3、大会
チーム分けから一夜明け、延期の影もなく大会が開幕した。
朝から初夏らしい晴天、少し暑いがこういう催し事には最適だ。
長々と続くこの大会は、かつてはユニオンが、今はGDUとガーデニア市議会が全面的にバックアップして開かれる。
言わばガーデニアの公式行事だ。
今日からしばらくは、街を挙げての大騒ぎ。
盛り上がってんな、と他人事だったのは去年までの話で。
観戦はともかく参加の意思は皆無だったフィルは、いまいち盛り上がり切れないままチームのメンバーを見回した。
デザートカンパニーのリンレットとカディ。
ウェルトットでは英雄扱いのシルト。
そして、フィルとリーゼ。
まあ、この面子ならフィルがどんな馬鹿をやっても目立たないけれど。
「……仕組み過ぎだろー」
「え、でも一応バランスは、取れてるよね?」
レイグが一枚噛んだことは確かだが、それを知らないリンレットは首を傾げる。
大会は開催期間が決まっているため、割とぎりぎりのスケジュールで試合が回るらしい。
リンレットとカディは慣れた様子だが、開会式も見ず控室に駆け込んで戦闘準備開始。
試し撃ちもしていない大会専用カートリッジを叡力銃に嵌めて、フィルは「そうだけど」と言葉を濁した。
「立場だけ見て組み合わせたんでしょうね。優勝とか、出来ちゃいそうですけど」
顔見知りと組めて、やはり安心したのだろう。
リラックスした様子のリーゼが、のんびり言った。
「チームになりたかったわけじゃなんだけどね」
「うん。その点は、有難いわ」
「GDUの決定ですから仕方がないですが、足、引っ張らないで下さいよ」
「……へーい」
シルトとカディは、まあ、昨日からこんな調子だ。
『――決まりました! 試合終了ですっ!』
ノリノリのラテが、初戦の勝者を告げる。
どっと湧いた歓声が、控室に反響した。
「もう、ですね。何だか、実感ないまま始まっちゃいました」
「参加してると、いつの間にか始まって、ホントあっという間に終わっちゃうよ?」
リーゼにそう答えて、リンレットが立ち上がる。
その手が、ベルトの短刀に落ちた。
一試合目は、リーゼを抜いた四人だ。
彼女はそこで思い出したように、ぽんと手を打つ。
「ね、それで、結局リーダーって誰がやるの?」
チーム分けの発表から何度目かのその問いに、カディがちらとシルトを見遣る。
「誰でも構いませんけど」
「二試合目までには決めないとだもんね。私は、持久力ないし辞退したいなー」
「…同じく、です。当たり前ですけど、ちょっと荷が重いです」
女性陣が頷き合う。
試合中狙われることも考えれば、当然かもしれないが。
「普通に考えたら、カディかシルトだろ。他の面子がやられても自力で切り抜けられそーだもんな」
じゃんけんでもしたら、とフィルが半ば本気で勧めると、カディに「適当過ぎますよ」とばっさり切られた。
「ま、一試合目の結果で考えたらいいんじゃない?」
酷く冷静な提案をしたシルトは、「役立たずがなっても、面倒なだけだしね」と付け加える。
「……そうですね。口先だけの人間がなっても迷惑ですしね」
カディが、それに笑みを作って答えた。
フィルは叡力銃をホルダーに収めて、呟く。
「何だろーな、すげぇ、不安」
「そう? 私は、フィルと出られるから安心だけど」
リンレットの笑顔に、フィルは肩を落とす。
せめてもの救いか、リーゼだけは同意を込めて控えめに頷いた。
「…怪我しないように、気を付けて下さいね」
「おー」
そしてラテの柔らかい声に、呼ばれた。




