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ロストクラウン  作者: 柿の木
第四章
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7、作戦会議




 あと、リーダーは貴方がやりなさい。

 きっと、良い勉強になるでしょうし。

 

 そう言った姫の真意は、わからない。

 フィルとしては一試合でこれだけ疲れたのだから、ぎりぎりスケジュールのトーナメントで連戦なんていうのは、本気で、勘弁して欲しかった。

 頂戴した湿布を、必要ないかなと思いつつ人差し指に巻いて、「いや、こんなだし」と丁重にお断り。


「…うん。やっぱ、フィルが良いよ!」


「そうですね。一試合目も、結局フィルさんの援護があって勝ったようなものですし」


「まあ、そうかもね。実力も知ってるし、悪くはないんじゃない?」


「後衛だけあって、全体が見える立場ではあります。足を引っ張らないなら、反対はしません」


 お断り、したかったのだが。




「…………めんど」


「フィルさん、もう観念して下さい」


 呟いたフィルに、リーゼが呆れたように言った。

 元工業区の、緑地。

 出店の飲食スペースとして、真っ白なテーブルと椅子があちこちに出ている。

 白い陽射しを遮るのは、見るからに浮かれた色のパラソルだ。

 その一つを占領して、チームでの作戦会議。

 大会二日目の午前。

 朝から始まった試合に、コロシアムに入れなかった人々が軽食片手に公園でラジオに齧りついている。

 すぐ隣のテーブルで、頭を寄せ合うように耳を傾けていた男女がわっと騒ぐ。


「良いじゃん、別に。どれだけ勝ち上がっても六連戦くらいでしょ? 軽い軽い」


「六連戦。うあ、『リィンレツィア』駆け抜けた方が絶対楽」


「それは…、そっちの方が、大変じゃ」


 軽いと言い切ったシルトも、「君って比較対象が普通じゃないよね」と椅子に寄りかかった。


「お待たせー」


 そこへ、買い出しに行っていたリンレットと荷物持ちのカディが戻って来る。

 午後に控えた二試合目のために必要な物を、というわけではなく。


「いろいろあって迷っちゃった」


 ご満悦のリンレットが椅子に腰を下ろすと、カディが持っていた食べ物をテーブルに並べて行く。

 湯気の上がるフライに、果物とクリームが盛られたプレート。

 一人ずつ渡された飲み物は、何が入っているのか、緑と黄色のグラデーションだ。

 涼しい顔でこれだけ運んで来たとは。

 もはや曲芸。


「じゃ、食べながら作戦会議、始めよっか?」


 リンレットは飲み物に口をつけてから、言った。

 美味しいのか美味しくないのか、はぁ、と息を吐いてテーブルに置く。


「次はチームエントリーのとこと当たるみたいだし、ちゃんと作戦考えないと」


「大手じゃないですが、昔からの案内人が多く所属しているところがチームを作ったみたいですね」


 カディが険しい顔で、案内人の名まえを列挙する。

 フィルも知っている名だ。


「ふぅん。で、強いわけ? そのチーム」


「詳しくは知らねぇけど、案内人としてはかなりのベテラン勢だな。同じ案内所内でチーム作ったってことは、そこそこ連帯感もあんだろーし」


「でも、負けられません」


 リーゼの一言に、デザートカンパニーの二人が頷く。

 1stとは言え、ライバル社の人間に厳しく評されたのはやはり悔しかったのだろう。


「で、どうするわけ? リーダー」


「はあ?」


 シルトは、「作戦会議なんでしょ」と頬杖をついた。


「誰が出るかとか、どういう攻め方するとかさ。何かないの?」


「って言われてもな。砂獣討伐の集団戦闘はともかく、俺、基本一人で動くことが多かったから」


 チームでの戦い方は、知らないことの方が多い。

 フィルの返答に、シルトは不思議そうな顔をした。


「そうなんだ? あの姫さんがご指名したくらいだから、何かあると思ったのに」


「…そーいえば、確かにそうだよね。っていうか、凪屋の姫と知り合いだったんだ。フィル」


 ああ、うん、とフィルは鮮やかな色のジュースに口をつけた。

 凪屋の姫との関係は、実に穏やかではない。

 あの地から、一人帰って来たフィルを尋問したのは、彼女だ。

 あまり、美味しくない。


「知り合いってほどでもねぇけど。イグの騒ぎん時に、会ったんだよ」


「ああ」


 納得したカディに申し訳なくて、もう一口緑色を飲み込む。

 実際あの時フィルもイリアも招集を受けていたが、現場は大混乱で彼女と顔を合わせる機会などなかった。

 初めて会ったのも、話したのも、粛清の後だ。


「でも、見つめ合ってませんでした?」


「えっ、誰が!?」


 リーゼは冷ややかに、「フィルさんと、彼女」と遠慮なく答える。


「へえ、そういう意味でも『何か』あったわけ?」


「ないない。何言ってんだ」



「本当かよ? ささ、にいさんさくっと白状しちまえって」



 五人の沈黙を受けて、手帳片手にその人は「あれ」と首を傾げた。

 ちゃっかり会話に加わろうとしたのを誤魔化すように、彼は焦げ茶色の頭を掻く。

 いつの間に。


「サナさん」


 フィルが名まえを呼んだことで、リンレットとカディは一応警戒を解いた。

 サナはぱしっと手帳を閉じて、断わりもなく空いた椅子に座る。

 そして、「おたくらオープンだな」と感心したように言った。


「にいさんたちはともかく、デザートカンパニーのお二人さんは有名人だぜ? 出店なんざ回ってりゃすぐに記者が飛んできちまうよ」


 そうして、今日は耳につけたイヤホンを「これこれ」と指差す。


「てなわけで、出来りゃ二人に一言二言頂きたいんだが」


 サナは慣れた様子で名刺を出して、リンレットとカディに渡した。

 勢いに押されて受け取った二人は、顔を見合わせる。


「サナさん、相変わらず、余裕ない感じですね」


「そーなんだよ。相変らず、人手がなくてよ。今日もきりきり取材して記事書いて。ははは、あいつら帰って来たら覚えてやがれぇ」


 仲間はでかいネタを追ってる、とか言っていたか。

 仕事の状況はあまり変わっていないようだ。

 遠い目をして呻いたサナに、リーゼが唐突にぽんと手を打った。


「サナさん、一応ガーデニアニュースの記者ですよね。取材を受ける代わりに、ちょっとだけ協力してもらえませんか?」


「一応!?」


「この間いろいろ面倒事に巻き込んでくれましたし、ちょっとくらい良いでしょう?」


 サナは「あ、はい」とへこっと頭を下げる。 

 リーゼは、にこりと笑った。





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