表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロストクラウン  作者: 柿の木
第四章
80/175

9、夕暮れの面影



「リンレットさんの言っていた意味、わかったような気がします。何て言うか、こう、痒いところに手が届かない戦い方ですね」

 

 難しい顔でリーゼが評する。

 凪屋の人間が聞いていたら、喧嘩を売られていると勘違いしかねない言い草だ。

 否定は、しないけれど。

 舞台で、ひらりと水色と黄緑色が揺れた。

 凪屋のポートリエ姉妹。

 榛色の長い髪をそれぞれおさげにして、服と同じ色のリボンで結わえている。

 二人が踊るようにステップを踏むと、際どい丈のワンピースの裾が翻った。

 客席から見下ろしている分には大丈夫だが、相手には見えちゃってんじゃ。

 晒される白い脚に、歓声が上がる。


「見栄えは、するけどな。あの格好で良くやるよ」


「男の人って、好きですよね。ああいうの」


「…え、そーいう意味じゃ」


 砂海には絶対着て行けないようなひらひらした服で、という意味だったのだが。

 リーゼは答えず、視線を舞台へと落とした。

 夕暮れの射し込む、今日の最終戦。

 コロシアムには、空席一つ見当たらなかった。

 貴賓席として区切られた席も、護衛が許すぎりぎりのところまで埋まっている。

 フィルとリーゼも、入場口近くからの立ち見だ。


「……優勝候補って言ってましたけど、強いんですか?」


「強いんですかって、実際ほら、押してんじゃん」


『…―見事に叡力弾が当りました! 起きれますかね? あ、無理そうですか? 一名、脱落ですー!』


 姉妹の水色の方が、くるりと叡力銃を手の中で回した。

 メインで装備しているのは『姫』直伝の円月輪だが、彼女たちは叡力銃も積極的に使うようだ。

 ラテ曰く、


『流石ですねー。叡力銃の腕前はすでに凪屋でトップとか。可愛いのに格好良くて、羨ましいです!』


 だ、そうだ。

 リーゼはそれを見て、何故か眉を寄せる。


「あまり綺麗じゃ、ないですね」


「こらこら、なんつう暴言」


「だって、叡力銃はもっとこう、撃つ前後の動きとか」


 リーゼは、手で銃の形を作って見せる。

 真っ直ぐ向けると、その先は貴賓席だ。

 彼女は気付いてすぐに狙いを逸らす。


「何て言ったらいいんでしょう。凄く」


「うん?」


「…もう。フィルさんの方がわかるんじゃないですか?」


 リーゼは一応文句を言ってから、一度下ろした手をもう一度上げた。


「もっと、ぶれがなくて、……」


 リーゼは言葉を切って、沈黙した。

 フィルは彼女の指先を、思わず眼で追う。

 貴賓席のすぐ左隣。

 フィルたちと同じように、立ったままの観客が一人。


「…リーゼ? どした?」


「………」


 リーゼは凍りついたように、ただ視線を注いでいる。

 微かに、その唇が震えた。

 遠いその人影は、見慣れない柄のターバンで頭と口元を覆っていた。

 この時期の気候にそぐわない露出の全くない服装は、その人が外国から来たことを思わせる。

 だが、それ自体は決して珍しいことでもない。

 周りの観客の熱狂と比べて、しんとした立ち姿だが、それも言葉を失うほどの違和感ではなかった。

 リーゼは思い出したように、ゆっくりと瞬く。

 夕陽の色を浴びても、その頬は異様に白い。


「リーゼ、顔色悪い。下で」


 休もう、と言いかけたフィルの手を、彼女はぎゅっと掴んだ。

 汗ばんだ指先は、酷く熱い。


「私、あの人…、どこかで」


「…知り合いか?」


 倒れ込んでしまいそうなリーゼの背に、フィルは手をやった。

 彼女は否定の意なのか、意識を保つためなのか、強く頭を振る。


「とにかく休もう。どーしても気になんなら、声かけといてやるから」


 思い出せない知り合いだかのために、ここで真っ青な顔して頭抱える必要なんてないだろう。


「…だめです」


「何が」


 駄目なのは今の状況だろ。

 ようやくフィルを見たリーゼは、予想に反して意志の宿った瞳をしていた。


「一緒に、来てくれますか? きっと、あの人と話せば、思い出せる気がするんです」

 




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ