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ロストクラウン  作者: 柿の木
第二章
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18、夕闇迫りて





「仕方がないので一応、礼は言っておいてあげますよ」


 声真似をしたリンレットがわざわざ、ふい、と顔を背ける。

 忠実に再現された伝言にフィルとリーゼが苦笑すると、彼女は呆れたように肩を竦めた。


「もー…、男ってどうして意地っ張りなんだろ」


「そ、そこで『男って』って言われると立つ瀬がないんだけど」

 

「だってホントのことでしょ? カディってば無理しちゃって、結局また怪我人に逆戻りなんだよ?」


 治りかけの足で、あれだけ立ち回れば当たり前だ。

 カディにはまた数日の療養が言い渡されたという。

 デザートカンパニーの門扉の前で、腰に手を当ててリンレットは憤る。

 仕事から戻って来たらしい案内人たちが、頭を下げて通り過ぎて行った。

 夕陽に染まる石畳。

 伸びる影の足元に、大きな包みが二つ置かれている。

 見送りに来てくれたリンレットが抱えて来たものだ。

 リンレットはその包みに視線を落として、気持ちを落ち着けるように長く息を吐いた。


「…父さんも無茶してくれてさ、フィルにまで怪我させてたらホントに、家出もんだよ」


「よせよせ。また血相変えて大捜索だぞ」


 わかってるけど、とリンレットは頬を膨らませた。

 そういう表情は、小さな頃と全く変わっていない。

 

「ごめんね、フィル。訓練手伝ってもらったのに、痛い思いまでさせて…。あのね、お詫びって言ったら何だけど、これ、持って行って!」


 彼女は包みを持ち上げて、フィルとリーゼにそれぞれ手渡す。

 意外と重い。


「日持ちするの詰めたから、ちゃんと食べてね? 案内人は身体が資本なんだから。お礼も、少ないけど後で送るね」


「お礼これで充分だって。あんま、大したことはしてないし」


 缶詰やら調味料やらが詰め込まれた包みをリーゼと二人で覗き込む。

 リーゼが「久しぶりに実家に帰って来た息子みたいですね」と、ぽつり呟く。

 確かに。

 フィルの言葉に、リンレットは強く首を振った。


「そんなことないよ! フィルのお陰で無事に訓練が終わったようなものだもん。それに、あの子も吹っ切れたみたいだし。ね?」


 あの子か。

 その決意を聞いたのは、つい先程のことだ。

 三日間で少しは懐いてくれたらしい一期生たちとの別れ。

 そこに姿を見せたアルフは、「案内人を続けます」と少し気恥ずかしげに語った。


 タグが付くまでは頑張って、この業界をちゃんと学んで。

 それから家業を継いで、いつか先輩に使ってもらえるものを、必ず造ります。


 まだ痛むらしい肩を押さえて、けれどリーゼと同じようにきらきらした瞳をして。


「うん。良かったよな、ホント。結局、家業については訊きそびれたけど」


「え!? フィルってば気付いてなかったの?」


 リンレットにまで言われるとは。


「…そんな一般常識なんかよ」


 リーゼが笑いを堪える口元を包みで隠して、「アルフ・アーストですよ」と種明かしをする。

 

「彼、アースト社の跡取り息子なんです。フィルさん、凄い約束してもらっちゃいましたね」


 アースト社。

 刃物しか取り扱っていないが、砂獣対応の武器を製造販売する大手の武器メーカーだ。

 ぽかんとしたフィルに、リーゼとリンレットが互いに視線を送り合う。

 

「フィルはさー、砂海じゃないとちょっと隙があり過ぎるよね」


「本当に。砂海にいる時の危機管理能力はどこへ行っちゃうんでしょうね」


「……」


 言い返せないフィルの腕を、リンレットがふいに引いた。

 今は解いたままの栗色の髪が、風に揺れる。

 それを指で押さえて、彼女は微笑む。

 

「今回はうちがお世話になっちゃったけど、フィルに何かあったら手伝いに行くからね。私も父さんも、フィルのこと、家族だと思ってるんだから」


 ちゃんと、わかってるの?

 そう言いたげな瞳に、フィルは勢いのまま頷き返す。

 充分過ぎるほど、わかっている。

 リンレットは、ぱっと手を離した。


「うん。それじゃ、またね! リーゼちゃんも、今度はもっといろいろ話せるといいな」


 彼女は無邪気な表情で、バイバイと手を振った。





 

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