五
◇
頬に陽射しを感じて私は目を覚ました。夕暮れの長く射し込む陽の光には、すでに夏の予感が漂う。また、いつの間にか、寝てしまったようだ。
もう、何時なのだろう。
室内に射し込む光は、だんだんに赤く染まってゆく。
玄関口からちりんと自転車のベルの音がした。
「ごめんください、郵便です」
玄関口に回ると、郵便局員の若者から茶封筒を手渡された。
「ご苦労様です」
私の声を聞くとすぐに郵便局員は再び自転車にまたがり、次の目的地に向かう。その姿を見送る。
いったい、何の郵便だろう。
茶封筒はずっしりと重い。きっと良人宛の書類だろうと思って表書きを見ると、私の名前が、流麗な手で記されていた。裏返して差出人を見ると「北薗はる子」とある。
北薗さんの奥さんだわ。
懐かしい思いがして、玄関先にもかかわらず、封筒を開ける。中には、手紙と一冊の本が入っている。その本の表紙には、雪村の名前が記されていた。
慌てて、私は手紙を広げる。
――前略
たいへん御無沙汰をしております。つつがなくお過ごしのことと存じます。
突然のことですが、先だって、北薗が他界いたしました。
きょうお手紙を差し上げたのは、そのことを申したかったのではなく、雪村さんのことです。
生前、北薗は雪村さんから原稿をお預かりしておりました。雪村さんが亡くなる、少し前のことです。追悼の意を込めて、すぐにでも出版したいところでしたが、いろいろあって、ようやく日の目を見たのが、昨年のことでした。
わたくしはすぐに貴女にお知らせしたかったのだけれど、すでに新たな生活を始めておられる貴女に雪村さんのことを思い出させるものではないと、主人からきつく止められていたのです。でも北薗がいない今、気兼ねするものは何もございません。ようやく、わたくしは貴女にお知らせすることができました。
雪村さんの本を同封いたします。
またゆっくり貴女とお逢いしたいわ。お話ししたいことが沢山あります。
乱筆乱文をどうかお許しください。
かしこ
北薗はる子




