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25、暗転
頭が痛い。
軋む音がしそうなほどの激痛。
磁気酔い。
視界を奪う灰色の中、男が身体を丸めるように倒れている。
不自然に歪んだ背中。
すでに乾いた血が黒々と服を染めていた。
この人も、死んでいる。
頭が痛い。
ぐらりと、男の肩が揺れる。
小さな白い手が、その肩を掴んでいた。
揺さぶる。何度も。
子どもだ。
青白い顔をした子どもは、表情もなくこちらを見上げた。
何か言いたげに唇が震える。
生きている。
頭が痛い。
その小さな身体を、息絶えた男の腕から抱き上げる。
きつく子どもを抱きしめていたはずの腕は、あっさりと砂に落ちた。
それを見て、子どもは嫌がるように男の服を掴む。
おとうさんも、たすけて
頭が痛い。
服を掴んだままの子どもの手を、握る。
ひんやりとした手。
息苦しい。
ごめん。
でも、きみは生きてる。
俺と、行こう。
子どもは小さな手に、ありったけの力を込めて。
それから、父親の服を離した。
金色の瞳を、真っ直ぐこちらに向けて。
うん、と小さく、こたえた。




