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ロストクラウン  作者: 柿の木
第四章
91/175

20、禍に眠る




「……―――ですか?」


 赤茶色の瞳が、煩わしそうに細められる。


「…え? ああ、何」


「何って、随分と余裕ですね。話くらい、ちゃんと聞いていて下さいよ。仮にもリーダーじゃないんですか? 貴方」


 突き離すように言って、カディは視線を逸らした。

 慌ただしく救護室で手当てをしてもらって、駆け込んだ控室。

 事情を知らないメンバーには遅参を責められたが、姫の配慮だろうか。

 試合開始が、少しばかり遅れている。

 じゃあ、と作戦会議なんて始めてみたが、何とも今更だ。

 決勝の相手、凪屋チームで脅威となるのは、やはりあの姉妹。

 フィルが言うのも何だが、叡力銃を使って来るのが面倒だ。


「まあ、君が叡力銃で牽制して、僕らが特攻して済むと思うけど」


 だが概ね、シルトのざっくりとした一言に集約される。

 それを、聞き流したくらいで怒らないで欲しい。


「フィルってば、顔色悪くない? 緊張してるの?」


 決勝は控えに回ったリンレットが、「気楽にね」と肩の力を抜くような仕草をする。


「…大丈夫ですか? フィルさん」


 一人深刻そうなリーゼに、フィルは頷き返す。


「何、体調悪いとか? リーダー貧血で試合放棄とか笑えないよ」


 左手の包帯を目敏く見遣って、シルトが軽く言った。


「は? 体調悪いんですか?」


「えっ、体調悪いの?」


 デザートカンパニーの二人に、フィルは「いや」と首を振った。

 寧ろ。


「……、眠い」


「…………」


 全員に、批難の視線を向けられた。

 タイミング悪く込み上げて来た欠伸を、フィルは慌てて噛み殺す。


「ある意味、大物ですね」


「あ、でも、フィルはずーっと連戦だもんね。そろそろ疲れが出てもおかしくないよ」


「この状況で眠いとか。君、ホント面白い人だよね」


 褒めてない。


 

『大変お待たせ致しましたー! では、これより決勝の対戦チームが入場します。拍手でお迎え下さい!』



 ラテの声に歓声が上がり、控室に反響する。


「ほら、終わったら寝て良いですから。行きますよ、リーダー?」


 カディが嫌味半分、笑って言った。





 試合開始の合図で、カディとシルトが動く。

 散々連携の甘さを突かれて来たお陰か、カディはシルトを先行させ、自分は彼の援護に回った。

 それに、リーゼが続く。


「………」


 フィルは叡力銃を構えて、違和感に首を傾げる。

 ポートリエ姉妹が、鏡に映したように同じ動きでシルトを躱した。

 そこへ凪屋のメンバーが迎撃に入る。

 リンレット並みの素早さで、リーゼが陽動に回った。

 誘われて彼女を狙う彼らに、カディがアックスを振る。

 咎めるような声で、通信が入った。


『…っと、―――ます?』


 聴き取れない。


「……あ、……?」


『――さん?』


 これは。

 フィルは、叡力銃を下ろした。

 引き金から、指を抜く。

 曖昧な視界を、手で覆って遮った。

 これは、結構、マズイかも。


『なに………んの? ―――?』


「…ごめ、…とに、ねむい」


『は?』


 もう一度、眠いんだと訴えようとして、それすら儘ならないことに、苛立ちを通り過ぎて笑いすら込み上げて来る。

 実際は笑うことも出来なかったけれど。

 これも、或いは「油断」と言うべきなのだろうか。

 砂海で味わった数々の不調と照らし合わせて、答えを弾き出す前に思考が纏まらなくなる。

 立っている感覚が、ない。

 何とか剣を抜いて、足元に突き立てる。

 そのまま、膝をついた。


「…フィルさん!」


 手を握られて、目の前にリーゼがいることに気付く。

 カディとシルトまで、傍にいるようだ。


『これは――――でしょうか!? リーダーが、……です!』


 ラテの切れ切れの実況で、試合が中断したらしいことを、ようやく理解する。

 酷く真剣な表情のシルトが、脈を取るようにフィルの首筋に手をやった。


 試合、ごめん。


 言葉にはならなくて、リーゼの手を握り返した。

 左手。

 ああ、これは久しぶりにやらかした。

 恐ろしいほど急速に、力が抜ける。


「フィルさんっ!?」


 切羽詰まった声で、何度も名まえを呼ばれた。

 頬に柔らかい布が触れる。

 抱き止めてくれた誰かが、強く肩を掴む。

 

 そこで。

 意識が、落ちた。





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