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ロストクラウン  作者: 柿の木
第四章
85/175

14、一騎打ち




 ひやりとした。


 前線を突破して、単独で斬り込んで来たのはやはり彼。

 最初から、抜けて来るつもりだったのだろう。

 辛うじて避けたはずの一刀から、隙のない次手が繰り出される。

 

 一、二。

 

 動きの呼吸が、速い。

 追われる。

 軽くなった引き金を、慌ただしく引く。

 けれど、音もなく、撃ち放った叡力弾が斬られる。

 視覚で捉えた叡力の残滓は、微かな煙になって彼の剣を彩った。


「大胆ですね。リーダーなのに」


「君に後ろから狙い撃たれると、面倒で仕方ない。多少の無茶は承知さ」


『…イグの自警団、攻め込みました! これは、どちらが有利なんでしょう? リーダー同士の戦いに決着が付く前に、メンバーは救援に動けるでしょうか!?』


 ラテが興奮した調子で実況する。

 思い出したように、歓声が聞こえた。


「さて、ここはリーダー同士、一騎打ちと行こうじゃないか」


 嫌です。

 と、答える暇もない。

 踏み込みは、容赦のない深さ。

 釣られて撃つと装填の間を突かれかねない。

 何て、戦い難い。


『こっちが片付くまで生きてて下さいよ!?』


「狩られそうなんで、早目に頼むわ」


 軽く答えると、『それはそれで見物ですけど』と意地の悪い返答がある。


『大丈夫!? 行こうか?』


『君がやられるとそれでお終いでしょ? 一気にそいつを囲んだ方が良いんじゃない?』


「囲ませてくれるような連中じゃないだろ? まあ、頑張るから、そっちをきちんと叩いてから助けに来てくれって。二人は仲間割れ、すんなよ?」


 不本意そうな答えが二つ返って来て、フィルは砂を蹴った。

 舞い上がった砂を煙幕代わりに、後方へ跳んで叡力銃を構える。

 引き金を、引く。

 さっと流れるような動きで、彼は剣を振るう。

 今度は、ち、と微かに音を立てて煙が上がった。


「急所を狙い撃つくらいの心積もりをした方が良い」


「良いんですか? 眼とか狙われたらひやっとしません?」


「それくらいの刺激はあった方が愉しいよ」


「…そんな性格で、副団長してて良いんですかね」


「団長がしっかりしているからね。別段問題はない。団員たちも、自分たちで考えて動くことが出来る者ばかりだ。ほら」


 攻防の合間に促されて、引き離されたメンバーたちを見る。

 まだ形勢に変化はないが、カディとシルトが動き辛そうだ。


「あの二人は戦い方が似ている。上手く誘えば、かなり動きを制限出来ると考えたんだろうな。先に多少の指示は出したが、流石優秀な団員たちだよ」


「……ちょっと他人事過ぎませんか?」


「鷹揚に構えていて良いものだよ。上に立つ者に必要なのは、大局を見る力と仲間への信頼、そして、いざという時命を張る覚悟くらいだ」


「なるほど。勉強になります」


 叡力銃で剣筋を弾き、逃げる。

 それこそ逃げてばかりでどうする、と言われかねないが、如何せん、このおじさんは速い。

 だが、先程からリンレットがかなり無理をして、カディとシルトを援護している。

 攻めに出るか。


「君はさっき」


「はい?」


 カディとぶつかった団員が、何か話しかけている。

 彼の赤茶色の瞳が、ここからでもわかるほど不愉快そうに眇められる。

 ああ、乗せられんなよ。


「銀髪の彼の援護を優先した。私の動きに気付いていながら」


「それが?」


 それにしても、良く喋る人だ。

 彼は剣捌きとは正反対の緩い動きで、首を振った。


「いや、それがチームとして吉と出るか凶と出るか。その辺りが、勝敗を決めるかもしれないな」


 大局を見る力、か。


「…リーダーになったのは、成り行きなんで。心構えがなってないのは百も承知ですよ」


「批難しているわけじゃないさ。そういう人の方が、下が団結することもある」


「悪い意味で?」


 フィルが雑ぜ返すと、彼は意外にも真剣な表情で「良い意味で」と答える。

 そして。


「クロっ!」


 離れた仲間を、唐突に呼んだ。

 違う、合図だ。


「っ」


 カディとシルトに対していた一人が、ぱっと動きを変える。

 話に釣られていたのか、カディの反応が一瞬遅れる。

 長剣が掬うように、何かを弾いた。

 

 リンレットの、短刀。

 

 シルトが気付くが、間に合わない。

 迷わず、銃口を向ける。


「そう、その判断だ」


 耳元で聞こえるほどの、声。

 音もなく、砂を踏んで振り抜かれる。

 この刹那の猶予では。


 自分か、リンレットか、どちらかだ。


 フィルは右腕を剣筋に晒した。

 衝撃で弾道がずれないよう、一拍早く、引き金を引く。

 防御の姿勢を取ったリンレットが、ぎゅっと眼を瞑るのが見えた。

 大丈夫、そっちは間に合う。

 リンレットに剣を振り被った団員が、微かにくぐもった悲鳴を上げた。

 被弾してよろめいた彼を、駆けて来たシルトが余裕のない動きで追撃。

 馬鹿。

 そう、カディかシルトが罵った。


 容赦なく振り下ろされた長剣が、フィルの右腕を打つ。

 それでも、差し出した甲斐はあった。

 首元を狙ったその一刀は、僅かに勢いを殺す。

 折れては、いないだろう。

 背筋まで響くような痛みに、思考を取られないよう奥歯を噛んだ。


『――は、かなりの……―っ! ああ、…攻める…です!』


 ラテの実況が、聴き取れない。

 撃ち放ったばかりの叡力銃は、ロックが掛かったまま。

 右腕を庇うように身体を捻って、叡力銃を向けた。

 手負いを仕留めにかかった彼に、狙いを定めて。

 フィルは笑う。

 そして、引き金を引いた。






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