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ロストクラウン  作者: 柿の木
第一章
22/175

21、そして

 

 

 

 小さな変化に、観客が一瞬呆けたようにどよめく。

 跳ねた砂が何事もなかったように落ちると同時に、しゅ、と微かな音がして、砂面から白い煙が上がった。


「出る」


 フィルの言葉に、カディが舞台へと飛び出す。

 散々人を罵ってくれるくせに、ある意味では信頼されているのかもしれない。

 その信頼を裏切ることなく、迷子が飛んだ。

 喘ぐように大きく開けられた口。

 獲物を捕えるためではなく、それは助けを求めるように勢いなく一瞬で閉じられる。

 カディの動きを見つつ、フィルは叡力銃を撃った。

 きん、と金属質な音が響いて、首元の鱗が何枚も飛び散る。

 それは、最初にカディが狙った急所だ。

 

 美しいほどに淀みない弧閃。

 

 落ちて行く迷子の首に、迷いなく振り抜かれる銀色。

 息を吐くほどの瞬間に、被さるように血が噴き出した。

 ゆっくりと天を仰いだ迷子は、切なげに、遠く、啼いた。

 何かを引き摺るような、絶叫。

 どぉ、と迷子の巨体が斃れた。

 




 いつまでも収まらない歓声に、デザートカンパニーの討伐チームは困ったようにけれど誇らしげに手を振って応えている。

 舞台の中央に、迷子が横たわっている。

 流れた血は砂が啜って跡形もなく、圧迫感を覚えるほどだった巨体は命が失われてまるで造り物のようだ。

 カディが派手に仕留めてくれたお陰で、注目は舞台の上。

 フィルはほっと息を吐いた。

 ここぞとばかりに通信に入る称賛の声。

 1stであるルレンの手を借りずにあの迷子を討伐したタグ付きたちに、一声かけたいのだろう。

 遺構の中に木霊する歓声と携帯通信端末から聞こえる声。

 フィルは端末を操作して、回線を切り替えた。


「にいさん! アンタすげえな!」


 ばん、と背中を叩かれてフィルは呻いた。

 どこから取り出したのか、新しい酒瓶片手に、男は何度もフィルの背を叩く。


「何だ、どうやった? おれも叡力銃は使ったことあるがあんなこと出来るなんて聞いたことないぞ!」


「いや、あまり誉められた使い方ではないんですが」


「追い撃ちしてたろ? 誘導弾の調節は判ったけどな、さっきの砂に撃ちこんだのは何だ?」


「理屈は同じです。閃光弾は速さが叡力弾とそう変わらないので、砂に撃ちこむことで追い撃ちの叡力弾にぶつかるようにしたんです。誘導弾と違って、閃光弾と叡力がぶつかると一瞬ですが強い冷気が発生する」


 専門家に怒られるような使い方だ。

 まあティントは「そんな面白い現象、どうして早く僕に教えてくれないの!」と喜んで、現在理論をまとめているらしいが。

 いわば我流で化学反応を起こしているようなものなのだから、危険ではある。

 けれど通常砂の中で冷気を感じることのない砂獣は、その異変を危機と判断して砂から飛び出してくる。

 冷気自体は強いが一瞬の発生なので全く攻撃力はないが、意外とこれが使えるのだ。

 砂海でも、何回か使ったことがある。

 説明されて、男は感心したように何度も頷いた。


「……アンタ、本っっ当に、3rdか? 名前は?」


「…………」


 繰り返された質問に、フィルは視線を舞台に向けた。

 リンレットたちはすでに舞台から降り、迷子の骸を検分していた凪屋の誘導役二人がその体にアンカーを撃ち込んでいた。

 その一人が手を上げて合図をすると、迷子の巨体がゆっくり誘導口の方向へと引き摺られて行く。


「……あれ、何してるんですか?」


「あ? ああ、にいさんは見たことないか? 小さい砂獣だと遺構の中で始末出来るんだが、あれぐらいでかいと砂海に骸を捨てるのよ。誘導役がああやってアンカー撃ち込んで、誘導口の滑車で移動させんだな」


「……え、今?」


 ぱっと男を振り返ったフィルに、彼は反対に不思議そうな顔をする。


「こんなとこにいつまでも死体をほっといたら、誘導口に砂獣が集まってくるだろ? だからでかいのはやったらすぐに砂海まで捨てに行くぞ。誘導役はそういう仕事も担ってんのさ。命がけだろ?」


「………………」


 迷子の頭が誘導口近くまで移動すると、重い音を立てて誘導口の格子が上がって行く。

 討伐ショーを見終えた観客はそれを見ようともせず、ゆっくりと入場口へと向かっている。

 今?

 何故皆、気付いていないのか。

 フィルは通信を入れようとして、舌打ちする。

 さっき回線を切り替えた。

 一秒でも惜しいこの時に。

 先程までの討伐チームの回線番号に合わせる。

 最後の一つの格子が、ゆっくりと口を開けて行く。




「開けるな!」





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