を出すことができなかった。むしろ俺が各国に散っているリーアの部下の工作員を使い、未知の兵器であるという噂を積極的に広めた。

「孤児院は……」

 リーアちゃんは孤児院の子供たちの顔を思い出しているかもしれない。

「あくまで騒動の影響で悪くなっているだけだから、その点は大丈夫だよ。マスターの知り合いの方が警護についている」

「…………よかった」

 ほっと胸をなでおろすミュウナちゃん。それ見たジュリアは懐からある物を取り出した。

「それと君に渡すように言われてね」

「まさか……」

 ジュリアが取り出してきたのは三通の手紙だった。

「一つは院長から、残りの二通は君が助けた子供達からだ」

 その子供達とは落石から守った二人の子供のことだった。

 彼女はそれ以上言葉にすることができない。彼女は大事にその手紙を開き、読み始める。

 時間がたたずに彼女の眼がうるおい、涙があふれた。そして頬を伝う。何度も。

 俺はその場から立ち上がった。

「そんじゃ、俺風呂入ってくるわ」

「空気読め、この馬鹿」

 リーアのその一言から、他の者が同様なことを俺に投げる。俺は罵倒を背に歩いていく。

 あの暖かい場に俺がいる資格はまったくありはしない。

 いや、いてはいけないのだ。俺みたいな人間が。



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