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ロストクラウン  作者: 柿の木
第三章
70/175

21、彼の予告



GARDENIA NEWS 1170.4.29


ウェルトット、グルメ探訪


 さて、ガーデニア周辺の旬な観光スポット紹介も、遂に最終回。

 今回紹介したいのは、ウェルトットの夜店より離れた穴場の酒場だ。

 観光客向けではない硬派な店に見えるが、品数は豊富で若い女性や子ども向けの料理まで幅広く提供している。

 店主は住民にも評判の粋な親仁で、料理だけなく細やかな気配りが魅力。

 店は「酒場」を称しているが、ノンアルコールドリンクも数多く取り揃えている。

 賑やかな夜店から足を伸ばし、ふらりと粋に一杯。

 シメには、ウェルトット名物の砂狼のスープを。

 友人と、或いは恋人と訪れてみてはいかがだろう。



大会エントリー期間、延長決定


 延期が決定しているGDU主催の大会のエントリー期間が、延長された。

 エントリー自体は、例年通り今月1日から始まっていたが、その締め切りを来月の2日まで延長するという。

 GDUの関係者は、「延期に関して、やはり多くのお声を頂いている。エントリーの期間延長は苦肉の策。少しでも多くの参加者を集め、大会を盛り上げたい」と語っている。

 すでに、凪屋からは『姫』の指導を受けたポートリエ姉妹が参加することがわかっている。

 毎年上位に食い込むイグの自警団も、エントリーを表明。

 またデザートカンパニーからも、新進気鋭の案内人がエントリーをしたという噂もある。

 参加を躊躇っていた、貴方。

 このエントリー期間の延長が、貴方の人生を変えるかもしれない。

 今年も新たな「スター」の誕生を、期待したい。







『もしもし、僕、ティント。今、首都の研究所前にいるよ』


 そしてぷつりと、通信が切れた。

 何、今の。

 フィルは情報端末のガーデニアニュースのページを閉じて、イヤホンを押さえた。

 サナの依頼を無事にこなして、二日間は休みと決めた。

 渋っていたリーゼも「体調管理も修行の内」と言い包めたため、案内所は酷く静かだ。

 のんびり朝食を摂ったフィルは、習慣でガーデニアニュースを読んでいたのだが。

 旧式の電話のディスプレイが知らせる時刻は、「9:20」。


『もしもし、僕、ティント。今、アースト社の本社前停留所にいるよ』


「…何、ティント。嫌がらせ?」


 再びの不気味な通信に、フィルは低く言った。

 今度は切れずに、『やだなー』とのんびりした声が返って来る。


『携帯通信端末の通信テストに決まってるじゃん』


「へえ。呪い殺されんのかと思ったよ」


『ちょっと怪談っぽかったでしょー? え、フィーくんてば吃驚した? 吃驚したの?』


「……吃驚はしないけど、腹は立つな。凄く」


 ティントは『えー』と何故か不服そうに声を上げた。

 フィルはデスクに頬杖をついて、「で?」と訊き返す。


「何のテストだって?」


『通信テスト。実は君の携帯通信端末を、首都とも通信出来るようにしてみました! え、いやいや、お礼とかいいよー』


「…うん。お礼とか、言ってねえし」

 

 だから何してくれてんだ、ホント。

 不愉快な通信で気が付かなかったが、本来GDU支給の携帯通信端末はガーデニアと砂海でしか使えない。

 ティントが、首都から、フィルの携帯通信端末に通信を入れること自体がおかしい。


『楽勝だったよ?』


 自慢げなティントの言葉など、耳を素通り。

 これはまた、バレると大変だ。

 今のうちに言い訳を考えておかなくては。


『さてさて、テストの結果も良好だし、そろそろ僕もガーデニアに帰るよー』


「…わざわざ首都まで行ったわけ」


『え、違うよ? 学会が終わって、さー帰ろって思ったらGDUから正式に依頼があってね』


 ティントは楽しそうに笑った。


『大会で使える専用の叡力カートリッジ作ってくれってさ。まー、フィーくんのためならって思って、しばらく首都の研究院に籠ってたんだ。出力限界まで落とすだけだから、これまた楽勝だったけど。いやいやー、だから、お礼とかいいってー』


「…………」


 フィルは椅子に寄りかかって、息を吐いた。

 何か、何言ってるか頭に入って来ない。


「あのさ、俺、大会とか出ねえよ?」


『え? 出るでしょ?』


「何でそんな不思議そうなんだよ。そんな面倒な予定、ないって」


 ティントはしんと黙りこみ、それから『あ、トラム来たー』と不自然に話題を変えた。


『えーっと、それじゃフィーくん、トラム内は通話禁止だから切るね。じゃ、また』


 ぷつり。

 フィルはイヤホンから手を離した。

 これは、何か。


「嫌な、予感が」


 砂海で感じるような、何かが動き出す空気。

 そしてティントが絡むと、それは「気のせい」で済まないことが、多い。

 白い陽光が窓から射し込む今日は、まさに初夏の走り。

 冬ほどではないが、案内人には少し厳しい季節が来る。


「まあ、これ以上何かあってたまっかって感じだけど」


 フィルは予感を振り払うように首を振って、静かに案内所の天井を仰いだ。

 




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