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処刑台上の詐欺師  作者: 十参乃竜雨
第一章 『とある宿でのとある一味のドタバタ』
3/44

滞在一日目(1)

 早朝。

「おーい。腐れ外道。おきろ~。朝だ~。お、き、ろ」

 黒はう~んと唸るが、全く起きる気配はない。リーアが思いっきり頭をふんづけている。奇妙な光景ができ上っている。

「仕事が終わったばかりなんだから今日ぐらいは寝かせてくれよ~」

 休日の父親みたいなことを言う黒。それに対して、リーアは次の手に出る。

「ココアたーん、カモン」

「…………ヤー」

 扉の向こうから返事が飛んでくる。

そもそも宿屋兼食堂『ノラネコのタンゴ』は一階の部分が食堂で、二階は吹き抜けとなっており、そこに個室が八室ある。また少し裏手にある家に宿屋専用の家がある。そこに十七部屋ある。意外と充実している。でも案の定、カジノ付の巨大宿泊施設が出来たので閑古鳥が毎日鳴いている。よって黒達一行は一人一部屋を使っている。

 ちなみにココアは食堂で朝食をとっている。

「それだったらハム一〇人前でどうだ」

「…………ムー」

 ココアが考える声を出した。リーアはたたみかける。

「フフフ、ロックエンド産の特上ハム。ココアたんの為に用意したこれでどうだ」

 その直後階段を駆け上がる音がする。その数秒もしないうちにリーアが黒の頭を踏んでいる部屋に褐色の顔が現れる。無理もない、ロックエンド公国は畜産が大変盛んな国である。前にロックエンド産とつくだけで値段が跳ね上がるほどのブランド力だ。

 なけなしのリーアの給金でやっとの思いで買ったものである。

「…………リーア、何でも言って」

 その声を聞いて感極まった涙ぐんだ眼でリーアはうんうんとうなずく。

「ココアたんが私の名を呼ぶなんて、なんてレアボイス。もう私の生涯に一片のくいなし」

「…………早く、早く」

 ココアはリーアの裾を引っ張ってせかす。

「あ、ココアたんのロープで、この外道を生きていくのつらいと思うくらいに縛り上げて」

「…………アイアイサー」

 数秒後にはエビぞリでつるしあげられた黒が完成した。

「おいおい、朝からハードだな、おい」

 ロープが食い込む痛さで完全に覚醒する黒。

「俺は、受けより責め専門なんだが」

「うるせぇえええええ、外道、黙ってろぉおおおおお。ココアたんの教育にわりぃんだよ」

 蹴飛ばして、くるくるとまわし始める黒。

「あ、や、やめ」

 回されることによって余計にロープが閉められる。

「と、とりあえず、こんな朝早くになんのようだ」

「ちょいと昼まで面貸せ」

 この一言で黒は何を頼みに来たのか分かった。了解とうなずく黒。

 それを見て首をかしげる。

「ココアたん」

「…………なに」

「厨房のマーサおじさんに話しは通してあるから特上ハム食べておいで」

「…………アイアイサー」

 その場を素早く離れて行くココア。姿が見えなくなった瞬間その場に崩れ去るリーア。

「う、うっ、この手で一枚一枚ココアたんを餌づけしようと思っていたのに……」

「てめぇの教育は間違ってると思うんだが」

「……なにか言った」

 おそらく首が飛んじゃうだろうから、黒は黙っておいた。

「取引はどこでするんだ」

「ここから西に七キロ言った所だよ」

「ああ、あそこなら、なんも問題はないだろうなぁ」

 この国は比較的治安もよく、警察などの治安維持組織も十分に機能している。しかし、それでも裏で動いているものはいる。戦乱の世の中だからだ。

 西に七キロ行った先には森がある。取引をするにはうってつけの場所だった。

「なんで俺が必要なんだ」

「ああ、取引相手なんだが、、相手が女だとなめてかかってくるみたい。もめたとき外道の口があればどうにかなるからな」

「それがこの仕打ちですか」

 男が空中でエビぞリで縛られているとても映像にしづらい絵図ら。それが誰かにものを頼む時の態度か。

「早く起きねぇ、外道が悪い」

「ここは眠り姫ならぬ眠り王子はキスで起こすものだと提案させてもらうが」

「はん、面白いこと言うねぇ~。サービスしてやろうか」

 明らかにからかいを含めた目でリーアは見る。

「むしろディープを希望で」

「殺されてぇか」

 二言目でこれである。黒はため息をつく。

「も~分かったから~、準備するから下ろしてくれ~」

 回転が止まったのだが、次は自然の力で逆回転が始まった。

「うぎゃ」

 口から出たのは、ロープがナイフで切られてベッドに落ちた悲鳴だった。



「小僧てめぇなんて言ったぁ!」

 これだからバカは嫌いである。二言目には暴力を持ちだしてくる。顔に大きな傷を持った男が俺の胸ぐらを掴んでガンをつけてくる。

 怖くもなんともない。こんなことに恐れを抱いていたら処刑場荒らしなんてやってない。

「我はバカといったのだ」

「コノクソヤロオオオオオオ」

 俺は殴り飛ばされた。いてぇ。案外力任せに殴られた。これだからゴロツキは嫌いだ。

 俺は飛ばされて、地面に倒れる。しかし、計算したこと。

「はは、あはははっははははっははあははっははぁぁぁあはははははっははは」

 狂ったように笑ってみせる。相手より優位にたって取引をする際は相手の心理をつくことだ。そのためには相手の精神面を攻撃する。

 相手の顔に、わずかだが恐怖の色を浮かべる。どうやら効果があったようだ。

「だからキサマはバカだと言ったのだ。キサマは我に暴力を振るったな」

「そ、それが何だって言うんだ」

「先ほどの行為をもって、我らの組織はキサマのグループが宣誓布告したものとみなす。我らの組織が一方的な虐殺をすることになろうがな」

 あきらかに目が泳ぎ出した。コイツは少し裏の世界で顔の聞く男だ。でも、あくまで少しだ。いつでも切り捨てられるような人間であることに変わりはない。

 そんな男が抗争の引き金を引いてしまったとなれば彼の組織での地位が危ぶまれる。

「……テメェらなんかうちの組織に勝てるとでも思ってんのか」

 あーあ、無理しちゃって。リーアが俺を必要だと言ってくるから、どんだけ手ごたえのある奴だと思ったが大したことがない。さっさと、終わらせよう。

 俺は仕上げにかかる。

「ミス・アップル」

 俺はリーアの事をそう呼んだ。本名を晒すわけにはいかないのでもちろん偽名だ。

 それを聞いた彼女は当初言っていた通りに動いてくれた。彼女は片手を指定した大木に向けた。何をするんだという目で目の前の男がこちらを見てくる。

 次の瞬間だった。

 大きな轟音と共に大木から大きな火柱が巻きあがる。火に焼かれ、大木は激しい悲鳴を上げ始める。数秒もしないうちに大木は真っ黒な姿となり死に絶えた。

 それを見た男は尻もちをついた。なんと情けない格好。先程の勢いはどこに行った。

「手始めにキサマをまるこげにしてキサマのアジトに送るとしようか。我の綺麗な顔を殴ったのだ。苦しむように念入りに焼いてやれ。ミス・アップル」

「はい」

「ひひいいぁああ、俺が悪かったぁぁあ、何でもするから許してくれッレえれええええッ」

 泣きべそをかきながら懇願してきた。実につまらん。もう逆にとことんいじめてどんな反応をするか楽しもうか。おうおうマイレディが『早く終わらせねぇとキサマの方を先に焼くぞ』という目でこっちを見てきた。

「ほう、何でもするのか」

「はいィイイイ!なんでもいたします」

「当初の予定の品以外にも色をつけてくれるか。我らも安い給料で働かされて困っている」

 いわゆる恐喝だ。横流しをして自分の利益にするから余分によこせと言っているのだ。

「ハイイ、分かりましたぁっぁあ。もう荷物全てあげ、あげますから、御命だけわぁぁあ」

 滑稽、滑稽。近くにある馬車を見る。中には予定の品以外にも多くの木箱が存在した。

「見かけによらず、太っ腹だな。分かった。今回は何にもなかったことにしよう」

 俺はそう言って男の肩をポンポンと叩く。そして、最後のとどめを俺は放つ。

「そうと決まれば、さっさと失せろ、クズがぁ」

 最も悪っぽい声でそう脅してみた。そうすると腰が抜けた様子で逃げ去っていく。

 姿が完全に見えなくなった後で俺は肩の力を抜く。

「さぁさぁ、戦利品の確認だぁ……いたぁ」

「やりすぎだ、バカ」

「ゲンコツしたね、オカンにもゲンコツ食らった事ないのに!いたぁ」

 もうやめておこう。容赦がなくなってきた。次はあとの日に残るやつを食らいそうだ。

「さぁ、馬車も置いてったことだし、まずはここから離れるよ」

 奴の仲間が来ないとも限らないからだろう。

「りょーかい」

 俺はそう言って馬車に乗り込み、移動を始める。

 そんなにもしないうちに湖畔に着いた。物静かな雰囲気のそこに小さな家が建っていた。

「さぁ、マイハニー。僕たちの愛の巣についたよ……うぎゃぁ」

 悲鳴を上げてしまった。だって馬に使う鞭で叩いてきたのだから。そういうプレイは好きじゃないんだけどな。

「黙ってこれらを家に運び入れろ」

「……あいあいさー」

 ココアの真似をしてみた。そもそもこんな返事をするようになったのはリーアのせいなのだが。可愛いから教えたとか、どんだけロリコンなんだよ。

 そう思いながらも俺は木箱に手を伸ばす。……うん、重い。

「我は台車を激しく所望する」

「だらしないなー」

 そういって軽々木箱を一つ持ち上げる。マイレディ。

「箸より重いもの……」

「そんな言いわけが私に通用すると思うなよ」

「……あいあいさー」

 そして数秒のち。

「……まあ、あそこに台車あるから使ったら」

 なんだかんだいって根は優しいんだからな。噂のツンデレだな。俺の大好物……。

「いてぇ。何するんだ」

「なんか失礼なこと考えただろ」

 リーアが俺の足を踏んできた。最近思うのだが、リーアは俺限定で心を読む魔法を会得したのではないかと思う。いや、これは愛のなせる……。

「ふぎゃあ」

 今度は無言で小指をピンポイントで踏んできた。もう、おませ…………。

 うん、やめておこう。目がまじだ。リアルに焼かれる。



 台車を持ってきて荷物運びを開始する。目的地の家に着くまで時間はかからなかった。

 この家は表向きでは商人の避暑地となっているが、本来は、リーアのアジトの一つ。

 彼女は今は亡き国の王女だった。言われなき反乱が起き、没落した。血族は大半、反乱の時に殺され、それでも生き残った者は彼女以外全てを処刑された。彼女の目の前で。

 そして、彼女が処刑されそうになった時、俺が乱入して救いだした。それが俺の初めての処刑台荒らしだった。よって宿にいる者の中では一番付き合いが古い。

「さぁ、これからやることも手伝ってくれるよな」

「…………あいあいさー」

 この返事がマイブームになりつつある。いかん、この俺が女の尻に敷かれるなど……。

「ほら、変なこと考える暇があったら手を動かす」

 そう言いながら彼女は木箱を開け始める。これからやることは木箱の中身の検品だ。

 ちなみに中身は取引相手から分かる様に、盗品である。

 なぜ盗品を集めているかと言えば、理由は一つ。

 反乱によって奪われ、売られた遺品を捜している。

「それよりさ~、あんな作戦がうまく言ったの?」

 彼女は検品の手を休めることなく言った。あの作戦とは言うまでもなく、交渉の時のだ

「簡単、簡単すぎちゃうよ~。事前にリーアちゃんの情報があったからね~」

「アンタに売ったっけ?そんなこと」

 彼女は盗品を得るために情報を売っている。彼女は自分をしたってくれる元臣下を全国に配置して様々の情報を仕入れている。そして、取引の際、相手にって重要な情報を売る。今回の盗賊に対してはその周辺の盗賊の規模、全てのアジトの位置、弱点等々の情報を売った。そのおかげで、かなりの盗品を得る事ができた。

「ははは、女相手だと調子に乗ると聞いただけでも十分だよ。そんな奴は人を見た目で判断する。そして、力の強い者にはとことん従順になる」

「だから、アレなのね」

 そうそう、早めに起こされたのはいいけど、取引までにだいぶ時間があったので一計を投じてみた。そのアレと言うのは、あの燃やした木に油をたっぷりとしみ込ましたことだ。

 だから、大きな火柱が立ったわけである。もし、あそこほどの魔法が扱えるとなると、どこの軍でもすぐに将となれるだろう。

「そうそう、だから作った力でも見せ付けて相手を思い通りにしちゃったわけ」

「へ~、そうなんだ。でもじゃあ、料金のほう貰わないとね」

「ふふふ、じゃあ、俺の体を使って払おう」

「じゃあ、これ運んで」

 見終わった盗品の箱を俺に押し付ける。つまり、労働という対価を体で払えということですね~。別の意味で言ったのに。俺は渋々奥の部屋へと運んで行く。ベッドも何もない部屋だった。おそらく盗品も数日中に売り払われるので、またこの部屋は空っぽになる。

 俺が運び終えて戻ってくるとリーアから俺に話しかけてきた。

「一様言っておくけど、許したわけではないから」

 冷たい声であった。

「ああ、分かってるよ」

 分かっていた。これは彼女との出会い、彼女の処刑の時の事を言っているのは分かっていた。俺は初めからその現場にいた。だから、俺は彼女の母が何十分もかけ殴り殺されるという処刑を見て、泣きながら絞首刑にかかった彼女の妹をみた。また、牛に両足を引かれるという股裂きの刑にあっている彼女の姉も見た。

 そのときの聴衆の興奮を忘れない。

 人はバカだ。

 真実という名の嘘情報に踊らされる人間の愚かで醜かった。

 殴られ続ける一人の母に罵声をぶつける聴衆。絞首後の姿を嘲り笑う聴衆。四肢の一部がとれのたうちまわる姿を見て笑う聴衆。

 そのとき俺は笑った。人間は何てバカなんだとその時気付いたからだ。

 そしてさらに気付いた。

 嘘を押しとおし、真実に出来る力があればこの世の中を支配できると。

 それに気付いた自分は興奮した。

 そして、また気付いた。自分もバカの一人なのだと。

 だから俺はもう一人の数々の処刑を目の前で見せ続けられて壊れた王族が最後に切り刻まれそうになった時、俺は聴衆から躍り出た。

 なぜ、もっと早く助けてくれなかったのだ。

 そう、恨まれるのは当然だ。当然なことなのだ。でも……。

「我には関係ない」

 愚かであるからこそ言う。

「我には野望がある。野望を達成させるためなら、どんな手段でも使う。それと忘れるな」

 俺は目の前の元王族の者に対して指をさす。

「キサマも我の野望の一部だ。キサマの意思など関係ない」

「ふん、言ってくれるじゃない」

 俺の言葉を聞いて鼻で笑う。

「アンタがアタシに話したその野望ははたして実現するのかしら」

「ああ、実現させるよ」

 それを聞いた彼女は鼻で笑う。

「本当に実現するなら、私の体でも何でもアンタに捧げてあげるわ」

「ほうほう、子どもは何人ほし……ふごぉ」

 鳩尾に盗品を投げてぶつけられる。リアルに硬いものだから痛い。

「考えている暇があったら、手を動かす」

「……あいあいさー」

 少しくらい真面目に探してみるかと思い作業に移った。



「これで最後か」

「……………………」

 俺とリーアの目の前には一つの木箱しかなかった。時間をかけてリーアの親族の遺品を捜していたわけだがなかった。今までの時間と労力を考えれば、黙ってしまうのも仕方がないことだろう。俺は木箱を開けた。

「ネックレスの類か」

 小さな小物がたくさん詰められていた。

「…………あるとするなら母と姉や妹の貴金属かな」

 これに関しては正直リーアの記憶のみが頼りだ。

 普通の美術品などは案外絶対数が少ないのだから分かりやすい。しかし、そういった小物は数が多い。同じ者だとしてもそれが遺品であると断定できない場合がある。

「手あたり次第並べてくれる?リンスレットってサインのある奴が当たりだから」

「リンスレット?」

 なぜサインがあるのだろうか。

「私の妹の名前。あの子、自分の物に名前を書くのが好きだったから」

 すごく乾いた笑顔だった。その笑顔を見ていたたまれなくなる。

 このようなリーアを見たことはなかった。

 常に俺を小馬鹿にするか、罵倒する彼女をよく見ていた。そもそも、盗品の検品なんぞ今までに手伝った事はなかった。いや、手伝わせてはくれなかった。ここの家を管理しているリーアの部下も手伝うことはなかったらしい。

 自分の弱い所を見られるのが嫌なのだろう。

「……私がさ、ココアたんを愛でる理由はさ、似てるんだよね~。妹と。もちろん外見は似ても似つかないけどさ」

 それもそうだろう。褐色の肌に銀色の髪だ。リーアの妹と外見は似ることはない。

「なんか、危なっかしい所が。王女なのに、勉学などより、外を駆けているのが好きな妹だった。からかうとさこう頬っぺたを膨らませるんだ。だからいつも姉様といじめてた。それをお母様とお父様は笑いながら私たちを諫めてくれた」

 俺は一言も発することはしない。しかし、しっかりと耳は傾けている。

「だから、私は思い出が欲しいんだ。もう絶対に戻ってこない思い出だから」

 ここはなにか慰めの言葉でも掛けるべきだろう。しかし、俺にはそんな資格はない。受け止めることしかできない。

それに彼女は復讐することすらできない。

その王家一族の半年後、嘘の情報を流し反乱を促した新王家の者達は同じように処刑された。復讐相手はとっくの昔に死に絶えた。

だから、彼女は俺に話す。ぶつける相手が、その記憶を共有できる者が、俺しかいない。

「でも、しつこく探しても、見つからない、最近バカらしいなって思えて来てんだよね」

「バカだな貴様は」

 俺ははっきりと言ってやった。

「手」

「なっ」

 俺は無理矢理左手を引っ張り出した。その薬指にそこにあった指輪をつけさせた。

「我は気の強い女を屈服させる方が趣味だ。だからそれでも付けて元気を出せ」

 そうとだけ言って俺は黙々と作業を続ける。

「……バカ、黙れ外道」

 優しくそう言ってきて彼女も自分の作業に入ろうと指輪に手をかける。

「え、ちょ」

 驚きの声を上げる。その声を聞いた俺も彼女の方を向く。

 彼女は自分の手から指輪を外す。そして指輪の内側を確認する。

「…………ウソ。うそでしょ」

 口を押さえるリーア。目には涙を浮かべている。

「おい、どうしたんだよ。なにが……」

「ありがとう。アンタは本当に」

 指輪を優しく両手で包み、自分の胸に当てうつむいた。数秒後には顔をあげ言葉を紡ぐ。

「バカ外道だよ」

 潤んだ目で微笑んだ笑顔は何とも形容のしがたいものだった。

 それは周りにある高価な物よりも価値のあるものだった。


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