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九
◇
真夜中に、目が覚めた。
鼓動が速い。闇の中、障子の隙間からぼんやりと月明かりが漏れる。
隣で眠る良人を見つめる。規則正しい寝息が、薄く開いた唇から溢れる。
この人は、生きている。
そう思うと、ようやく小さく息をついた。
月明かりに照らされた良人の滑らかな額と、緩やかに上下する掛布団の胸元を見るともなく眺める。
恐ろしい夢を見た。
しかし、その内容は覚えていない。胸の中を、漆黒の寂寥感が占める。
私の心を察したのか、月に雲がかかったのか、室内を照らす明かりが陰る。
喉が、乾いた。
台所に向かう。水桶から茶碗に水を汲み、一息に飲み干す。少し気持ちが落ち着いてくる。
その時、ぴちゃんと水音がした。
今日もらった鯉が、桶の中で跳ねる。そっと、覗き込む。月明かりに、鱗を金色に光らせた鯉と目が合った。円い眼が、私を責めているかのように思えた。