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ロストクラウン  作者: 柿の木
第四章
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4、そして初戦

 



 向かい合って立つと、彼らはやはり嫌な顔をした。

 相手チームは2nd三人と野良らしき一人。

 案内人たちは多少差はあるものの、一様に耐砂獣用の剣を腰に差している。

 貸し出し用の携帯通信端末を付けた野良の男は、リーチの長い槍を手にしているが、見た限りでは扱い慣れているという雰囲気でもない。

 案内人の三人は無論カディとリンレットを知っているようで、低く「これは外れだなぁ」とぼやいた。

 もし敵として当たったら、確かに外れだとフィルも思っただろう。

 比較的小振りのアックスを手にしたカディは、刃を被う皮製のカバーをきつく縛り直している。

 リンレットは鞘に収めたままの愛用の短刀を、早々にベルトから抜いていた。

 シルトの手甲に至っては、そのまま許可されたらしい。

 刃が当たんなきゃいいだろー、とか、手甲で殴るくらいなら平気だろー、とか。

 何かあってからじゃ遅えよ、GDU?


「地味に危ねーな」


 かく言うフィルも、カートリッジは違えど常の叡力銃が相棒だ。

 相手を傷つける危険も然ることながら、こちらが負うダメージも実は試合レベルではないかもしれない。

 ラテの合図で一斉に頭を下げ、陣形を組む。

 今日は開く予定もないであろう誘導口から、砂海の風が吹き込んだ。

 

『それではー、始めっ!』



 カディとシルトが同時に、砂を蹴った。

 一瞬遅れて、リンレットが駆け出す。

 振動を感じそうなほどの声援に、フィルは右耳を押さえて叡力銃を構えた。

 色の無い叡力カートリッジは、誰かさんたちの不仲に加えてどこか不安を誘う。


『おー、流石デザートカンパニーの若きエース! 迷いのない踏み込みです』


 ふんわりとしたラテの声。

 新しい防護ガラスの向こう、ちらりと見上げた客席は満員御礼。

 これが、大会か。


『カディってば、出過ぎじゃない? 撹乱は任せてって』


 専用の回線を使って、リンレットから通信が入った。


『リンレットさんの手を煩わせるまでもないですよ』


 答えるカディは、アックスの柄で一人を打った。

 相手チームはこちらと同じくリーダーが決まっていないため、総当たり戦だ。

 全員を倒して、勝利となる。

 恐らく実力的には、敵にならないが。


「囲め、囲め!」


 案内人の一人が叫んで、カディに殴られた男を除いて三人が包囲網を作る。

 それを全く無視して、シルトが手負いの男を殴った。

 撓るような手甲が、咽喉元に入る。

 あれは、落ちたな。


『二人ともっ、囲まれるよ!』


 先行した二人から離れて、リンレットが警告する。

 聞こえているはずだが、カディもシルトも退こうとしない。


「ちゃんと仕留めなよ」


「おこぼれ拾っといて随分な言い草ですね」


 挙句、この応酬。

 カディの牽制を躱して、案内人の男が踏み込む。

 フィルは引き金を引いた。

 ぱしゅ、と気の抜けるような音。

 男は振り被った剣に衝撃を受けて、よろめく。

 きちんと狙い通りだが、フィルは顔を顰めた。

 叡力銃は叡力の装填具合によって、多少引き金の重さが変わる。

 これは、異常に軽い。


「うわ、指先の違和感が半端じゃねぇな」


 はっきり言うと、気持ち悪い。

 フィルの試し撃ちは「外れ」に見えたのだろう。

 観客からヤジが飛ぶ。


『これは攻撃にはなりませんでしたが、タイミング的にはナイス援護ですっ!』


「やる気あるんですか? ちゃんとやって下さいよ!」


 ラテのせっかくのフォローを遮って、振り返ったカディが怒鳴る。


「怒鳴んなって。ちゃんとやってるよ」


 フィルは肩を竦めて答えたが、これまた気に食わなかったらしい。

 思いっきり、睨まれた。

 その上飛び道具を潰そうと、野良がこちらに向かって来る。

 せっかくだ。

 突きを躱して、槍を握る手元に叡力銃を向け、撃つ。

 男は短く叫んで、槍を落とした。

 痛みをやり過ごすように、撃たれた手を押さえ込んで身体を折る。


「…まあ、木剣で引っぱたいたぐらいかな」


「フィル!」


 近くまで退避して来たリンレットが、さっとフィルと男の間に割って入った。

 男は「くそ」と吐き捨てて、慌てた様子で槍を拾い上げる。


「リンレット」


 まるでフィルを庇うような動きに、思わず咎めるように名を呼ぶと、彼女は困った表情で「ごめんね」と謝った。


「あのね、ここ貰うから、カディたち…、フォローしてもらっていい?」


 シルトに殴られて一人は完全にダウンしている。

 カディとシルトが対しているのは、二人。

 彼らの腕を考えれば、全く援護の必要はないが。


「…ああ、うん。え、あれ、フォローすんの?」


 合間に入るラテの実況はカディとシルトの立ち回りを褒めているが、ルレン辺りが見ていたら頭を押さえそうな戦い振りだ。

 カディの間合いにシルトが割り込み、シルトの動きをカディが制限してしまっている。

 非常に、戦い辛そうだ。

 実力者二人が揃って、器用に足を引っ張り合っている。


「お願い、ね!」


 リンレットは短刀を持ったまま拝むように手を合わせ、持ち直した男に向かって行った。

 割と、無茶振り。

 だが、どうにかした方が良いのは確かだ。


「邪魔なんだけど」


「こっちの台詞ですよ」


 微かに、やり取りが聞こえる。

 押されている訳ではないが、あれでは到底決着がつかないだろう。


「…はは、あれじゃ仲間割れしそーだもんな。って、笑い事でもねぇか」


 リンレットの援護に数回引き金を引いてから、フィルは駆け出した。





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