法と正義
「いやぁ、今日は豪華な食事にありつけそうだよ。ジュリア君」
「あの少し、よろしいですか?マスター」
「いやぁ、妻と娘にも食べさてやりたかったよ。コルダイク先生の奥様の手料理はとても美味しいんだよ」
「あの」
「よく肉に味がしみこんでいてね、あれは丁寧に時間をかけられている証拠だよ。それに奥様の性格が……」
「さしますよ、マスター」
「……なにかな、ジュリア君」
身の危険を感じ耳をかたむけたジャスティであった。
「なんで私がっこんなカッコをしなければならないのですか」
いつも鉄の鎧に身を包まれている彼女だが、今は布だけであった。綺麗なドレスを着ていた。
「なんか問題でもあるかい?」
「なんかこう、落ち着かないというか……」
ジュリアはスカートの裾を無意識に掴んでいた。いつもは防具をつけていて、プライベートでもスカートを着ずに生活していた。
まったく縁のなかったを身に着け、彼女はいつもの落ち着きがなかった。
「そりゃ、僕の先生とはいえ、国の要人の人の晩餐にお呼ばれするんだ。武装していってどうするの?」
「それなら、私は護衛として外で……」
「言っておくけど、僕の護衛とはいえ君も招待されたんだから断ったら失礼だよ」
「ううっ……」
珍しく弱々しい声を上げるジュリア。
「それにこの際だからプライベートはスカートを履いて女の子らしくしたらどうだい?黒君も振り向いてくれるよ」
「なぜここでやつの名が……」
「そうしないと出遅れちゃうよー。だってさ黒君の周りにたくさん女の子いるし」
「いやだから……」
「……ナイスバディのリーア君、人形のように洗礼された美しさの雲雀君、将来有望なココア君。私は愛する妻がいるから大丈夫だけど、普通男がほっておかない女の子があんなにも彼の周りに。君も負けてはないんだから、そうやっておしゃれをすれば」
そろそろ槍が飛んでくるかもしれないと思ったジャスティは黙ってからジュリアを見る。
「……………………」
「おーい、ジュリア君」
彼女は顔を赤くして何かを考えているかのようにボーっとしていた。ジャスティはジュリアの前で手を振る。
「え、い、いや、こ、これはですね、デートというもの、を想像してなんかいな」
「いろいろと口から出ちゃってるよ、ジュリア君」
「はぅ」
今までにあげたことのない声を上げ再びフリーズするジュリア。
(これが黒君の前で出せるようになれば心強いんだけどなぁ)
黒の取り巻きの女性陣とはジュリアよりも先に知り合いになっているが、やはり長く時間を共にしている分、ジャスティはジュリアの味方に立っている。娘の次に可愛いとさえ彼は思っている。それはあくまでも親と子といった関係性のものだ。
(黒君意外と鈍感そうだから、ストレートに気持ちをつたえないとねー)
今現在、黒はジュリアを堅物でありそこがいいと感じている。あくまでそういう受け取り方をしているため相手の好意に全くと言って気づいているふりがない。
(しかし、そう思われていることが逆にチャンスなのに)
いわゆるギャップ責めである。
「さてと、時間に遅れそうだから急ごうか」
「わ、わかりました」
顔を赤くしながらもジュリアはジャスティの二歩後ろぐらいをついていく。
今は数日が経過し、魔女の裁判の日が明日に迫っていた。
「マスター、少しお話をよろしいでしょうか」
「それは真面目な話なのかな?」
「はい」
「じゃあ、聞こうかな」
少し歩くスピードを落とすジャスティ。
「彼女と私の違いはなんなのでしょうか」
彼女とは明日裁かれるミュウナのことだ。ジュリアも多少であるが、魔法を使える。
「君の正義感には感服するよ」
ジャスティは半分呆れたような声を上げて言った。
「あえて違いといえば国か……」
「国ですか」
「正確に言えば縛られている法律の違いだね。彼女は魔法が禁止されている国にいて、君は魔法を禁止されていない国に所属している。違いと言えばそれだね」
「しかし、今私はこの国にいる。それを考えれば、私を拘束しなくてもいいんですか?」
「ああ、君には言ってなかったね」
ジュリアの的確な言葉に動ずることなくジャスティは語る。
「ここと契約する際いくつかの条件を出し、承認された。その一つに、僕と君の二人はこの国の法律ではなく、私たちの国の法律を適用してもらうようにした」
つまり、この国でジュリアが魔法を使おうがその法律が適用されないので捕まえられないということだ。
「ちょっとの言葉の縛りだけで命に差ができてもよろしいのですか?」
「法律を言葉の縛りといったけど、とても重要なものなんだよ。人っていうのは全員が全員、君みたいな善人ではないんだよ。だから、何かの拘束力が必要だ。それが法律だ。それを破れば罰するといった規制だよ。そうして世の中の秩序は守られるべきだ」
「しかし、間違った法律で罰せられても良いと思うのですか?」
「だからって、破っていい理由にはならない。そんなことが許されればそれこそ無秩序の世界になる。人が人を殺してもいいような戦いが簡単に起こってしまう」
「しかし」
「間違っているのならそれなりのやり方で法律を変えればいいんだよ。それなりのやり方でね」
「それなりのやり方ですか?」
「たとえば、民に選ばれた民の代表者が法律を作るとかね」
「民の代表者ですか」
「まぁ、想像しにくい話かもね。あくまで今の僕が描く理想でもあるしね。まだ構想段階だし」
これでこの話を終えようとした時だった。
「私に難しい話はわかりません。しかし、私は間違っていることを見逃すことはできません。私の意思に誓って」
「はは、若いね~。でもいいと思うよその考え。否定はしないよ」
でもと付け加える。
「どんなことがあろうと僕は自分の仕事を果たすよ。君は僕の護衛だが、当日好きにするといいよ。僕の護衛は兵士の人たちで事足りるだろうしね。自分の信じる道を信じる通りにやってみるといいよ」
ジャスティはそれだけ言うと静かに元のスピードに戻した。
ジュリアはその後ろ姿を見た。
「ありがとうございます」
ジュリアは慣れないかかとの高い靴でその背中を追いかけた。




