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ロストクラウン  作者: 柿の木
第四章
86/175

15、決着




 かちん


 呆気ない、ロックの音。

 沈黙したままの銃口の先で、咄嗟に後退した彼が苦笑する。


『えと……、あれ?』


 ラテの不思議そうな声。

 その隙に距離を取って、右腕を押さえる。

 折れてはいない。


「躊躇いがなかったから、撃って来ると思ったんだが。意外と、嘘が得意なタイプかな?」


「剣を抜く余裕はなかったんで。引っかかってくれるか不安でしたけど」


 痛いが、まあ、砂海で負うような怪我とは違う。

 リンレットが離脱するより、遙かに少ない代償だ。


『フィルっ! ごめんねっ、腕』


『こちらは貰います。行って下さい!』


 シルトが追撃した団員は、何とか沈黙させたらしい。

 勢いに乗るように、カディがアックスを振う。

 回避する団員たちを、更にリンレットが散らした。


『了解』


 シルトが短く答えて、駆ける。


「…ラギ! 三分で良い、止めろ!」


 さっと視線をやってすぐ、副団長が指示を飛ばした。

 こちらに向かって来るシルトを、かなり無茶な動きで団員が遮る。

 三分。

 フィルに向き直った彼は、剣を構え直す。


「流石に、舐められたもんですね」


「いや、銀髪の彼をラギが止められるのは、それくらいが限界だろう」


 叡力銃を向けたまま、フィルは息を吐いた。

 今、この人の呼吸で動くのは、結構辛い。

 砂がふっと舞い上がる。


 来る。


 迷いのない一刀は、感心するほど綺麗だ。

 その獲物が、自分でさえなければ。

 砂避けのローブを翻して、距離を誤魔化す。

 間合いを計りかねた彼が、初めて苛立ったように眉を寄せた。

 フィルは右腕の痛みを堪えて動いているのだから、おあいこだ。 


「やはり、良い意味で、下が団結したようだな」


「下、じゃないんですけどね」


「…そうか」


 笑う。

 それは、どこかで見たような、優しい表情だった。

 呼吸が、変わった。


「…ッ」


 速い。


『フィル!』


 傍目にも、形勢不利に見えるのだろう。

 嫌に切羽詰まった声で、シルトが名を呼んだ。

 懐まで飛び込んで来た彼の手元に、叡力銃を撃つ。

 やはり、あっさりと長剣が砂に落ちた。

 手放すことを、決めていたのだろう。

 そのまま、銃身を捕えようと手が伸びる。


 最後は、騙し合いになったな。


 呑気にそんなことを思いながら、引かれる銃をあっさりと放した。

 自分はそうしたのに、フィルは銃を手放さないと思っていたのだろう。

 叡力銃が砂に落ちて、彼は驚いたように眼を見開く。

 三分、止められなかったようだ。

 視界の隅で、シルトが随分乱暴に団員を叩き伏せる。

 んな、焦んなくても大丈夫だって。


「俺も、負けたいわけじゃないし、なっ」


 距離は、取らない。

 彼が振り被った拳を、右手で受け流す。

 そのまま、ベルトから剣を引き抜いた。

 向けるのは刃ではなく、柄。

 手の中で鞘を滑らせるようにして、打ち出す。


「ぐッ」


 上手く咽喉元に入ったが、やはり浅かった。

 踏み止まった彼は、苦しげな表情にも関わらず淀みなく次の動きに移る。

 まだ、やる気だ。

 それがさも本来のスタイルであるかのように、軽く握った拳を唸らせる。

 この至近距離で、彼の一撃を貰ったら。

 軽く意識を持って行かれるだろう。


「…っと!」


 フィルは足元の叡力銃を、砂と一緒に蹴り上げた。

 いつものような、躊躇いは何故かなかった。

 舞い上がった砂の中、それは銀色に光る。


 撃て。


 誰かが、言った。


 確かにしたはずの発砲音は、聴こえなかった。

 眉間を撃たれた彼は、咽喉を晒すように、一瞬空を仰ぐ。

 一歩、二歩と、衝撃のまま後退した身体が、ゆっくりと倒れていく。

 その口元に、何故か笑みを乗せて。

 まだ?

 自然と踏み出しかけた自分の足に、フィルはひやりとした。

 ここは砂海ではないし、彼は砂獣でもない。

 これ以上の攻撃は、命に関わる。

 


『―――それまでっ!! 試合終了です!』



 


 


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