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ロストクラウン  作者: 柿の木
第一章
8/175

7、青の浮標




 ガーデニアから各地に伸びるルートは主に三つ。 

 

 東のウェルトットへと向かう『エルラーラ』ルート。

 西ランス港へと向かう『ユレン・コート』ルート。

 一度砂海を北東へと抜けイグを経由して北の街へと向かう『リィンレツィア』ルート。

 

 距離としては東に抜けるルートが最も短く、次に西、最長のルートが『リィンレツィア』だ。

 どのルートにしても砂獣に襲われる危険はあるが、フィルの体感としてはやはり『リィンレツィア』ルートの砂獣の出現率が高く、遭遇するのも大物が多い。

 砂海北部は「女王宮」と呼ばれ、かつてユニオンの誓約で立ち入りを禁忌と定めた最大の難所があり、恐らくはその影響だろう。

 ともかく、様子見に北に踏み込むような無謀な真似は勿論しない。

 東と西ならどっちもどっちだろう。

 フィルはリーゼを連れて東へと進路を取った。


 少し進むと砂に打ち込まれたポールがある。

 まだ門が見えるほどの距離だ。

 フィルの両手で丁度掴めるほどの太さのそれは、先端に青いライトが点いており銀色の胴に「E01」と印されている。

 フィルはポールをぽんぽんと叩いて、「これ、何かわかるか?」と訊いた。

 リーゼは間髪入れずに頷く。


「『エルラーラ』ルートを示す一つ目のフロートです。全てのルートに等間隔で打ち込まれています。フロートの胴に印された番号で自分の位置を確認したり、捜索の際の目安にしたりします」


「正解ー。何だ、知ってんじゃん」


「当たり前です。これくらい砂海科で勉強する前から知っていました」


 馬鹿にしないで下さいと、リーゼは不機嫌モードになりかける。

 フィルは慌てて言葉を続けた。


「嵐の後はすっ飛んでたりするけど、基本フロートの位置は変わらないから、これ辿れば目的地に着くんだよ」

 

 砂海の風景は風の一吹きで変化する。

 刻一刻と変化する砂海で、フロートなしに移動を試みるのは自殺行為だ。


「だから、知っています。基本的なことは砂海科で習いました。もっと応用的な話をして下さい」


「うぐ」


 少し素直にしていると思ったら、これだ。

 フィルは肩を落として、二つ目のフロートを目指して歩き出す。

 リーゼも危なげない足取りでそれに続く。


「応用的って言ってもな、フロートの役割なんてそれ以上ないだろ」


「そうではなくて、たとえば嵐でフロートがなくなっていて、けれど先に進まなくてはいけない時はどうする、とかそういうことを教えて下さい」


 ほぼ命令口調の上から目線。

 フィルは呆れながら、彼女の問いに応える。


「時と場合によるけどフロートが嵐で吹っ飛んでたら、引き返すのが健全な選択だな」


「……どうしても、進まなくてはいけない時は?」


「どうしても進まなくちゃいけなくても、我慢して引き返すんだよ。砂海の砂が厄介なのも知ってるだろ? コンパスも使えないのに、先に進めるかよ」


 リーゼはむっとした表情になる。


「じゃあ砂獣に追われていたら? 引き返そうにも来た道のフロートがなくなっていたら?」


「い、嫌な状況設定だなー」


 陽が昇り少し気温が上がって来たが、不快に感じるほどではない。

 砂海は「砂海」であって、決して砂漠ではない。

 気温は上がっても大したことはないのだが、乾燥していて何より砂の磁気酔いが怖い。

 それとなくリーゼの様子を窺いつつ、フィルは答えを返す。


「砂獣に追われていたら、そこで砂獣を仕留めて引き返す。来た道のフロートがなくなってたら、最後に確認したフロートの番号をGDUに伝えて救助を待つ」

 

 リーゼは気が抜けたような声で、「進まないんですね」と呟く。


「進んで、死んじゃったら意味無いだろ」


 一%でも二%でも、生存確率の高い選択をする。

 それが砂海を渡る時の基本だ。


「そうですけど……。でも、ちょっとヘタレっぽいです」


「………俺、仮にも先輩だと思うんだけど、そのコメントはどうなの?」


 リーゼは「冗談です」と笑う。

 丸い瞳を細めて笑うと、妙に人懐っこく見える。

 二つ目のフロートに辿り着くと、フィルはリーゼと来た道を振り返った。

 常に吹く風のせいで視界は良くないが、遠くに青いフロートの灯りが見える。

 それを確認して、進行方向に向き直る。

 二つ目から先は緩やかな窪みになっており、三つ目のフロートは先端の灯り部分だけが僅かに見えていた。


「勿論知ってると思うけど、こうやって常にフロートの位置を確認しながら進むんだ。来た道と行く道を見失わなければ目的地に辿りつけるし、最悪、門に戻れる」


「はい。勿論知っていますが、覚えておきます」


「おー。じゃ、三つ目まで行って休憩したら戻るか」


 リーゼの様子を見つつ、フィルは斜面をゆっくりと下る。

 砂海は初めてだと言っていたが、それなりにリーゼは落ち着いていそうだ。

 適度な緊張を維持しつつも、フィル相手に冗談を言うくらいには余裕を持っている。

 砂海科を首席で卒業というのは、伊達ではない。

 けれど三つ目のフロートがしっかりと目視出来るまで近付くと、突然リーゼの表情が強張った。

 砂に隠れて見えなかったがフロートには、先客がいた。





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