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処刑台上の詐欺師  作者: 十参乃竜雨
第三章、『それは突然に……』
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殺戮兵器の名前の由来


「さておっさん、その兵器について教えてもらおうか、どう見てもそのでっかい機械は敵の軍隊だけを吹っ飛ばすものではないよな」

 俺はジュリアが正規兵たちを全員引きつけているあいだに勝負に出た。

「そうだな。街一個でも吹っ飛ばすような威力でもありそうだな」

 その声を聞いたコルダイクは口の端をかすかに歪めた。頭に血が上った相手は相手しやすい。情報が引き出しやすい。

「敵国であろうが無実の民を傷つけるのはいささか非人道的ではないか」

 大陸のいたるところで戦争が繰り広げられている昨今だが、ルールは少なからず存在している。

「そうであろうな」

 今まで黙っていたコルダイクが口を開ける。

「しかし、この圧倒的な兵器が戦争を終結させるのだ。これから流されるであろう血のことを考えれば安いものだ」

 この巨大兵器の『イデアール』を使い街一個を地図から消えさせることができたのであれば、それは敵国のみならず、大陸中の国がその威力に恐れおののくだろう。それで戦争を集結させることも夢ではない。

 このコルダイクの意見に反対はしない。それも一つの手だからだ。この世の中に絶対というものが存在しない以上、そのやり方もありだ。

 しかし、この男には賛成できない。

「一つだけ聞こう」

 俺はまっすぐに相手の目を見る。

「その兵器の名前イデアとあるな。その由来について興味がある」

 その言葉にコルダイクは今日一番の顔の歪みを見せる。

「物の名前に神や土地の名前をそのままつけたり、少し改変して付けることなんてよくあることだ。兵器や武器なんぞは特にだ。しかし神の名や土地の名に並んで多く付けられるものがある」

 顔を赤くしていくコルダイク。今度は怒りを隠そうともしていない。

「それは人の名前だ」

『イデアール』

 それは人の名前であることがわかる。なぜ分かるのか。それはもう調べてあるからだ。コルダイクの周辺を。

「…………話は変わるが、娘さんが『いた』ようだね」

 俺は一部を極端に強調して言う。その意図は相手側に正確に伝わったようだ。

「黙れぇぇぇえ!この小悪党がぁ!」

 周りの様子を気にすることもなく怒鳴りつける。完全に我を忘れた怒りだ。

 戦争終結という正義を掲げていたが、所詮ちょっとした挑発で崩れるようなハリボテだったということだ。

「あなたにはイデアという娘さんが『いた』。そして奥さんも『いた』。同じ時期になくされていますね。それもあの禁忌のもととなった傭兵が起こした反乱によって」

 俺がしゃべっているあいだにも発狂したように喚き散らしていたが俺は気にすることもなく続ける。

「その戦地近くにあった村が虐殺にあったのは周知の事実。その中の被害者の中におっさんの奥さんと娘がいた」

 過去を強調した理由はそれだ。

「深い悲しみに陥った当時の大学の魔法研究員だったおっさんは知り合いを通し、軍へとあるひとつの提案を通した」

 それは魔法を研究していた者だからこそ出来たことなのかもしれない。

「魔法を燃料とした兵器の開発だ」

 当時魔法研究員だったコルダイクは魔法を農業などに利用できないかと考えており、器具などに魔法を付与できないかと考えていた。社会の貢献に活かそうとする立派なものであった。しかし、わかるように今までの研究の中身を器具ではなく兵器へと対象物を替え、提案したのだ。

「でもみんな魔法は微細なものしか使えない。そんなんじゃ大量破壊兵器はできっこない。そこでひとつの方法が出た」

 その答えは既に出てきている。

「人体から魔法エネルギーを抽出してそれをエネルギーにすることとした」

 処刑された者の死体が消えていたのはそれが原因。人体を燃料にしていたのだ。

「そもそもあんたの研究成果だと、少なからず人は皆魔法の素質があるんだってな。違いは表に具現化できるかできないかの違いだ」

 エネルギーを集めるためにミュウナの生まれ故郷である魔法の里が標的になったことはわかる。しかし、馬鹿な取締官が連行していった無実の罪を着せられた者達の燃料にされている。

 つまり魔法が使えるか使えないかは別に関係ないのだ。魔法を使える者の方が実質魔法エネルギーを多く保有しているので兵器の燃料を貯めるのに効率が良いということだ。

 最終的には誰でもいいのだ。

「結局何が言いたいかというと…………」

 話が落ち着くところはもう決まっていた。この頃になるとコルダイクはわめき散らすのをやめていた。

「戦争終結なんて大義名分を掲げておきながら、貴様はただの私怨のためにこの国の大勢の者たちを燃料にして復讐を果たそうとしているのだ」

 俺のこの演説のおかげであたりは静まり返っていた。それはそうだろう。人体を燃料にしていたなどというおぞましい言葉が耳に入れば誰しも自分の耳を疑うだろう。

 その話を確かめるために静まる。雲雀とココアと争っていた下っ端の兵士は武器をあげることも忘れ聞いていた。

 もう動いているのは事情を知っているであろう正規兵たちとコルダイク、あとは黒側の人間たちだ。

「……ええい、もうよい、どうであろうが関係ない。全兵力でその魔女の小娘を引っ捕えろ!」

 静まり返った中でコルダイクはそう叫んだ。俺はこの声を聞いてほくそ笑んだ。

 この肯定の一言で俺は大義名分を得たのだ。

 今コルダイクの声しかしない今ならばある方法でその大義名分を大いに発揮できる。

 俺は己の左手の手袋に手をかけた。

 さぁ、ここからが俺の始まりだ。



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