表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロストクラウン  作者: 柿の木
第四章
94/175

23、狂宴の残火




GARDENIA NEWS 1170.5.27


バッシュ・アルカーナ議長 年内にも『リィンレツィア』ルートを視察か


 連日お伝えしている、「フィリランセス極地再開発支援政策」に関して、新たな情報が入って来た。

 月移りの会議で大々的に政策を発表したアルカーナ議長は、年内にも『リィンレツィア』ルートを視察、具体的な再開発支援計画を立てるとみられる。

 この件に関してはガーデニア市議会も協力体制にあることを明らかにしており、非公式ではあるが議長の政策に異を唱えるガーデニア砂海案内組合との摩擦が心配される。

 また、アルカーナ議長は「研究者との連携も強化」と発言しているが、ガーデニアの砂海研究機関は早い段階で協力関係を否定。

 今後要請があったとしても、政策には賛同しない考えのようだ。

 一方、首都の研究機関は我々の取材に、

 

 

 

 ふっと肩を揺さぶられて、意識が浮上する。

 ああ、またか。

 深い沼から、必死にもがき出るような、どうにも慣れない感覚。

 意志の力を総動員して、何とか目を開けて。

 読み切れなかったガーデニアニュースのページを閉じ、情報端末の電源をやっと落とした。

 もう、それだけで疲れる。

 椅子の背もたれに寄りかかると、彼女が心配そうに顔を覗き込む。


「大丈夫ですか?」


「…すげー眠いだけだから、もう大丈夫だって」


 ミルクティー色の髪を揺らして、リーゼは頷いた。


 冗談抜きで、死ぬところだったんだよ。

 フィーくんはどうしてそう、僕の寿命を縮めたがるのかな?


 リーゼには、目を覚ました途端に泣き出され。

 見舞いに来たティントには、静かにそう言われた。

 無限ループで説教をくらうより、遥かに効く。

 フィルの実感としては、死にかけたと言うより「怖いくらい寝た」程度だから、尚更、申し訳ない。


「やっぱり、もう少し入院していた方が、良かったんじゃ」


「どっちにしても、寝てるだけだしな。案内所(うち)の方が、楽だって」


「……」


 リーゼは瞳を伏せた。

 この子には心配ばかりさせている気がして、辛い。


「そんな顔、すんな。リーゼのお陰で、これくらいで済んだんだし。ほんと、ありがとな」


「私は…、私はただ、気付いただけです。解毒薬を作って下さったのは殿下だし、材料を集めて下さったのは、リンレットさんにカディさん、白焔さんです。ルレンさんに凪屋の姫まで手伝って下さって」


「………そーだな。皆のお陰か。ちゃんと、改めて、お礼しないとな」


 リーゼにも。

 彼女が気付かなかったら、恐らく原因を特定出来ないまま手遅れになっていただろう。


「…穢竜の毒、か」


 クラウスを狙った彼が、刃に仕込んでいた毒。

 リーゼはフィルの左手に視線を落とす。


「あの人…、結局首都送りになったそうです。今回は白焔さんを狙ってたんじゃ、なかったんですね。どういう人だったんでしょうか」


「………」


 そういう仕事を請け負う輩か。

 或いは、個人的に何か意図があったのか。

 フィルは首を振る。

 どちらにしても、首都に送られたのなら向こうで暴かれるだろう。

 息を吐くと、リーゼがまた顔を覗き込んだ。


「フィルさん、また眠くなってません?」


「…バレたか。こう、所構わず眠いのも、考えもんだなー…」


 命にかかわる毒性は薬で何とかなったが、この眠気だけは抜けるまでしばらくかかるそうだ。

 どれだけ寝ても、しばらくすると強烈な睡魔が襲って来る。

 お陰で退院はしたが、厳しく自宅療養が言い渡されていた。


「滅多に寝顔とか見れませんから、ちょっとレアな気もしますけど」


「面白いもんでもないし、もう見飽きたろ? 俺も流石に寝んの飽きて来たんだけどな」


 リーゼはやっと「そうですね」と笑った。


「眠気覚ましに、何か飲みますか?」


「…うう、頼む」


 案内所から部屋に入ると、リーゼは慣れた様子でカップを用意する。

 その小さな背をぼんやりと見ながら、フィルはベッドに腰掛けた。

 穏やかなとは言い難い、真っ白い光が窓から射し込んでいる。

 もう、すっかり夏の様相だ。

 ふぅっと、意識が持って行かれそうになる。

 ただ、あの時とは違い恐怖は伴わない。


「耐えられなさそうだったら、横になって下さいね? また、頭打ちますよ」


 辛うじて返事をして、フィルは大人しくベッドに横になった。

 ほっといて、適当に帰って大丈夫だから。

 ごめんな。

 伝えようとしたが、やはりもう言葉は出て来ない。


「………さん、コーヒー………、もう、寝ちゃい……た?」


 彼女の声がして。

 隣が、僅かに沈んだ。

 指先が、頬にかかった髪を払う感覚。

 心配しなくて、いいのに。

 とさ、と振動があって、背中に何かが当たった。

 そのまま、心地よいあたたかさが伝わってくる。

 

 あれ?

 

 飲まれかけた意識が、首を傾げる。

 でも、まあ、もう眠いし。

 リーゼが、何かするとも思えない。


 疑問は、背中越しの熱に溶けて、消えた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ