8、二戦目
ふっと沈み込んだリーゼが、剣を振り抜く。
鞘に収まっていなければ、きっと綺麗な銀閃を描いただろう。
間合いぎりぎりのその攻撃に、相手は慌てることなく後方へと逃れた。
「どうなるかと思ったけど、意外と、イケるもんだな」
圧倒的、ではない。
シルトを主軸に、リーゼとリンレットを戦闘メンバーに組み込んだため、初戦に比べてチームとしての火力は落ちている。
けれど、安定している。
ベテランの案内人だけあって、みなさん子持ちのおやじだぜ。
だから、おじょうさんたちが出りゃあいいんじゃね?
結局、作戦会議に巻き込んだサナがくれた情報は、それくらいで。
そんな簡単な話か、とも思ったが、有利に戦える条件なんてあってないようなものだ。
そういう連中相手ならリーゼを出しても必要以上の怪我はさせないだろうと思い切った、二試合目。
良い意味で予想を裏切る、危なげない戦い。
囮にするつもりはなかったのだが、結果としてリーゼが誘い役になり、ほとんど背中合わせでリンレットがそれを援護。
自然にフィルとシルトが自由に動ける状態になり、序盤こそ拮抗していたが一人、二人と着実に退場願って、残すは相手リーダーのみ。
大盛り上がりの観客には悪いが、もう決着がつく。
踏み込みの浅いリーゼは、相手が反撃に転じる前にするりとリンレットと入れ替わった。
ルレンと同世代だという男は、ちらと苦い顔を見せる。
飛び込んで来たリンレットに、彼は焦らず身の丈ほどもある棍を構え直す。
けれど、打って出ようとは、しない。
その躊躇いを、感情とは裏腹に容赦なく撃ち抜く。
まだ耳慣れない軽い音。
突き飛ばされるように、男の上体が傾ぐ。
歯を食いしばって彼は肩を押さえた。
「…――はッ!」
そこへリンレットが短刀を振る。
辛うじてその一撃を、男は棍を流して避けた。
その足元へ、もう一度引き金を引く。
男の視線が、反射的に誘われる。
もらった。
愉しげなその呟きを、微かに聴いた。
示し合せたように、リンレットが身を引く。
そして、風を切る銀色。
男が諦めたように苦笑したのが、見えた。
『…――決まりましたっ! 勝負ありです!』
仰向けに倒れた男に、シルトが手を伸ばす。
リーゼとリンレットが、ぱっと顔を見合わせて嬉しそうに笑う。
『両チームとも、素晴らしい戦いでしたね。皆さん、大きな拍手をお願いしますー!』
降り注ぐ音の中、リーゼが振り返った。
瞳をきらきらさせて、駆け寄って来る。
「…やりましたっ! 私も、頑張れましたよねっ?」
「もちろん。凄ぇじゃん、リーゼ!」
思わず手放しで褒めると、リーゼは紅潮した頬を更に染めた。
ふわ、とほころぶ表情。
「私もっ、頑張ったんだけど!」
「おー、流石リンレットは流れ作んの上手いよな。昔と違って安心して見てられたよ」
リンレットは、「もー」とふくれて見せたが、すぐに堪え切れず笑みを零した。
控室に戻ると、今回は留守番を任されたカディが出迎えてくれる。
勝ったよー、とはしゃぐリンレットに、彼は静かに「見てましたよ。勝ちましたね」と答える。
テンションが低めなのは、試合に参加出来なかったからだろうか。
或いは、リンレットと出られなかったからだろうか。
若いなー。
「でも疲れたー。二連戦、やっぱりキツイね」
「そう?」
平然と答えるシルトは、愉しげな表情に不釣り合いなほど、鋭い眼。
戦いの余韻に浸るように、手甲をつけたままの手をふっと握り込む。
「思ってた以上に、面白いじゃん」
物騒だが、まあ、彼らしいと言うべきか。
「ね、フィルたちも一緒に行く?」
いつの間にか、何か食べに行く話になっていたらしい。
タオルを抱きしめるようにして汗を拭いていたリンレットが、振り返る。
同じタイミングで、歓声が響いた。
「…流石は凪屋の売れっ子ですね」
舞台の方を見て、カディがやや皮肉めいた言葉を漏らす。
首を傾げたリーゼに、「次はポートリエ姉妹が出るんですよ」と教えてくれる。
「そっか、それで。もともと討伐ショーメインの案内人だったから仕方ないんだろうけど、あの子たちの戦い方って、私たちと全然違うよね」
思うところがあるというより、不思議そうな口調でリンレットは言った。
「そう…なんですか?」
「うーん。俺も、ちゃんと見たことはないしな」
問いに首を振ると、リーゼは落ち着かない様子でちらと舞台の方を見た。
こういうところはわかりやすい子だ。
フィルは苦笑して、言った。
「じゃ、見てくか?」




