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処刑台上の詐欺師  作者: 十参乃竜雨
第三章、『それは突然に……』
23/44

魔女と牢をつなぐ鉄の輪っかと弁論士という仕事


「今日読んだのは他でもない君の仕事をしてもらおうと思ってな」

 嵐の日から一日経った昼過ぎ。ジャスティは護衛のジュリアを連れて役所に来ていた。

「ええ、巷ではもう噂が立っていましたから。魔女を捕まえたそうですね」

「ああ、あの嵐の中見つけてね」

 コルダイクは書類をジャスティに手渡す。ジャスティはその書類を丁寧に見ていく。

「取締官が昨日の昼に近くの山で魔法を使う所を見たということですね」

「ああ、そこにあるとおりだ」

 ジャスティは疑問に思う。なぜそんな時間にそんな場所にいたのか不思議である。

 しかし、それをこの場で聞くわけにはいかない。もし、それが間違いであっても、はぐらかされるであろうし、こちらに疑念を持たれるだけだろう。

 考えているうちに書類のすべてに目を通した。それを確認したコルダイクが口を開く。

「で、さっそくだが、魔女と面会してもらおうと思う。処刑執行の日は五日後と早い」

「わかりました」

「……ではこちらについて来てもらおう」

 二人は部屋を外へと出ていく。部屋の外にいたジュリアやコルダイク付きの兵士も合流し、四人で役所の地下に歩いていく。

「……ここに牢屋もあるんですね」

 ジャスティは一つの疑問をぶつけた。

「ここは昔王政時代に監獄として使っていた建物でね。戦時ということだから、防備の事も考えてここに役所を移してきたんだよ。で、魔法取締官は役所の人間だからね、とりしまった者はここで収容ってことになっている」

 たしかに、前々から役所にしてはあまりに頑強すぎると思っていたジャスティだった。

(もし、ここでジュリア君が魔法で暴れたらここに収容されちゃうね)

 自分のすぐ後ろを歩いているジュリアをチラ見して彼は思った。

(しかし、私がここを離れた十数年でここまでかわるものなんだね)

 ここは学術に励む者達の都市であった。その頃は魔法研究ももちろんされていた。しかし、魔法は禁忌とされ、忌み嫌われるものとなっている。だから疑問に思うのだった。

(たとえ禁忌とされるのはわかる。それなりの理由があるのだから)

 その魔法により、国防の危機とされたのだ。

 でも国民意識までしっかりと魔法を忌み嫌うものとして根付いているのには驚きはしかなかった。驚いたのはそれがたった十数年という短い間に根付いたのだ。

(その裏には何があるんだろうね~)

 ジャスティが思考をめぐらしている間に地下への石造りの階段を下りていた。

(でも、僕がすることは変わらない)

 ジャスティは自称『弁論士』の肩書を持って各地の政府をめぐっている。やることは犯罪人となっている者の罪を政府の代りに証明をしたり、逆に無罪を証明するために政府の敵となって戦ったりすることもある。

 今はどこの国でも裁判はその政府が独自に行っている。政府に権力が集中している。それに必ずしも間違っているというわけではない。

しかし、今はどこの国も戦時下ということもある。そのような非常事態には冤罪が生じてしまう。無実の罪の者が裁かれているのだ。最悪生命を絶たれている。

その様な世の中は間違っている、そう感じたジャスティは各国を回り一極集中ではなく、政府の権力から裁判権を分立させようとする運動を行っている。自らの正義を貫くために。

その一環で『弁論士』として各国の裁判に関わってきた。守る方でも責める方でも。

 信念だけでは活動もできないからだ。ある程度恩も売らないと制度を取り入れる国などほとんどいない。自分の身を削る様な物なのだから。

 最初のうちは門前払いが多かったが、少し名が売れてきてからは少し変わってきていた。

 そうしている間にも扉が開いた。

 昔の牢獄ということもあり、中はじめじめとした空気が肌に触れる。中は薄暗い。しかし、その環境は良くはないが、許容の範囲内だった。

「こやつが魔女だ」

 牢屋はいくつもあったがコルダイクの指差した先の牢屋にしか人影がなかった。先ほど言っていた事は確かなようで、ここは魔女と呼ばれるものの専用の牢屋であった。

 ジャスティは魔女の姿を観察した。

 魔女と言われた女は、灰色の囚人服を着ており、口には猿ぐつわをはめている。おそらく、彼女の魔法は口から呪文を述べて発生させるため、それが彼女に付けられている。

 まだ一日も経っていないこともあり、目に見えた衰弱はなかった。こういう場合に囚人の虐待があったりする。彼女のように禁忌を犯した者は特にその危険がある。しかし、その心配はなさそうに見えた。しかし、精神的な衰弱が見れる。

 それらの様子を見たジュリアは不快感を露わにした。正義感の強い彼女はそれを見て良い気分はしないのだろう。

「コルダイク先生、彼女に話を聞くので、席をはずして頂いても大丈夫でしょうか?」

 そういうと、コルダイクの後ろにいた兵士が前に出てきて言った。

「それは困ります。あなたは部外者でありますから、勝手なまねをされるのは……」

「部外者ですか。彼女の担当となるのはこの僕ですが。それでも無関係と言いはれますか君は。それを決めたのは君の上司に当たるコルダイク先生ですが」

「しかし、相手は魔女なんですよ。もしもの事があれば……」

「大丈夫です。そんなときの為に護衛の彼女がいますから。こんな戦乱の中の大陸を彼女一人の護衛で渡り歩けていますからね。あなたにそれができますか」

 戦乱の世の中ということもあり、この大陸では街の外は盗賊などがはびこっており、治安がかなり悪い。夜営などしようものなら必ずと言ってもいいほど盗賊に出くわす。

 それを考えれば、ジュリアはかなりの実力を持っている。

 その言葉に兵士は何も言うことができずに後ろに下がる。顔はどうも納得できない様子だった。そんな様子にコルダイクは笑う。

「君も変わらないな。普段は漂々としているが、議論の際は相手に一切の容赦もしない」

「そんなことはないですよ」

「では、私は他にやることがあるからこれで下がるとするよ。外でこの兵士を待たせておくから自由に事情聴取でもしておいてくれ」

 そういってコルダイクは兵士を連れて外へと出ていく。

「ジュリア君頼めるかい?」

「……了解しました」

 ジャスティの意図を理解したジュリアが牢屋の扉を開けて中の衰弱した女性の轡を外す。

「あなたには黙秘する権利があります。そのことによってあなたが不利になるということはありません」

「……はい?」

 一体何を聞かれたのか分からない様子だった。

(まぁ、しかたないですよね。こういったことをしている国はないですし。警戒心を解くにはちょうど良かったのかもしれないね)

「今回、あなたを裁く者として事情聴取にきましたジャスティという者です。あなたにいくつかの質問をさせて頂きます」

「……はい、分かりました」

 なにも抵抗することもなく肯定した女性。ジャスティはなにかあるとみた。

(……やけに素直。魔法を使えるだけで投獄されたのにかかわらず)

 こういう状況で反発する者をジャスティは幾度も見てきた。しかし、彼の目の前にいる女性はそうでもなかった。

(……しかし、ただ貴高いということではない様だね)

「私はこの国の人間ではありませんから、魔法に対してなんの偏見を持っていないつもりですので気兼ねなくお答えください」

 その一言を置いてジャスティは質問を始めた。

「まずは名前をお聞かせ下さい」

「……ミュウナ・クルエコットです」

「この国で禁止されている魔法を使ったということですね?」

「……はい。間違いありません」

「魔法は以前から使えていたのですか?」

「……小さい頃から使えていました」

「では、なぜ今になって使ったのですか」

 来たのは沈黙だった。これは黙秘ではなさそうだと感じた。

 それに資料の中に彼女が魔法を使用した時の状況が書かれてあったので、ある程度の事は察せた。

 しかし、資料に書いてあることだけがすべてではない。

「先ほど言ったように、私はこの国の人間ですから、あなたの発言で誰かに迷惑がかかるということはありません。軽い言葉ですが、あなたにそれを誓いましょう」

 ジャスティの一言にミュウナは彼の目を真っ直ぐに見る。しばらくしてから彼女はゆっくりと口を開く。

「私があそこで使っていなければ子どもたちの命は……。だから魔法を使ったことに後悔はしていません」

「子供達ですか?詳しくお願いします」

 そのことに関してジャスティが持つ報告書に載っていなかったことだった。

 すると、彼女は詳しく話し始める。あの嵐の日に孤児院の子達とピクニックへ行き、嵐にあった。そして、はぐれた子どもたちを探していると子どもたちが、崖の下にいた。

 嵐で地盤が緩くなった所に上から岩が落ちてきた。そこで魔法を使い、岩を大破させた。

(……そこに取締官がきて目撃したと、彼女が魔法を使うと目測をつけて付けていたか。いや、これはないね)

 あまりにも都合がよすぎるとジャスティは考えた。おそらく何かあると考えた。でも今の情報量では憶測にしかならないと考え、質問を再開する。

 その後もいくつかの質問をしていく。その一つ一つに黙秘することもなくミュウナは答えていく。ジャスティは彼女あとても誠実な人間であるという印象を受ける。

「では最後の質問になります」

 そう前置きを置く。数々の質問の答えを受けるうちに湧いた疑問だった。

「あなたはなぜ逃げなかったのですか。この国にいればいつかこうなることは分かっていたはずだ。その気になればいつでも逃げられたはずだね」

 この国で生まれた魔法を使える者の全てが処刑場送りになったわけではない。その大半は捕まらずに国外脱出をしている。そもそも魔法を禁忌としていること自体、類を見ないのだから、国境という見えない線から一歩さえ出れば安全なのだ。

「……そうでしょうね。外に行けばいくらでも助かることはできたでしょう。しかし、あなたは故郷を簡単に捨てられますか」

「…………………………」

 ジャスティは黙った。彼はそれでも故郷を捨てられる人間もいるだろうとは思った。しかし、彼女は誠実であるがゆえにそんな人間にはなれないと思った。

「…………今は地図にも載らないのですが、この街の近くに小さな小さな村がありました」

 ジャスティは自身の記憶を探る。

確か自分がこの街に留学していた時、コルダイク先生の魔法学の一環で村に訪問したことがあった。たしか、その村は特殊で、村人全員が魔法を使えていたはずだ。

そこでジャスティは気付く。

 今は当時と違い魔法を禁忌とされている。となれば、その村のたどる運命は……。

「大規模な魔女狩りにあって村が壊滅しました」

 予測した通りの答えが返ってきた。

「そのときの私は家の地下の樽の中に隠されて事なきを得ました。。両親も祖父も兄や妹達も友達も幼馴染も近所の親子も村長だって、全員いなくなりました。亡骸は故郷に帰ることもありませんでした。その亡骸がどうなったのかさえ分かりませんでした。私は、幼かったあの時の私は何もすることもできませんでした。そして、私は村の外でただ佇んでいました。誰かやってきて私を両親達のもとに連れて行ってくれないかとさえ思いました」

 彼女は関が崩壊したようにしゃべり始めた。ジャスティ達はただ聞くしかできなかった。

「そこに今はお亡くなりになった孤児院の院長が通りかかり私を拾って育ててくださいました。他の子達と同じように、とても大切に育ててくれました。あの村であったことや私が魔法を使えることを知った上で。そのうえで私の生まれた村の近くで、死んでいてもおかしくなかった私を拾って育ててくれた大切なこの土地を離れることはできるでしょうか。私にはそれはできません。状況は違うにしろ私と同じように孤児院に来た子達を見捨てることは私にはできません。この身が滅びることになっても」

 彼女は一筋の涙を流した。

「あ、あれ、おかしいですね。割り切ったはずなのに」

 それをきっかけに涙があふれ出してくる。今まで我慢をしてきたものがあふれ出てくる。その様子を見て何も声をかけることができない二人であった。

「後悔と言えば、魔法を使えることを黙っていた事ですかね。自分の親しい人達に。きっと嫌われてますよね。騙していたんですから。嫌われたって仕方ないですよね。それだけが後悔してます。悔やんでも悔やんでも、悔やんでもッ……」

 それ以上彼女は言葉を紡ぐことができなかった。数分間の冷たい沈黙の時間が流れる。そして、会話を終えたと見るや、ジャスティが口を開いた。

「………………それは残念ですね」

 ジャスティは無情にもその一言を言った。

「マスター!そんな言い方は」

「これにて質問を終了させて頂きます」

 そう言ったジャスティは牢屋を出ていく。ジュリアもそれに続いて出ていく。

そして部屋の扉が閉められた瞬間だった。

「マスター!あなたは、あなたという人は!」

 あなたという人は慈悲の心はないのですかと続いていただろう。

 しかし、自分のマスターの胸ぐらをつかみあげたその場には兵士もいる。

 ジュリアはわずかに残った理性で言葉を途中でつぐんだ。

「…………僕は僕の正義を貫くだけですよ。そのためには慈悲も同情心も何もかも入りません。彼女は罪人であるのに変わりはないですからね。……あのすみません」

「あ、はい、何でしょう」

 近くにいた兵士にジャスティは話しかける。

「聴取は終了したので、お願いします」

「わかりました」

 そういうと中の様子を見に兵士は中へと入っていった。牢屋の前の階段を上っていく。地下の牢屋へ行くにはこの階段を下りるしか道はない。その階段を上りきり、ジュリアに何も言わずにジャスティは人の気配のない廊下へと入っていった。そんなときだった。

「……そろそろ出てきてもいいですよ。ここなら大丈夫でしょう」

 暗闇の虚空へと喋り始めるジャスティ。ジュリアはそこに注目すると急に人影が現れた。

「ばれていたとはびっくりですね」

 その声は雲雀であった。いつもの着物ではなく、軽装だった。

「いや、君たちがきていることはわかっていたからね。賭けてみただけさ。元暗殺者の君ならこの役所簡単に忍び込めると思うし」

「そうですか」

 『弁論士』であるジャスティは『処刑場荒らし』である黒とたびたびぶつかり合うことがある。それも数回ではない。そのおかげでお互いのことはよく知っているのである。

「わざわざ出てきたということは何か話すことがあるんだろうね」

「ええ、その通りです」

 簡単な誘いに乗るほど雲雀もバカではない。そもそもこの接触も考えてのことである。

「その前に、これは黒君の考えかい?」

「いえ、わたくしの独断ですぅ」

「なら聞こうかな」

「この一件から手を引いてもらえませんか」

 単刀直入に雲雀はジャスティに聞く。それにジャスティは顔色を変えることもなく言う。

「答えはノーだね」

「もしくはここは見なかったことにして、彼女を助け出してもいいですか?」

「どんなことがあろうとノーだね」

「では力ずくでも?」

 殺気を放つ雲雀。体の心を凍えさせるような冷たい殺気だった。その殺気に身構えるジュリア。やはりジャスティの護衛。隠し持っていた短刀の柄を握る。

 ジュリアにとって、役所に入る前に没収された槍がないのが痛い。五寸刀を持つ雲雀に対して短刀では分が悪すぎる。しかし、ジャスティを兵士のところまで逃がす時間を稼ぐ自信はあった。自分の身を犠牲にしても。

「君はそれができるのかい、いや、できないね。できるわけがない」

 元暗殺者に強気に出るジャスティ。しばしの沈黙が流れる。

 そして、雲雀の方が先に動いた。

「ですねぇ。ここで私が動いてしまうと『主人』が怒りそうです。こんな結末も望んでいないでしょう」

 ジュリアは肌を突くような殺気がフト消えるのを感じた。そして自分の手に汗がついていることに気づく。

 自分の武の腕に自信を持っているが、雲雀のその次元が違うことを知る。しかし、ジュリアはなんとなくだがその理由がわかった。

 彼女は誰かを守るための武であり、彼女は誰かを傷つけるための武である。

 根本的なところから違っている。

「まだ裏では『主人』と呼んでいるのかい?黒君のことを」

「ええ、そうです」

 ジャスティは長い付き合いからその『主人』という言葉の真の意味を知っている。

「若い男と女はちゃんとした意味で向き合うべきだね。人生の先輩の考えとして」

「私は普通の『女』ではないですし」

「そんなこと言ったら黒君怒ると思うけどなぁ。君も黒君の野望の一つなんだし」

 傍で二人の会話を聞いていたジュリアはいくつか疑問に思う。

 雲雀の言葉の真意、黒の持つ野望の内容、そして特に、黒とジャスティの関係性だ。

 二人は幾度となく処刑場という彼らの戦場で戦ってきた。敵同士なのだ。しかし、彼らの関係は敵同士のものとは思えなかった。

 ジュリアがジャスティとともに行動していてわかったことだ。

 信頼しあっているとも思えてしまう。好敵手ということなのかもしれないが、本当のところは当人たち同志でしかわかりえないだろう。

 黒の昔をジャスティが知っていることもあるのかもしれない。

「では、必要な情報はすでに手に入れているので、私はこれでぇ」

「ああ、今度は処刑場だろうね。黒君によろしく言っておいて」

「ええ、わかりました」

 そう言って雲雀は暗闇に入っていき、消えていった。ジュリアは一息つく。そんな様子を見たジャスティが声をかける。

「いらぬ、心配を掛けたようだね」

「いえ、大丈夫です。マスター」

 しかし、初体験だった。ジュリアは自分の腕に自信を持っていた。どんな暴漢達に取り囲まれようとも、軍に取り囲まれようとも、どうにかできる腕を自負していた。

 だが、さっきの数秒間で死さえ覚悟した。そして彼女は思った。彼女は何者なのだと。

 今までは腕の立つ黒の護衛という程度の認識だった。でもそれとは思えないほどの身のこなしをしていたことにジュリアはわかった。対峙した者のみがわかることであった。

「彼女のことが気になるのかね?」

 首を黙って縦に振るジュリア。

「彼女も、いや、黒君の周りにいる彼女たちは君と同じだよ。黒君から処刑場から連れ出された人間だ。そして黒君の野望の一つであるんだよ」

 ジュリアもそうだったのだ。自分も一度処刑場の真ん中で縛り上げられたことがあった。

 理不尽といえば理不尽な刑であったと今になってジュリアを思う。

 しかし、彼女は理不尽という死を受け入れていた。自分の信念を貫くために。

 だが、そこに黒は乗り込んでジュリアを処刑台から彼女を連れ出した。そのときにその野望を聞いた。いや彼女は無理やり聞かされた。彼女は当時その言葉を聞いて相手が正気かどうかを疑ってしまった。目の前の人間をバカだとも思った。

「ジュリア君、一つ教訓を教えよう」

「なんでしょうか?」

「雲雀君の出身の東方の国々の言葉の中に『建前』って言葉があるんだよね。意味は表向きの考えって奴なんだけど。まぁ、つまりは、表に出ている言葉だけが真実でなはないんだよ。その言葉の裏に真実が隠されていたりするんだよ。わかるかい」

「……それは私をバカにされているのですか?」

 半分冗談で半分本気でジュリアはジャスティを睨む。

「いや、逆に君のいいところでもあるんだけどね。まっすぐで純真な君の心は。君を見ているとある人間を思い出すよ」

 ジュリアはジャスティの顔が何かを懐かしむ顔に変わるのがわかった。

「私は『星の勇者様』を見たことがある。会話したこともある。彼らのお供たちを交えて交流して衝撃を受けたよ。まっすぐな正義にね。あの時の僕は世界の現状を憂うことしかできなかった。でも彼らは違った。誰かを助けることに見返りなんて求めず、大小に関わらず、身の回りの困っている人達を助ける。あのときほど自分を恥じたことはないよ。自分は頭と口だけが達者で、行動する勇気を一欠けらも持ち合わせていなかった自分に」

 恥ずかしそうに頭をかくジャスティ。

「でも、真っ直ぐすぎることが問題なんだよ。強固そうに見えて実に脆く、敵を多く作る。今の混沌な世界に『星の勇者様』がいない理由もきっとそれだ。明確な理由を知っているわけではないけどね」

 それもそうだった。勇者様たちが一度救った世界が混沌な戦場となっている。時が経っているわけでもないのに現れないのは、死んだか、事情があり出てこれないの二択だ。

「ジュリア君、君を見ていると彼らを思い出すんだよ。だからまっすぐに生き過ぎないでほしい。彼らと同じ結末に至らないためにも」

「わかりました」

「それだよそれ、たまには反抗してくれてもいいんだよ。正直すぎる」

「……はぁ?」

「私の娘なんて今反抗期真っ只中なんだよ。4歳なんだよ、早すぎると思わないかい?」

「……そうですか」

「まぁ、それも親からしたらかわいいモンなんだけどね。まぁだからこそ」

 ここで真剣な顔に変わるジャスティ。

「私は自分の信念、正義を貫き通すよ。娘が住みやすいよりよい世の中を作るためにね」

「わかりました」

 ジュリアは思った。自分は勇気のない人間と自分のマスターは言った。今現在は違う。自分の正義を貫き通すために心を鬼にしている。これは勇気のない人間にはできない。

 黒に助けられたジュリアは他の女性たちとは違い彼と道を違うことを決意した。

 自分の貫く正義に反していることを黒を行っているからだ。

 そして、いまマスターの元で働いている。それは正解だったとあらためて思う。

「じゃあ、僕らも行こうか」

「了解しました」

 


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