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ロストクラウン  作者: 柿の木
第一章
25/175

24、迷い子を穿つ

 



 彼女は、ぱっと自分の腰に手をやった。

 鞘と同じように焦げ茶色のベルトに固定されたポーチ。

 そこから、叡力カートリッジを取り出す。

 

「その、役に立つか判らないんですが、これ。ティントさんから」


 透き通った紫色が、澄ましたように揺れる。

 フィルは銃口を迷子に向けたまま、それを片手で受け取った。

 それは昨日試し撃ちをしたものと同じに見える。


「改良したからもう一度試してね☆ だそうです」


「あ…、そうですか」


「今度はちゃんと連射出来るようにしてあるみたいで、それから効能を聞いたんですけど……。圧縮した高濃度閃光弾に叡力エネルギーを特殊配合した簡易叡力分離システム、だそうです」


「は?」


「圧縮した高濃度閃光弾に叡力エネルギーを特殊配合した簡易叡力分離システム」


「み、耳を素通りするんですが。意味判って言ってる?」


「いえ、全く」


 さっぱりと言い返したリーゼは、「少なくとも」と付け加える。


「閃光弾でも叡力弾でもないみたいです」


「?」


 フィルは銃口を下ろし、首を傾げた。

 閃光弾でも通常の叡力弾でもない。

 けれどその紫は、言われてみれば確かに二つを混ぜた色に違いない。


「閃光弾と叡力弾? じゃあ、それさっきにいさんがやったのと同じことが出来るんじゃねえのか?」


 不思議そうにそう言ったのは、未だ名も知らない男だった。

 リーゼが「さっきやったこと?」と不安そうな顔をする。


「閃光弾に叡力弾をぶつけて冷気を発生させるってやつだよ。さっき迷子を砂から引きずり出す時にいさんがやってたろ?」


「閃光弾に叡力弾をぶつける!? 何をやったのかと思ってましたけど、本当に馬鹿みたいに危ないことする人ですね!」

 

 噛み付きそうな勢いのリーゼに「すみません」と即謝って、フィルは誘導弾のカートリッジをはめ直した。

 追い撃ちの時のように片手にはティントの試作カートリッジを持ったまま、改めて狙いを定める。

 その意図を察して、リーゼが小さく首を振った。

 

「やっぱり…、撃つ気なんですね」


「どうせもう一度試さなきゃいけないんだろ? 相手もいるし、丁度いいじゃんか」


「何が丁度いいのかわかりませんけど」


「外が駄目なら、中から、だろ?」


 さっとリーゼの表情が引き締まった。

 援護の叡力銃は、もうほとんどが沈黙している。

 突破口になるなら儲けものだ。

 駄目でもフィルが上手く逃げれば何の問題もない。

 丁度いい。

  

「リンレット、カディ。こっちまでそいつを誘導出来るか?」


『えっ、出来るけど』


「誘導したら、すぐに退避を」


『う、うん。了解!』


 フィルの通信に、リンレットがすぐに返答する。

 時折短剣を振りつつ、彼女は確実に迷子を誘導する。

 カディがフォローのために並走し、それまでは遠かった音が刻々と近くなる。


「こ、こっち来るぞ? おいおい、ガラス壊れてんのに、大丈夫なのかよ…!」


 息苦しくなるほどの存在感が地響きと共に迫って来て、男は腰を浮かせた。

 フィルはのんびりと答える。


「ガラス壊れてるから、こっち来てもらってんだけどな。心置きなく、近距離で撃てるし。リーゼ、その人連れて少し離れてろ」


「嫌です」


「……え」


「ここにいます」



 壁際ぎりぎりで示し合せたようにリンレットとカディが左右へ跳んだ。

 リンレットはどこか心配そうな、カディは見極めるような鋭い視線を、一瞬だけフィルに向けた。

 割れたガラスの向こうに、迷子の金色の頭部が見える。

 早くも二人を追おうと頭を振る迷子に向けて、フィルは誘導弾を撃つ。

 弾かれたそれが、ぱぁんと心地よい音を響かせた。

 即座に反応した迷子はぐるりとこちらを向いて、崩れた壁に顎を乗せる。

 そこに獲物がいると知って、それは嗤うように口を開けた。

 誘導弾のカートリッジが、足元に落ちる。

 目の前で揺れるのは、透き通った紫。

 指をかけたトリガーが、重い。

 これは、とフィルは舌打ちをして。




 撃った。






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