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ロストクラウン  作者: 柿の木
第四章
83/175

12、予感




GARDENIA NEWS 1170.5.12


大会四日目 「トト・ゲーム」人気沸騰チーム特集


 盛り上がりも最高潮の大会四日目が終わった。

 ガーデニア市公認の大会賭けくじ「トト・ゲーム」売り場には、くじを購入しようと人が殺到している。

 行列に並ぶ人に話を聴くと、やはり勝ち残っている本命の優勝候補に賭けるという声が多かったが、中にはすでに負けてしまったチームだが、戦い振りが好きだったので記念に購入するという人も。

 この「トト・ゲーム」の倍率から、人気チームが見えて来た。


 若い世代を中心に人気があるのは、やはりポートリエ姉妹率いる凪屋チーム。

 可憐な彼女たちの戦い振りは、古い案内人のイメージを払拭し、実に見応えのある試合で評判だ。

 双子の息の合った立ち回り、そしてそれを際立たせるチームメンバーの団結力。

 常勝チームの貫禄だ。


 案内人や中高年に支持されているのは、意外にもイグの自警団。

 イグを守るために日々鍛錬を積む彼らは、堅実な戦い方が評判だ。

 その一方で試合が終わるとメンバー同士ハイタッチをしたり、肩を組んで勝利を喜んだりと微笑ましいほど仲が良い。

 そのギャップに、思わずときめいたという若い女性の声も多い。


 そして残念ながら本日の試合で凪屋チームに敗れた、異国からの参加者も非常に人気だった。

 二回の試合で見せた、刹那の一撃。

 開始数秒で相手チームのリーダーを倒した圧倒的な強さに、驚かれた人も多いだろう。

 チームリーダーであった彼は、エルランス地方のターバンで口元を隠し、取材にもほぼ無言を貫いていた。

 しかしそのミステリアスさで、チームというよりは彼個人に多くのファンがついたようだ。

 来年の参加が、非常に楽しみである。

 

 さて、今大会のダークホースは何と言っても彼ら。

 「トト・ゲーム」売り場でも、「優勝するとは思っていないけど」と言いつつ、くじを購入する人が続出している。

 デザートカンパニーのエース二人を擁しながら、何故かリーダーは3rd。

 そのため優勝候補からは外れていたが、何とすでに四試合を勝ち抜き、明日イグの自警団と対戦する。

 このチームはメンバーの組み合わせで、戦い方ががらりと変わる。

 女性二人を主軸にした時は、隙のない見ていて心地の良い試合をするが、男性二人が主軸になるとまさかの大混戦。

 目立たないリーダーが援護に奔走の末、「あんまやってっとまとめて撃つぞ」と予想外の発言をして、会場を大いに沸かせる始末だ。

 だがその不安定さ故、思わず応援したくなるのかもしれない。

 

 どのチームも語り切れないほどの魅力があり、その活躍は明日以降も目が離せない。

 決勝のカードは、果たして。

 「トト・ゲーム」を購入したら、是非コロシアムで一押しチームに声援を送ってみてはいかがだろうか。






『買ったよー、トト・ゲーム。有り金全部叩いたから、ちゃんと優勝してね』


「は? なん、」


 噛んだ。

 明日は、イグの自警団と当たる。

 夜はすでに深い。

 連日の試合の疲れは確かにあるが、よくもまあここまで勝ち上がったものだと実感に乏しい。

 何とか感覚を繋ぎ止めるため、砂海を渡る時のように部屋で叡力銃の手入れをしていた。

 ティントの下らない通信も、「はいはい」と流していたが。


「有り金、全部? 嘘だろ? お前、馬鹿なの?」


『だってさー』


 ティントは何てことないように、『悔しかったし』と答える。

 実験演習後の討論。

 そこで、大会の話がちらっと出たそうだ。

 実験に加わっていた件の美人編集担当さんは、どうやらイグの自警団がお気に入りのようで、優勝は絶対あのチームだと断言した。

 それが、ティントとしては面白くなかったようだ。


『僕がフィーくんとこ推したら、あそこは萌えがないって一蹴するんだもん』


「もえ」


『萌えならあるよ! って反論したんだけどさー。あの論文随分待たせたの、絶対根に持ってるんだよ。ふって、鼻で! 嘲笑だよ!』


 あ、そ。


『今日は朝からめんどくさい来客やら通信やらが多くってさー。苛々してたんだよね。それでついかっとなって、帰りに手持ち全部つぎ込んでやったんだ。どうだー!』


「どうだ、じゃねえよ。威張るなよ」


 手持ちで良かった。

 フィルは叡力銃を組み直しながら、息を吐いた。


「何枚買ったんだか知らねえけど、外れても一切責任は負えませんよ」


『やだな、フィーくん。配当金目当てじゃないし、気にしないでよー』


「…さっき、ちゃんと勝ってとか言ってた」


『そうそう。それでさー、トト・ゲーム買ったってあの子に自慢したら、すっごい羨ましそうでさ』


 詰めていた息を吐き出すように、ティントは笑う。

 リーゼが聞いていたら、怒りそうな笑い方だ。


『あんまり羨ましそうで…、仕方ないから一枚あげたよー』


「へえ? 自分のチームの、欲しかったのか?」


『そりゃそうなんじゃない? 何てったって、君と』


 誰に、何の、話してるんですか?

 噂をすれば、だ。

 通信に微かに入った声に、フィルは堪え切れず笑った。


『え? さっきあげたトト・ゲームの話を…』


 そんなプライベートなこと、通信で話さないで下さい。


『プライベートなことって、プライベートな通信だよ? それに手持ち全部賭けて来たのをあげたわけだし。僕が話しても良いような』


 買って来たの、二枚じゃないですか。


「二枚なのかよ。手持ち、少なっ」


『そう言わないでよー、フィーくん。財布すっからかんにしたのは間違いないんだから』


 え、フィルさん、なんですか?

 問いかけはティントに。

 けれど思わず、答える。


「そう。もう結構いい時間だぞ、早く寝ろー」


『遅くまで君が起きてると凄く心配だから、早くおやすみ、べいべー。だ、そうだよ』


「何故そうなる」


『…貴方のことを考えていると、眠れなくてぐふ』


 案外、仲良くやっているようだ。

 調子に乗り過ぎたティントは、ごめんてばと何度か謝る。

 その合間に、ばふ、と何か柔らかい物が叩きつけられる音が続く。

 クッションか。

 もういいですっ。おやすみなさい!

 リーゼは律儀に就寝の挨拶をして、回線の向こうが静かになった。

 ふう、とティントが息を吐く。


『…妹って、世間が言うほど可愛い生き物じゃないよねー』


「今のはお前が悪い」


 クッションで連打されるくらいのことはしただろう。

 ティントは、『最初グーパンだったよ?』と哀しげに言った。


『それなのに、フィーくん酷い。親友じゃなくて弟子を取るわけ? 僕とのことは遊びだったんだ』


「……俺も寝るわ。おやすみー」


『え、スルー? 良いけどさー…。じゃ、フィーくん、何か嫌な予感もするし、怪我しないように頑張ってね?』


「待て待て、何だその不吉な発言は」


『ここんとこ動悸が治まらなくてー』


「病院行け!」


 冗談だって、とティントは笑った。

 今のどの部分が冗談なのか、はっきりさせて欲しい。


『これが砂海案内だったら、僕もあんまり心配しないけど。人間相手の試合でしょ? 何かさー、ありそうで』


「あったら困んだけど。大体、明日イグの自警団と当たんだぞ? 連中相手だったら滅多なことはねえって」


 ガーデニアニュースで特集されていたように、彼らは至極真っ当なチームだ。

 多少の怪我はともかく、危ないことは恐らくない。

 ティントは、『そーいうとこが心配なんだけどねー』と何故か呆れる。


『まあ、あの子も付いてるし大丈夫だろうとは思うけど。嫌な予感がするのはホントだから、ちゃんと気を付けてよー』


「……な、何かその発言色々問い質したいんだけど?」


 フィルの言葉を無視して、ティントは『おやすみー』とあっさり通信を切った。



 



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