二つの影
「いやー、ここはいつ来ても変わってない……って変わってるね~。荒んだ感じになってるな~。私は悲しいよ~。ねぇジュリア君」
ちょうどミュウナ達とすれ違った所でスーツの男性はそう言った。歳は三〇ぐらい。
「…………そうですか」
ジュリアと呼ばれた女性の方は淡々といった。兜についている少し大きな羽が風でゆらりゆらりと揺れていた。
「昔、ここはね学術に優れた国だったんだよ。ここに私は一時期留学してたんだよ。今は魔女狩りなんて非科学的なことをする国になってしまったけどね~」
「…………そうですか」
あくまでも興味がないようだった。あくまで子のスーツの護衛ということであろうか。
「毎回思うんだけど、ジュリア君もうちょっと愛想良くした方が良いよ~」
「…………そうですか」
いつもの返しで苦笑いをした男。
「それだから、彼にいじられるんだよ。良いようにね」
「…………か、黒は関係ない。あの外道など」
「まだ、私は名前を言ってないんだけどねぇ」
女はしまったという顔をした。一方スーツの男は微笑んでいる。
「君も愛想良くした方が綺麗だよ。そのほうが、黒君は君の虜になるよ。まぁ、私の妻ほどではないがね」
「だから、あの者とは関係ない!」
白い肌が朱色に染まる。
「そうか残念だな~。彼ここにくるみたいだけどね~」
そう言った瞬間に反応があった。
「アハハハ、それはとっても良いですね。とってもいいです。殺ってもいいですか?」
「ジュ、ジュリア君?」
目に光のない状態でいうものだから男はたじろいだ。
「フフフ、あのスケベ男を我が槍の錆びにしてくれる」
「あの~。ジュリア君、君は洗礼を受けた騎士なんだよね、ねぇ、そうなんだよね~」
最近それが信じられなくなってきたスーツの男であった。
「まぁ、楽しみなのは僕も一緒なんだけどね~」
「私は断じて楽しみではないィ!」
「あ~、分かったから、お願いだから、その槍をしまってくれるかな。いちようここ公衆の面前だし」
スーツの男は万歳をして降参して言った。
「それじゃあ、宿屋に向かおうか、ジュリア君」
「…………了解しました」
そんな一人の男と一人の従者の昼間のやり取りだった。
「ハックシュ!」
「どうしたの、外道」
「いや、すこし寒気が」
「さぁ、どこかの女が、アンタを殺そうと計画してんじゃないの」
「…………心当たりがありすぎて困るな」
「……外道、強がるな」
馬車で男一人と女三名が目的地へと進んで行く。