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ロストクラウン  作者: 柿の木
第四章
73/175

2、五人集合




「フィルっ!」


「ッぐ」


 聴き慣れた明るい声。

 勢い良く飛びついて来たリンレットは、そのままフィルの背に負ぶさる。

 何とか踏み止まったフィルに、シルトが呑気に「良く出来ました」と手を叩いた。


「フィルってば、どーしたの? 大会出るんだ? もー、早く言ってくれれば一緒にエントリーしたのに」


「リンレット、苦しい」


 耳元で一気に言い切ったリンレットは、わざわざ落ちないようにフィルの首に腕を回す。

 聞いてない。


「あ、でも、もしかしたら同じチームかもしれないよね?」


 そうだと良いなぁ、と彼女は囁く。


「…リンレットさん、いつまでそうしてるんです?」


「あ、リーゼちゃん、いたんだ? 久しぶりー」


 リンレットが笑う気配がする。

 表情の見えない彼女とは違い、リーゼは何故か険のある目つきになった。

 そして、フィルを睨む。


「フィルさんもっ! 何大人しくしてるんですか!」


「え、俺が悪ぃの!?」


 理不尽。


「モテるね」


「……この状況をモテると言う?」


 恨みがましくシルトを見ると、リンレットはようやくフィルの背から下りた。

 ひょいとフィルの正面に回ると、彼女はにこっと笑って「フィル、訓練ぶり」と挨拶を仕切り直す。


「おー。リンレットも出んだ?」


「うん。凪屋がポートリエ姉妹まで出して来てるのに、デザートカンパニー(うち)が不参加ってわけにはいかないでしょ? 一番出たがってたのは父さんだけど、1stは出ちゃダメだし。だから私たちがエントリーしたの」


 リンレットは、「ね」とフィルの肩越しに同意を求めた。

 予想通り、振り返ったフィルに鋭い視線が突き刺さる。

 ああ、やっぱり。


「機嫌悪そだなー、カディ」


「…ええ。さっきまではそう悪い気分ではなかったんですけどね」


 リンレット同様に、きちんと武装したカディはわざとらしく額を押さえる。

 気にした様子もなく、リーゼが「カディさんも、お久しぶりです」と丁寧に頭を下げた。

 彼はそれにはきちんと会釈を返した。


「カディとリンレット、ペア? ルレンさん、結構本気出して優勝取りに行ってんな」


「んー、ホントはちゃんとチームでエントリーしたかったんだけど、一期生の訓練とかあって今年はメンバー集まんなかったんだよね」


 でもカディは怪我のお陰で新しい予約入れてなかったし、とリンレットはカディの隣に並んだ。

 彼はリンレットを見下ろして、「怪我の功名ですか」と柔らかく苦笑する。


「そう何回も凪屋に優勝取られちゃ、たまんないもん。カディ、本気出してこうね!」


「はい」


 ぐっと拳を作ったリンレットに、カディが頷く。

 リーゼがこっそりと「カディさん、嬉しそうです」と笑う。


「微笑ましいなー」


「ですね」


「ふーん」


 三人にじろじろと見られて、カディが眉間に皺を寄せる。

 文句を言いかけた彼を、リンレットが「で」と遮った。


「フィルはリーゼちゃんとエントリーしたの? そっちのおにいさんは? 友だち?」


「友だちというか、仕事でちょっとな」


「ご同業だよ。飼い犬さん」


 わざわざ曖昧に答えたフィルの気遣いを、シルトはあっさりと無駄にしてくれる。

 きょとんとしたリンレットに対して、カディはそうと聞いてあからさまに嫌悪を浮かべた。


「野良、ですか」


 問い返しではなく、侮蔑を込めた言い方だった。

 やはり反発心が強いようだ。

 シルトは腕組みをして、薄く笑った。


「そう、大会って誰が出ても良いんでしょ? 飼い犬に喧嘩売るチャンスだからね」


「…活きの良い野良は、叩き甲斐があって良いと思いますよ」


「気が合うね。僕も偉そうな首輪付きって殴り甲斐があると思うし」


 妙な緊張感に、リーゼが腕を擦る。

 カディが突っかかって来ないのは楽だが、のんびり見ていられる取り合わせではない。


「…カディってば。もしかしたらこのおにいさんとチームになるかもしれないんだよ? 喧嘩買ってどうするの」


 リンレットに溜息を吐かれて、カディはようやく気を治める。


「流石は、3rdのご友人ですね」


「…そのやり取りには混じりたくねぇな」


 向けられた矛先を無視して、フィルは「ほら」と舞台の中央を指す。

 タイミング良く、簡素なお立ち台にしゃんと背筋を伸ばした華奢な人影。

 彼女が掲示板の前に立つと、自然に舞台から喧騒が遠退く。


『みなさん、大変お待たせいたしましたぁ。これより、GDUによる参加者チームの発表を行います!』


 マイクの前に立った彼女は、ぺこりと頭を下げる。

 耳の横で髪を束ねたリボンが、動きに合わせてふわふわと揺れた。

 頭を上げた彼女は、ずり落ちそうな眼鏡をさっと押さえる。


「可愛い方ですね」


「あれ、受付のラテさん」


 リーゼは「あ、確かに、声」と頷く。

 わっと拍手が起こり、その音に「ラテちゃん、頑張れ」と声援が混じる。

 ラテは微かに頬を染めて、応えるように小さく頷いた。


『五人未満でのエントリーを行った方を対象に、GDUが独断と偏見でチーム分けを行いました。後々苦情が来ないように、一応バランスを考えてのチーム分けになりますー。これ以降、欠員は基本的に補充出来ませんのであしからず』


 大会は、五人一チーム。

 試合に参加するのは四人だが、連戦の負担を考えて試合毎にメンバーを入れ替えて戦うのが基本だ。

 そして、チームは一人リーダーを決め、リーダーのみ必ず全試合に出場する必要がある。

 試合も、リーダーがやられたら負け。


『…みなさんはこれからチームが決まりますので、リーダーの決定は二試合目まで猶予されます。どうしても決まらなかったら、じゃんけんで大丈夫ですよ』


 ふわっと言ったラテに、参加者から笑いが起こる。

 けれどリーゼは難しい顔のままだ。


「意外と…、本格的な団体戦なんですね」


「だろ? 凪屋とかイグの自警団が優勝候補って言われんの、当然っちゃ当然だよな」


 凪屋は、討伐ショーで培った団体での戦闘技術がある。

 イグの自警団も、集団での戦いにかけてはプロだ。彼らは団結力も凄い。

 どうしても、即席のチームとは差が出る。


「それに、GDUのチーム分けって見事に平均されてるからね」


 リンレットが口を挟み、同意を込めてカディが頷く。


「こちらは2nd二人でのエントリーですから、残りの三人は野良やタグなしって可能性が高いですね」


 突出した組み合わせにならないよう、苦労しているのだろう。

 突然チームになった2ndと野良、或いはタグなしが、リーダーを決めて協力して戦い抜く。

 結構、ハードかもしれない。


『みなさん、チームの方とは仲良くして下さいね。それでは、発表です!』


 ラテは、さっと掲示板の布を引いた。




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