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ロストクラウン  作者: 柿の木
第一章
26/175

25、暗転




 頭が痛い。

 


 軋む音がしそうなほどの激痛。

 磁気酔い。

 視界を奪う灰色の中、男が身体を丸めるように倒れている。

 不自然に歪んだ背中。

 すでに乾いた血が黒々と服を染めていた。

 この人も、死んでいる。

 

 頭が痛い。


 ぐらりと、男の肩が揺れる。

 小さな白い手が、その肩を掴んでいた。

 揺さぶる。何度も。

 子どもだ。

 

 青白い顔をした子どもは、表情もなくこちらを見上げた。

 何か言いたげに唇が震える。

 生きている。

 

 頭が痛い。


 その小さな身体を、息絶えた男の腕から抱き上げる。

 きつく子どもを抱きしめていたはずの腕は、あっさりと砂に落ちた。

 それを見て、子どもは嫌がるように男の服を掴む。

 

 おとうさんも、たすけて

 


 頭が痛い。


 服を掴んだままの子どもの手を、握る。

 ひんやりとした手。

 息苦しい。

 

 ごめん。

 でも、きみは生きてる。

 俺と、行こう。


 子どもは小さな手に、ありったけの力を込めて。

 それから、父親の服を離した。

 金色の瞳を、真っ直ぐこちらに向けて。

 うん、と小さく、こたえた。






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