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ロストクラウン  作者: 柿の木
第四章
79/175

8、二戦目




 ふっと沈み込んだリーゼが、剣を振り抜く。

 鞘に収まっていなければ、きっと綺麗な銀閃を描いただろう。

 間合いぎりぎりのその攻撃に、相手は慌てることなく後方へと逃れた。


「どうなるかと思ったけど、意外と、イケるもんだな」


 圧倒的、ではない。

 シルトを主軸に、リーゼとリンレットを戦闘メンバーに組み込んだため、初戦に比べてチームとしての火力は落ちている。

 けれど、安定している。

 

 ベテランの案内人だけあって、みなさん子持ちのおやじだぜ。

 だから、おじょうさんたちが出りゃあいいんじゃね?


 結局、作戦会議に巻き込んだサナがくれた情報は、それくらいで。

 そんな簡単な話か、とも思ったが、有利に戦える条件なんてあってないようなものだ。

 そういう連中相手ならリーゼを出しても必要以上の怪我はさせないだろうと思い切った、二試合目。

 良い意味で予想を裏切る、危なげない戦い。

 囮にするつもりはなかったのだが、結果としてリーゼが誘い役になり、ほとんど背中合わせでリンレットがそれを援護。

 自然にフィルとシルトが自由に動ける状態になり、序盤こそ拮抗していたが一人、二人と着実に退場願って、残すは相手リーダーのみ。

 大盛り上がりの観客には悪いが、もう決着がつく。

 

 踏み込みの浅いリーゼは、相手が反撃に転じる前にするりとリンレットと入れ替わった。

 ルレンと同世代だという男は、ちらと苦い顔を見せる。

 飛び込んで来たリンレットに、彼は焦らず身の丈ほどもある棍を構え直す。

 けれど、打って出ようとは、しない。

 その躊躇いを、感情とは裏腹に容赦なく撃ち抜く。

 まだ耳慣れない軽い音。

 突き飛ばされるように、男の上体が傾ぐ。

 歯を食いしばって彼は肩を押さえた。


「…――はッ!」


 そこへリンレットが短刀を振る。

 辛うじてその一撃を、男は棍を流して避けた。

 その足元へ、もう一度引き金を引く。

 男の視線が、反射的に誘われる。


 もらった。


 愉しげなその呟きを、微かに聴いた。

 示し合せたように、リンレットが身を引く。

 そして、風を切る銀色。

 男が諦めたように苦笑したのが、見えた。


 

『…――決まりましたっ! 勝負ありです!』



 仰向けに倒れた男に、シルトが手を伸ばす。

 リーゼとリンレットが、ぱっと顔を見合わせて嬉しそうに笑う。


『両チームとも、素晴らしい戦いでしたね。皆さん、大きな拍手をお願いしますー!』


 降り注ぐ音の中、リーゼが振り返った。

 瞳をきらきらさせて、駆け寄って来る。


「…やりましたっ! 私も、頑張れましたよねっ?」


「もちろん。凄ぇじゃん、リーゼ!」


 思わず手放しで褒めると、リーゼは紅潮した頬を更に染めた。

 ふわ、とほころぶ表情。


「私もっ、頑張ったんだけど!」


「おー、流石リンレットは流れ作んの上手いよな。昔と違って安心して見てられたよ」


 リンレットは、「もー」とふくれて見せたが、すぐに堪え切れず笑みを零した。

 


 控室に戻ると、今回は留守番を任されたカディが出迎えてくれる。

 勝ったよー、とはしゃぐリンレットに、彼は静かに「見てましたよ。勝ちましたね」と答える。

 テンションが低めなのは、試合に参加出来なかったからだろうか。

 或いは、リンレットと出られなかったからだろうか。

 若いなー。


「でも疲れたー。二連戦、やっぱりキツイね」


「そう?」


 平然と答えるシルトは、愉しげな表情に不釣り合いなほど、鋭い眼。

 戦いの余韻に浸るように、手甲をつけたままの手をふっと握り込む。


「思ってた以上に、面白いじゃん」


 物騒だが、まあ、彼らしいと言うべきか。


「ね、フィルたちも一緒に行く?」


 いつの間にか、何か食べに行く話になっていたらしい。

 タオルを抱きしめるようにして汗を拭いていたリンレットが、振り返る。

 同じタイミングで、歓声が響いた。


「…流石は凪屋の売れっ子ですね」


 舞台の方を見て、カディがやや皮肉めいた言葉を漏らす。

 首を傾げたリーゼに、「次はポートリエ姉妹が出るんですよ」と教えてくれる。


「そっか、それで。もともと討伐ショーメインの案内人だったから仕方ないんだろうけど、あの子たちの戦い方って、私たちと全然違うよね」


 思うところがあるというより、不思議そうな口調でリンレットは言った。


「そう…なんですか?」


「うーん。俺も、ちゃんと見たことはないしな」


 問いに首を振ると、リーゼは落ち着かない様子でちらと舞台の方を見た。

 こういうところはわかりやすい子だ。

 フィルは苦笑して、言った。


「じゃ、見てくか?」





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