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処刑台上の詐欺師  作者: 十参乃竜雨
第三章、『それは突然に……』
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イデアール


「さあて、おっさんよ、どうする、誰ひとりとして我を捉えようとする兵士が上がってこないのだが」

「取締官こいつを捕らえてから魔女をあの兵器のところに持っていけ。そしてこの場で兵器を起動させろ」

 もうべらべらと喋っちゃって、完全に開き直りやがった。まあ願ったり叶ったりだが。

 でもその一言で全てのパズルは解かれた。

 兵器、消えた遺骨、前線から送られてくる兵士、魔女に固執する点。その魔女を兵器のところへと連れて行く理由。

 謎解きの前にしなければならないことがある。目と鼻の先に取締官の集団がやってきていた。

「おい、貴様ら簡単に我が捕まえられると思っているのか?我は下で暴れている者たちの仲間なのだぞ?」

 取締官の動きが一様に悪くなる。それはそうだ。化物級の強さの奴らが部下なのだ。尻込みも当然だ。しかし、そんな中でひとりの男が出てきた。

「お前を捕らえてやる。このおれがぁ」

 いけ好かないあの魔法取締官だった。

 俺は奴がしゃべり終える前に床に投げ飛ばし、袖に隠してあったナイフの横っ腹で頬をペチぺチしてやった。

「誰が誰を捕らえるってって?よく聞こえるように言ってくれ」

 俺はそう言って蹴飛ばしてそいつをかえしてやった。

「で、だ、おっさん」

 俺はミュウナちゃんを鎖から開放した後に、目の前の男を睨みつける。

「禁忌のもとになった傭兵と今の貴様どっちが化物なんだろうなぁ!あぁ?答えてみろよ」

 その声に反応はなかった。もうなにも答えるつもりはないんだろう。

「裏切った傭兵が魔法を禁忌として魔法を使えるものを大量に処刑した。そしてその中でも違う遺骨や、なくなった遺骨。そしてミュウナをさっき兵器に連れて行けといった。通常ならば死体を使う予定だったのだろう。それらが意味することはもう限られている」

 これが隠されていたものだ。

「貴様は魔法使いの死体を原料にして何の兵器を作ろうとしていたんだ」

「………………はははははははははははっはははははははははははっはははははは」

 急に笑い出した。気味が悪すぎる。

「君はすごい、もし君が私の部下なら私の右腕にしているところだよ。よくそこまでたどり着けたものだ」

「こちらの質問に答えろ」

 ごたくはもうどうでもいい。それより気になることがある。それほど機密にしていたものだ。たとえ嘘であろうともシラを切り通せばいいのだ。なのに開き直った。

 それが意味することは一つ。

 既にその兵器は完成したか、ほぼ完成したかのどちらかだろう。

 どちらにしても開き直っても良い状態にあるのは確かだ。つまり、ミュウナが最後の材料であるのかもしれない。

「君の言うとおりだよ。既にこの地下に兵器を仕込ませている。そしてその砲台は既にある国に照準を合わしている」

 ある国とはその時点で二択に絞られる。今この国と戦争中の国は二つ。しかし、その一つとは事実上休戦状態。そうなれば答えは一つだ。

「ロクエンス共和国だな」

「その通りだ」

 ロクエンス共和国。この国は今もこのロバトニルス国と戦争を行っている。そしてあさからぬ因縁がある。

「禁忌の元となった傭兵が裏切って身を寄せた国だな。

「ああ、その通りだ」

 そして、この国の北側の村々を焼き払い、虐殺を行った国でもある。

「さて」

 そう言うとコルダイクは仮説の処刑台を降り始めた。俺は追いかけようとするが兵士が牽制し始めたためにそれはかなわなかった。

「では広範囲威力砲イデアールの設置を始めろ!」

 その言葉とともに処刑台が揺れ始めた。処刑台が崩壊を始めたのだ。俺はミュウナを肩に担いでその処刑台から飛び降りる。

 普通であれば十数メートルあろう処刑台から飛び降りればただでは済まない。そして落下寸前のところで縄が網目のように貼りめぐされ、俺とミュウナを受け止めてくれた。

 ココアは手間をかけさせるならハムをくれと言いたげな目で見てきている。

「よくやったココア。ハムを十人前やる」

 その声を聞いたココアは軽い足取りでまた喧騒の中に身を投じるのであった。

 そうしているあいだにも完全に処刑台が崩壊した。そして新たにその下から砲台が姿を表した。敵国に向いてあろうその砲身は大人が何人はいるのか考えてしまいそうに巨大なものだった。そしてその麓のところには大掛かりな装置が備え付けられていた。

「なんとしてでもその魔女を取り押さえるのだ。それでこのイデアールは完成する」

 今まで喧騒の中に入って言ってなかった正規兵(警備のためにいた兵士ではなく、最前線で戦っていたであろう兵士たち)が俺のところへ向かってくる。

 もちろんの目当ては彼らにとっての材料であるミュウナである。

 雲雀やココアは他の兵士たちにかかりっきりである。そして、リーアはこっちに来れたしてもこの数を相手にできるほどの戦闘力はない。

 もちろん、俺はこんな屈強のムサイ男どもを相手にできるほどの力量はない。

 でも俺は心臓を躍らせるように慌ててはいない。

 これは『想定の範囲内』だ。

 その時だった。

 雨も降ってもいないのに俺の隣で水の竜巻がその正規兵に向かって飛んでいく。かなり強い圧力で飛んでいった水の塊だ。その先にいた者たちは簡単に薙ぎ払われていく。

「いやいや、ありがとさん。ジュリアちゃん」

「貴様のためにやったのではない。調子に乗るな」

 そこにいたのは鎧に身を固めたマイエンジェルのジュリアちゃんであった。手には俺を何回も突き刺そうとしていた槍が握られている。


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