永遠と感じてしまうほどの昔の話
対して時が立っていないのだが、永遠と感じてしまうほどの昔の話。そして夢の中。
「やっと終わったな」
「うん」
とある二人が夜空の綺麗な星の見える丘へと来ていた。
「悪の宰相も倒したんだよなぁ」
「うん、そうだね」
二人は大仕事を終えた後だった。世界を混沌としようとした計画をこの男女含めた五人が成し遂げたのだ。
「お前も雲の上の存在になってしまったな。俺は勇者のお供で一括りにされてるんだぞ」
「そんなことないよ。ボクなんて皆がいなかったらちっぽけな存在だし」
「バカかお前」
強気な男がはっきりといった。情け容赦など一切なかった。
「お前はな、正義だ。お前があの宰相、悪の組織を叩き潰した。他にもお前の腕だけで誘拐事件を解決し、盗賊団だって壊滅させた。身寄りのない俺をなんの才能ももたない俺を向かい入れてくれた。正義の二文字で表せそうなお前がちっぽけな存在なわけあるか」
「はは、ありがとう」
責められた方は褒められすぎたのかはにかみながら笑った。語気を強めた方もそれを見て鼻を赤くする。
「そういえばさ、さっきアカネに告られたって聞いたけど」
「ぶっ!な、なんでそれをしって」
「そうだったんだ。ここまでカマにかかるとは思わなかったよ」
しまったという顔をする。少し興奮したせいで冷静な判断ができなかったのだろう。
「ああ、そうだよ!」
観念したのか大きな声で言った。夜の丘の上のせいか声は良く通っている。
「そのときの話、聞かせてよ」
「しかたねぇな」
片方がしゃべり始めた。もう片方は真剣に耳を傾ける。
「ハハハ、君らしいね。君絶対、女の尻に敷かれるよ」
「うるせぇ」
「で、返事はどうするの?」
笑っていた顔が真剣な顔になる。
「さぁ」
「さぁって、もしかして他に好きな人でもいるのかい?」
「…………さぁな」
「いやいや、そこまでごまかさなくていいじゃないか。僕と君の仲じゃないか。それは正義じゃないよ」
そう言われた方は一つため息をついて言った。
「前々から言おうと思っていた事だが、軽々しく自分で『正義』って言葉使わない方がいいぞ。お前をべた褒めしていた俺が言えた話じゃないがな」
「ん、なんでだ?僕は自分の正義という信念にもとづいて……」
「さっきも言ったようにお前はまっすぐな正義だ。でもなそれは『まっすぐ』なだけで、『絶対』ではない。『絶対』的な物なんか世の中には稀だからな」
「んん?」
少し混乱してきたようだった。
「例えば、このコイン、お前はどっちが表だと思う?」
人の顔があり、その反対側にワシの刻印があるコインだった。
「確か、人の顔が表だったはずだけど」
「それは絶対か?」
「ムムム、確か、国王の顔だったからたしかだなはず……」
「それは万人に聞いても全員がはいと答えると思うか?」
「むむむ」
答えはNOだった。それをYESといえる人間はいないだろう。
「一人でもそれを裏と答える者がいれば、それは『絶対』ではなくなる」
「そんなのは詭弁だ」
負けた気がするのか抗議の声を上げる。
「まぁ、そうだろうな」
はっきりと肯定してしまったせいで唖然とする。
「結局のところ、何を言いたいかというと、正義は絶対のものではない。いつかその正義に裏切られる時が来るかもしれない。そのときに視野を狭くして、正義に妄信なんてしてたら立ち直れないって話だ」
「…………ん~、良くわかんないな」
「まぁ、いつか分かるときが来るだろうさ」
「君さ、同じ歳だよね。なんかものずごく失礼な気がするんだけど」
「俺の方がお前より大人なんだよ」
二人共笑いあった。
「…………まぁ、でもその心配はしなくてもいいかな」
「なんでだ?」
「だって、君は僕のそばからいなくなるなんてありえないから」
「はぁ、何て言った?」
逆に耳を疑った。いつまでも一緒に入れる訳ないだろう。
「ルクアナ姉やルギダックやアカネと君と僕の五人でさ暮らしていこうよ。いつまでも。そうすればさ、離れ離れにならないし。悪の宰相の野望を止めたんだ。これぐらいのワガママは良いんじゃないかな」
「おいおい、そうはいかないだろ」
「でも世界の危機が起きた時はまたこの五人でさ止めに行くんだ。だって散り散りになって面倒でしょ?だからさ、どこの誰か分からない女とくっつくよりか、君とアカネがくっついてくれる方が都合が良いわけさ」
勇者の言うことに目の前の男は考えた。勇者は多大な力を持っている。子供なのにだ。
そして、世界を救うという宿命を勝手に背負わされた。
そして、世界規模のプレッシャーを受け宿命を成し遂げた。
確かに多少の我がままは許されるだろう。いや、許されるべきだ。
「さっき言った通り、絶対はないだろう」
「うん、だけど……」
「できるだけ、みんなで暮らしていけるよう頑張っていこう」
「君……」
「まぁ、俺とアカネの件はなしだ」
「え~、良いカップルだと思うんだけどな」
「黙れ」
それからも夜の星空のきれいな夜空の丘の上で二人は語り合った。
それはそれは楽しく、暖かな空気の中で。