表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
処刑台上の詐欺師  作者: 十参乃竜雨
第二章 ロバトニルス国での出来事 ~宿屋にて~
17/44


「ああぁぁぁぁぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

 俺は飛び起きてしまった。原因は分かっていた。夢だ。悪夢だった。元から部屋の湿気が多いのに、寝汗を大量にかいてしまったので余計に酷い。

「まったく、目覚めが悪い」

 俺は誰もいない所に文句を言って起きる。こういう時は冷たい水でも飲んで目を覚ますに限る。ゆっくりと部屋を出て厨房の方へと行く。辺りはまだ少し暗いので早朝だろう。

 厨房のある部屋の扉を開けて入る。

「あ、おはようございます。お早いですね」

「…………はやいね~。ねむ」

 そこにはミュウナちゃんとアヤさんと呼ばれている女性がそこにいた。ミュウナちゃんは厨房の方でなにかの準備をしていた。一方アヤさんは机の方で眠たそうにしている。

「おはよう」

「どうしたんですか?」

「汗をかいたから水をもらおうかなっと思って」

「あ、それでしたら朝食も出しましょうか?」

「じゃあ、お願いしようかな」

「では、あちらの方で待っていてください」

 俺はアヤさんが突っ伏している机の方に向かい、椅子に座った。

「今日はなにかあるんですか?」

 俺はアヤさんに聞いてみた。厨房で何かを作っているのだが、朝食にしては量が多い。

「……子どもたちのピクニックだよ」

「ピクニックですか?」

 突っ伏した状態のまま顔だけをこっちに向け答えた。

「この時期に孤児院のみんなで近くの山へピクニックに行くんだよ。アタシらはその引率」

「楽しそうですね」

 皮肉などの他意のない言葉だった。ピクニックなど行ったことがなかった。そんな平和な行事を行えるような人生を送っていなかったからかもしれない。

「ならキミも行くか?」

 そう言ってくるということは信じてくれたのだろうか。完全な信頼はまだであろう。

「すいません、仕事等々探さなければなりませんから、ざんねんですが」

「そうかい」

 それだけ言うと机に突っ伏した。

 おそらく早起きが苦手なのか、俺を監視するためにずっと起きていたのかもしれない。

「どうぞ、ご飯です」

 お盆にのったトーストと水が俺の前に置かれる。

「それで、黒さんにお誘いがあるんですが」

「ピクニックの件かな?」

「あ、はい」

「ごめん、いろいろとしなければいけないから。子どもたちと遊べないのは残念だけど」

 もし、このままピクニックに行けば、リーアや雲雀のお仕置きコース。

「そうですか……」

 そこまで落ち込まれるとされるととても罪悪感が……。

「まだこの街にいるからさ、また次の機会にも」

「…………約束ですよ?」

 うわー、この上目遣い反則だって。、彼女は小指を差し出してきた。なんだこれ?

「約束して下さい」

「あ、それここに伝わる約束のおまじないだよ」

 さっきまで机に突っ伏していたアヤさんが机に頬杖をついてニヤ付いていた。明らかに面白そうにこっちを向いていた。

 詳しく聞けば、ここの地方に伝わる約束のおまじないで小指同士を絡ませて約束をするらしい。約束を破ってしまった際、酷い目にあうらしい。ミュウナの顔を見ていたら断れない。断ってしまったら罪悪感でこの身が滅んでしまいそうだった。

 俺はそのまま小指を差し出し彼女の小指に絡ませる。彼女の小指はとても細く、少しでも力を加えてしまえば折れてしまいそうだった。すこし小指がムズ痒い。

 彼女はなにかの呪文を唱え、終えると小指を離した。顔はほんのりと赤くなっている。

「少し早いですけど子ども達起こしてきますね」

 早足で彼女はこの場を抜け出した。俺は少し、唖然としていた。

「いや~青春だね~。お姉さんも恥ずかしくなってしまうよ~」

 俺はその声を無視して目の前の朝食をとり始めた。こう言うのは無視するに限る。

「ミュウナちゃんに気に入られたみたいだね~。あの子結構人見知りするタイプだし」

「そうなんですか?」

「ああ、あの子もここ出身だからね」

 こことは孤児院だ。両親がいないと聞いていたのでその可能性は考えていた。

「昔から私の親がここのボランティアをしていてね。私はよく遊びに来ていた」

 アヤさんが、昔の事を語り始めた。

「ある日、ミュウナはここに連れてこられた。気になった私は彼女の事を聞いても何も答えないのさ。自分の親の事さえも。記憶喪失というわけではないのに」

 アヤさんは続けて言う。

「誰も彼女の事をしらないんだ。でもよそから来た歳の近いアンタに興味を持ってくれることは喜ばしいことだよ」

 しかし、アヤさんの顔は暗かった。

「きっとこの国の人間には言えないことがある。つまり彼女は……。いやなんでもない」

 俺はこの先の言葉を聞こうとは思わなかった。ただ黙って朝食を口に運んでいく。

「彼女のお姉さんとしてお願いするよ」

 彼女の眼は真剣だった。

「彼女を頼むよ。外者のアンタだからできることがある。はた迷惑な話かもしれないが」

 昨日この街に来たばっかりなのに頼まれるとは確かに無茶なお願いかも知れない。でも何かと一生懸命な彼女を見ていたらそうも言えない。

「とりあえずは外の役人たちですか」

「そうだね」

 躊躇することもなく首を縦に振るアヤさん。

「こちらからもいろいろと調べておきますよ。仕事と関係しそうですら」

 俺の言葉を聞いてアヤさんは目を丸くする。

「アンタってさ何者なのさ」

「さぁ?」

 俺はそう言うと、目の前の朝食が冷めないように目の前に集中した。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ