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処刑台上の詐欺師  作者: 十参乃竜雨
第三章、『それは突然に……』
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火炙りの聖騎士の槍


「さておっさん。魔法破壊兵器の糧にしようとしていた彼女は確保させてもらった。さてどうするんだ?」

 俺は目の前にいるコルダイクに叫んだ。その叫び声に対して彼は多少の動揺を見せた。

「全兵士に告ぐ!全兵力をもってこの愚か者どもを捕まえろ。物量で押せぇえええええ!」

 混乱に陥っていた処刑場内で奥のほうに控えていた、精兵達に告げた。その声を聴くとその精兵達は一つの塊になった。

 所詮、雲雀とココアが一騎当千の強さがあろうとも、混乱にうまく乗じているので大人数相手でも立ち回れているのだ。統率のとれた一つの集団が相手ならばひとたまりもない。

 しかし、黒はそんなことなど百も承知なのだ。

 今まで処刑場を荒しに荒らしまわった彼からすれば、何度も経験した物事の一つでしかない。

「無実の少女が魔法兵器の糧にされるために殺されそうになってるな~。こんなこと見過ごしてもいいのかな~。騎士であろうものがそんなこと見過ごせるはずはないよね~」

 黒は間の抜けた大きな声でどこかへと話し始める。

 しかし、それに答えるものがいた。

「貴様に使われるのは癪でしょうがないが、ここは人の命がかかってるんでな」

 そこに鎧を着こみ、銀色の長槍を持った女の騎士が表れた。

「誇りも持たぬ兵士たちよ。私が相手だ」

 身長よりも長い槍を構え、大きく言い放った。



 誇りを持ち、国につかえている。それが何より私の喜びであり生きがいだった。。

 朝、日が昇る前に起き、朝食を済ませ、屯所に行くまでに朝の鍛錬を終え、騎士として城へ行き、仕事をこなす。仕事のあとも後輩たちの訓練に付き合ったり、自己鍛錬をし、家路につく。

 何よりも単純で平凡な生活だった。しかし、不満に思ったことなど一つもなかった。

 苦楽を共にしている騎士団の皆との生活は一つも問題はなかった。むしろ充実していた。しかし、たった一つの武器で平穏が崩された。

 昔から代々家宝としてきた槍がそんな日常を崩したのだ。

 それは、使い主の魔法の能力を格段に倍増させる代物だった。それはむしろ武器と呼ぶよりか兵器と呼ぶほうが正確だった。一度使えば、城の門などたやすく破壊することもでき、数千の敵とも一人で渡り合えるほどの代物だ。

 そして、その武器を使いこなせるのは私の家の血を引くもののみであった。よって両親が高齢であり、その子供は私のみであったので、まともに使えるものは私だけであった。

 そんなものを敵も味方も放っておくわけがなかった。

 周辺諸国は最初、大なり小なりの圧力をかけてきた。しかし、次第にそれはエスカレートしていき、武力の衝突まで起こり始めた。

 身内などでは、内部で発言力を増そうとしてきた役人が、私を自分の派閥に入れてこようとした。無論私はそれに首を縦には降らなかった。私には国のために、誇りをもって働ける騎士団があれば十分だった。私と考えを共にする騎士団の仲間がいれば十分だった。


 だが、その考えは間違っていたのだ。


 私の安易な考え方が最終的に騎士団を破滅へと導いた。

 周りの国々は武力を行使し始め、その開かれた戦線に騎士団を放り込み、無理難題の任務つけさせ始めた。要は使い潰しだった。

 自分の物にならなければ、いっそのことつぶして使い物にならなくするといった考えだ。

 死地に向かうたびに仲間を、騎士団をすり減らしていった。

 そして、私も心をすり減らしていった。

 最後には私がこの事態を招いたのだと、自分を責めるようになっていった。

 最後の旧知の騎士が死んだ頃には周りは誰も知らない騎士ばかりになっていた。

 そんな時に、私は連戦の敗戦の責任を取らされる形で、騎士を解任され処刑されることとなった。

 もう、仲間の元へ行けると思っていた矢先のことだった。

 乾いた丸太に縛られ、乾いた枝木に囲まれた私のところに、一人の男が現れた。

 それは黒衣に身を包んだ男だった。

 さっそうと現れては役人どもを完膚なきまでに論破し、逆上した役人が兵を差し向け、処刑場は大混乱となった。彼は私の元へと来た。自分の物となれと告げてきた。そして、私の中にあった生きる活力を再炎させた。

「……貴様ら、国につかえる兵士よ。お前たちはなぜ、そちら側に立っているのだ」

 私は問いかけた。

「何も罪のない少女が、ただ生きたいと泣いている。それを貴様らは何ともおもわないのかぁ!」

 私の一喝に兵士の中に動揺が広がる。そうか、迷っているのだ。自分のしていることが正しいことなのか。それならば、まだ救いはある。

「なら、私が貴様らを止めて見せる。引き返すことができるうちに」

 銀色の長槍を上段に構える。私の周りにある空気が震え始める。そして次第にこぶし大の水の塊が出現し、長槍の周りを周り始める。

 私の体内に眠る微力の魔法をこの長槍が増幅させるのだ・

「少し頭を冷やすといい」

 私はその場で大きな掛け声とともに、長槍を大きく前に突き出した。すると槍にまとわりついていた水塊が前方へと射出される。

 螺旋状に回転するそれは多くの兵士を兵士を巻き込みながらも、止まる勢いがない。

 数刻もしないうちに、私の目の前にあった兵士の塊には風穴があけられていた。

 被弾を受けたものは大きく後方に吹き飛ばされ、その誰もがうめき声をあげていた。

 被弾を免れたものもその光景にそこから動くことができなかった。

「やっるねぇ~。ジュリアちゃん」

 黒衣を着た馬鹿がにやにやとしながらこっちを見ている。

 この者を見るたびに、はらわたが煮えくり返りそうになる。

 もどかしいのだ。

 昔の自分を見ているようで。さらに自らの行いを悪だと決めつけている。何か悪に対して思うものがあるかもしれない。

 しかし、私ではどうしてやることもできない。この苛立ちは裏を返せば何もできない、何もしてやることのできない自分へのいらだちである。

 それから私は彼と距離を置くことにした。自分の心を見つめなおすためにも今はジャスティのところに身を寄せている。

「冷やかす暇があるならば先へ進め」

 私はとにかく、不器用だ。おそらく、彼の近くにいては彼という存在にきっと引っ張られてしまう。そして、見えるものは見えない。見なくてはいけないところを見てあげられない。私はそう思うのだ。

 だから私は、彼と距離を置き、しかし、いつでも手を差し伸べられる距離にいる。

 それが彼に助けられた、救われた私のできることだと思う。

 私はただ、誰かを助けるために、遠ざかっていくその背中を見つめていた。



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