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処刑台上の詐欺師  作者: 十参乃竜雨
第二章 ロバトニルス国での出来事 ~宿屋にて~
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ロバトニルス国の道端にて


「ミュウナさんというのですか」

 私は肉屋までの道で小毬ちゃんと歩きながらしゃべっていた。

「小毬ちゃん、ミュウナでいいよ。さんってかしこまらなくても」

「ではでは、わたくしも小毬でいいのです。ちゃん付けは子供っぽいです。むむ、まさか」

 そう言って小毬ちゃ、小毬は頬を膨らませて言う。

「ミュウナも私が淑女だと、信じてくれないのですか」

 頬を膨らませる仕草自体子どもっぽいし、あと淑女を連発していると背伸びしているようにしか見えないんだけど。

「いや、信じてるよ、なんかうちの子たちと雰囲気が違うからね」

 正直、信じている理由はそこしかない。小毬が私の手を小さな両手で力強く掴んできた。

「ミュウナ!」

「は、はい、なんでしょう」

「あなたはとてもいい人です!」

 あまりにも大きな声を出すものだから周りの人の視線が痛い。

「初対面の人は私を淑女と認めてくれないです。この前なんか、軍の人に『迷子?親は?』とか言われますし、乗り物は常に子供料金です。すこしでもプロモーションがボインボインなら説得力があるのですが、証明することもできませんし。男の方も子どもだって相手にしてくれないですし、興味を持ってもらえる方はどうも偏った思考の持ち主みたいで」

「……あはははは」

 苦笑いしかできなかった。もう少し気が強くなければならないといけないと自分でも思う。優しいのではない気が弱いだけなのだ。

 もうちょっと女は気が強くなかったらいけないよ。私みたいに旦那を尻に引くくらいにね、と宿屋のおばさんがいつも私に口癖のようにいうのも私の性格のせいだろう。悪い男に引っ掛からないようにということらしい。

 一通り、しゃべり終わったのか、今までのうっぷんを出し切ったのか、顔はすがすがしい顔をしていた。

「……ところでですが」

「ん、どうしたの」

「先ほどの子ども達というのはどういうことですか?もうお子様をお持ちで……」

「いやいや、そんなんじゃないよぉ!」

 盛大な勘違いを話すため、自分が孤児院の子ども達の世話をしていることを伝える。

 もう十数人の母親って、一体私は何歳になっちゃうんだ。

「……すごいですね~。やっぱり、ミュウナはいい人です」

 納得してもらってよかった。今度は逆に私が疑問に思った事を聞いてみようと思った。

「小毬はお仕事何してるの」

「……………………」

「え、小毬?」

 何かまずいことを聞いてしまったのだろうか。すると小声で何かを言っているので耳をすましてみた。

「…………お仕事は何してるの。これぞ大人の会話」

 杞憂だったみたい。ここまでくると私よりも騙されやすいのではないだろうか。でもなんか羨ましい。裏表のない性格。私は本心を隠してばっかりの裏ばかりの性格。

「お仕事はですね。商人をやっております」

 嬉しそうなニコニコとした笑顔で言う。

「いつもはここの隣町を拠点に品物を仕入れていました」

「ということは、あの予約も仕事関係」

「まぁー、そうですねー。王じょ……いや会社のお嬢様がお見えになるということで、他の者はただ知人です」

 そして、私の悪い癖なのかもしれないが、根掘り葉掘り色んな事を聞いて知りたくなる。

「その知人の中に『クソ外道バカ野郎』がいるの?あ、いや、ほらさ、接客するかもしれないから気になって」

 もっともらしい理由を出して聞いてみた。すると小毬は親の仇でも見る様な顔になった。

「ええ、聞いてくださいです。本当にクソ鬼畜外道バカ野郎なのです。あの野郎、おうじょ、いやお嬢様を卑劣な手で手籠めにして、あの豊満な体をあんなことから、こんなことまで、うらやま、いや万死に値するほどの人間です」

 小毬さーん、今お昼前ですよー。それも外。それにひそかに自分の願望をおりまぜてましたよねー。それになんか呼び名が一つ増えてる。

 聞いた本人が言うのもなんですけど。

「まぁ、嫌ですけど、そのクソ鬼畜外道変態バカ野郎の能力は認めますけどね。何を考えているのかよくわからんやつなんですこれが」

 ちょっと興味深い話になってきた。私は時間に余裕があるかを聞いた。そうすると、彼女は眼をキラキラと輝かせて「はいです」と答えた。なので近くの広場のベンチに腰をかけて、話すことにした。

「それに謎なんですよね。仕事のついでに彼の過去について調べてみたのですよ。それが全く分かんないんですよねー。お嬢様との出会いからあとはまったくもってないんですよね~。記録がです。何かしらの跡があってもいいと思うのですが、気になるのは意図的に消されたように真っ白なのです。普通なら匂いがのこっていてもおかしくはないのですが」

 小毬はなにか一つのことに集中すると周りが見えなくなるタイプなのかもしれない。たまに饒舌になって喋りだす。この話をしている小毬は打って変ったように真剣な目をしていた。もしかしたら、小毬は情報を商品としているスパイや工作員なのかもしれない。

 いや、考えすぎ。そんな物語のようなことないだろう。

「まぁ、分かるというのはクソ鬼畜外道変態バカ野獣野郎ってことだけですね~。なんでお嬢様はあんな男のことを……ミュウナさん!」

「え、な、何?」

 すごく真剣な目で見つめてきたのですごく驚いた。

「ミュウナさんの好きな男の男性ってどんな人ですか?」

「え、急になんで?」

「恋バナというやつです」

「じゃ、じゃあ、小毬はどんな人がタイプなの?」

「わ、私はですね~『白馬の王子様』です」

 私は色んな意味でびっくりした。堂々と言ってのける彼女はすごい。こんなことを言えば何を言ってるんだとバカにされるようなことだ。

「私のピンチにさっそうと現れて敵をギッタギタに倒してくれるんです。そして私を馬に乗せてくれて、草原をいつまでも二人で走るのです」

 私はバカに思うこともなく耳を傾ける。

「あくまで『理想』のタイプなんですけどね」

『理想』という部分を強調して彼女は言った。

「じゃあ、今度は私の番だね」

 いつもならここは無難に優しい人だなんていうだろう。でも今の私はそんな優しい嘘をいう気分ではなかった。

「私は、『星の勇者様』がタイプかな」

 私は恥ずかしかった。でも目の前の小毬はバカにする様子もなく、聞いてくれている。

『星の勇者様』とは『白馬の王子様』のような抽象的な物ではない。実在する人物に付けられた名称だった。

 七年も前の話だった。この大陸に一つの大国があった。その大国は強大な軍事力を武器に手当たり次第に他国に戦争を吹っ掛けた。その原因はその大国の宰相だった。その宰相が大陸を戦乱の渦に陥れるために様々な悪行をしてきた。

 それを止めるために動いた少年がいた。その少年は体のどこかに星の紋章を宿らせ、絶大な力を得た。そして四人の仲間と出会い、様々な困難を乗り越え、その宰相の思惑を阻止することができた。

 だから『星の勇者様』なのだ。しかし、彼の今の所在は誰も知らない。

 もうすでに死んだとも言われているし、まだどこかで平和のために戦っているとも言われているし、どこかで静かに暮らしているのではないかとも言われている。

「誰かの為に全力で頑張れる人って好き」

「あ~、分かりますです、分かりますです」

 でも皮肉なことがある。守ろうとしていた平和が今では戦乱の中である。

 この国も例外ではない。休戦中になっているが、戦争しているのに変わりはない。

「さっそうと現れて、敵をバッタバッタと薙ぎ倒すそんな男の人は理想ですね~」

 ふと私は思った。もし、『星の勇者様』が生きているとしたら今の大陸をどう思うだろう。絶望するのか、それとも憂うのか。きっと少年だった勇者は青年になっている。己の正義で悪を滅ぼし、世界を混沌とする戦乱を止めたにもかかわらず、世界は戦乱へと変わった。

 でも私はもう『星の勇者様』は生きていないだろうと思っていた。

 もし、正義の味方である彼が生きているとしたらこのような世界を放っておいてはいなかっただろう。生きていたら今も誰かの悲しみを止めるために世界を旅しているだろう。

「……ミュウナさん?」

 一人考え事をしていたら、私の顔を覗き込んできた。可愛い瞳が私を真っ直ぐ見る。

「いや、なんでもないよ」

 それからというもの私たち二人は自分の身の上話などをして時間を潰した。頃合いになると二人はそもそもの目的である肉屋へとむかうことにした。

 その途中の事であった。

「小毬ちゃん!」

「ぬぁあぁ」

 私は通りの前に嫌な物を見つけた為に見つかる前に小毬を路地の方へと引っ張り込む。少なくとも私以外にも何人か同じ行動をしているし、そうでなくても皆、道を空けている。

「どうしたのでふがぁ」

 私は少し強引だが、小毬の口を手で塞ぐ。説明している暇がなかった。少しすると私の必死な顔を見て納得してくれたのか大人しくしてくれた。

 私は目を通りの方を向ける。

「おうおうおう、貴様ら道を開けろ、魔女取締官グレイドビル様のお通りだ。道を開けろ」

 十数人のグループの前の一人が通行人を避けさせて進んでいる。先頭を歩く者やその後ろのグループのほとんどがが甲冑に身を包んでいる。 

 その中で一人、金色の飾りの多い鎧を着た者がいた。それがグレイドビル本人である。

「なんなのですか、これは」

「先ほども聞いて分かるように魔女の取り締まりの騎士団の人達」

 私はその騎士団の人達が通り過ぎるのを待ってから、掴んでいた小毬の体を解放する。

ごめんねといってから私は説明を始める。

「この国は魔法を排斥しているのはもう知ってるよね」

「はい、それは知ってますです。たしか五年くらい前からでしたか」

「いや、正確には二十年前からそのようにしてるんだけど、五年前というのは女子供関わらず必ず極刑に変わった年ね。その前までは国外追放とか、終身刑が最高刑だったの」

「そうなんですか」

「それであの魔法を使う者を専門にして取り締まる魔法取締官ができたの。でもそれに就いている人が問題で、あまりにも権力を振りかざす人なの」

「魔法取締官?あれ、さっき魔女って」

「勝手にあの人が自称しているだけ。理由はわからないの。分かりたくもないけど」

 過去の魔女狩りを照らし合わせて言ってるのかもしれないとはおもった。魔女とは一般的に女性のことを言うと思われがちだが、かならずしもそうではない。国家に害をおよぼすものに当てられる名称でもあったらしい。

 過去のことを私は小毬に話し始めた。過去に立てついた人を砦へと連れて行き、拷問の末、魔法が使えると無理矢理嘘を吐かせ、処刑するということがあったのだ。

 おそらくここまでする取締官もこの国の中でもこの街しかない。でもどこも五十歩百歩。そもそも魔女を狩ることは魔法排斥主義を掲げる中央政府へのポイント稼ぎになる。

「でもそんな無理矢理なことしてると反乱が怒ってもおかしくないのでは?」

「昔起きたわ。でも、それは失敗に終わったの」

 子どもが処刑されたことをきっかけに大きな暴動がおこった。でもあのグレイドビルの家系は名家ということもあり、巨大な資金を使い、傭兵を招き入れ、一週間もかからないうちに暴動を鎮圧した。首謀者達はもちろん魔女として処刑され、その家族も何かしらの罰を受けた。さらに、短期間の暴動制圧が、グレイドビルの中央政府の評価を更に上げた。

「そういうことがあったんですか~」

「それに、普段街で見かけない者がいると絡まれる可能性があるから」

 酷い場合は砦に連れて行かれ拷問を受ける。運が悪ければ、そのまま処刑だ。小毬のような良い人ほど悲惨な結果になる。商人であろうと、彼女は賄賂などを渡さないだろう。

「ごめんね、無理に引っ張ったりしてけがはなかった?」

「いえいえ、これでも体は鍛えてますです。でもこれで分かったです」

「なにが?」

「二つあります」

 小毬が日本の指を立てて言う。

「この国がなぜここまで暗いのかです。この国に来てそんなにも日が経ってないのですが、やはりそこが気になっていましたです」

 小毬の言う通りだ。この国は元気がない。いや活気自体ないのだ。人は誰も下を向いて歩いてる。不平も不満も言うこともなく。誰もが、生きる屍のようだ。元気な物も空元気な者が多い。それにかくいう私も人の事は言えない。

 私も、この国のようにもう半分死んでいるのかもしれない。

「もう一つはやっぱりミュウナさんは良い人だっていうことです」

 彼女は素敵な顔で私を見てきた。逆に私は心にナイフを突き立てられたような気がした。

私は私の事がよくわからないのだ。

「ミュウナさん?」

「あ、いや、何でもないよ」

 私は笑顔を作った。小毬に疑われないように。

「よし、ハムを買いに行こう、店の人と顔見知りだから値引きしてもらおう」

「あ、ありがとうございますです」

 私は小毬の手を引いて肉屋へと急いで行く。私の中にある私への疑問をかき消すように。

 すると目の前にスーツを着た男性と、その隣に佇んでいる鎧を着た女性がいた。

「あ」

「どうしたの?」

「いや、なんでもないです。行きましょう」

 私はその二人に何か関係あるのか気になったが、あまりにも相手に立ち入るのも悪いと思い、気にせず肉屋に向かうこととした。


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