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ロストクラウン  作者: 柿の木
第七章
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14、王の沈黙




 そのままイヤホンを毟り取ると、リーゼはそれを投げ捨てた。

 軽い音を立てて、床を転がる。

 認可を受けて、やっと手に入れた砂海案内人である証。

 きっと自分が死ぬまで、ずっと持っていることになるだろうと思っていたものだった。


「砂海案内人になるのが夢だったのでしょう? これは、軽々しく外して良い物ではありません」


 何事もなかったかのように、レイグは膝を折ってリーゼの携帯通信端末を拾い上げた。

 リーゼは首を振る。

 あの人の選択を罪と断じた組織に、何の未練もなかった。

 ただ、悔しい。

 三流と嗤われて、天才だったのに燃え尽きたんだと嘆かれて。

 彼はずっと、どんな気持ちで3rdのタグを付けていたんだろう。

 恥じることなく、ただそれを掲げる強さが、最初からあったはずはないのに。


「私の夢は、あの人のような砂海案内人になることです」


 泣きそうで、震えそうな声を必死に抑える。

 本当に欲しかったのは、GDUの認可なんかじゃない。

 レイグはそれを聞いて、瞳を伏せた。

 きっとこの人も、ラテと同じだ。

 見捨てたい訳じゃない。

 出来ない理由は、言い訳ではないのだろう。

 ただそれに、リーゼは寄り添えない。


「……リーゼさん!」


 ラテの声を背中で聞いた。

 踵を返して、GDUの出口に向かう。

 その扉は、リーゼが手を伸ばす前に開いた。

 はっと足を止めたのは、行く手を遮ったその人たちを、良く知っていたからだ。

 ルレン・クロトログと、イリア・リリエル。

 砂避けのローブを纏った1stたちは、リーゼを見て別段驚きはしなかった。

 ラテはリーゼを来ることがわかっていたようだし、或いはこの状況を見越して1stたちを呼んでいたのかもしれない。

 ルレンは苦く笑う。


「……レイグ、気持ちはわかるがな。同じことにならないようにって話じゃなかったのか?」


 彼は余裕のある足取りで、リーゼの脇を通り抜けた。

 そのまま、眉を寄せるレイグの肩を叩く。


「こういうことを上手く説明するのは、私の役割ではありませんから」


 レイグは不満そうに言って、ルレンに拾った携帯通信端末を手渡す。


「……自警団にはすでに協力要請をしています。彼のことですから外に被害は出さないと思いますが、あの時とは状況が違います。ガーデニアを離れている1stに関しては、集まるまで少し時間が必要です。充分に、注意を」


「わかってるさ」


 会話が理解出来ないリーゼを一瞬だけ見て、レイグは階段を上がって行った。

 ルレンはそれを見送って、肩を竦めた。

 呆れたように「あれはあれで苦労するな」と呟いて、ゆっくりとリーゼを振り返る。


「…………」


 ルレンとイリア。

 二人に挟まれる形だ。

 ここに来たのは、間違いだったのかもしれない。

 1stを二人も突破して砂海へ向かうのは、ともすれば人質になっていた時より分が悪い。


「リーゼさん」


 近寄って来たイリアが、そっと腕に触れた。

 あたたかい指先。

 それを振り払うことも忘れて、リーゼは思わず縋るように彼女を見つめた。


「……お願いです。行かせて下さい」


 GDUが、クラウンがそれを許さないのだとしても。

 リーゼはもう、証を捨てた身だ。

 イリアはリーゼの首元を痛々しそうに見て、「いいえ」と否定の言葉を口にした。

 ブロンドの髪が、柔らかく波打つ。


「GDUとして、公にこの件に関わることは出来ません。けれど私たち1stは、あの時と違って救出を禁じられてはいません」


「…………え」


「行くなとも、行けとも言われていない。今のところ、1stたちは自分の判断で動けるってことだ。あいつみたいに一人で行っちまおうってのは、ちと早計だな」


 ルレンの言葉に、リーゼは浅く呼吸をした。

 混乱する。


「じゃあ……、フィルさんを、助けてくれるんですか?」


 イリアは、すぐには頷かなかった。

 代わりに、ルレンを見て言う。


「先に。私は、彼女に説明をしてから、行きます」


「おう、うちの手堅いとこ集めてからイグに向かう。そっちは頼むぞ」


「……わかっています」

 

 ルレンはリーゼの携帯通信端末を、イリアに預ける。

 そして優しい瞳をリーゼに向けた。

 幼い子に言い聞かせるように「一つだけ」と、穏やかな声で付け加える。


「一つだけな。レイグはああ見えて、オレたちと同じくらいフィルのことを心配しているはずだ。ただ、立場もあるからな。勘弁してやってくれ」


「…………レイグさんが、クラウンなんですか?」


 立場と聞いて、リーゼは思わず疑問を口にした。

 今、GDUの決定を握っているのはレイグのように思える。

 1stたちに指示を出しているのなら、やっぱり。

 ルレンとイリアは、きょとんとした。


「あいつが? そりゃあ、大変だろうな」


 笑ったのは、ルレンだ。


「レイグがクラウンだったら、1st全員集めて、フィルを助けて来いって問答無用で命じるぞ」


「……そこまではしないと思いますが」


「するだろ?」


 一応首を振ったイリアは、問い返されて複雑な表情をした。


「するかも、しれませんね」


 結局、ルレンの言葉を認める。

 本当だろうか。

 レイグがそこまですることを、想像出来ない。


「まあ、そのうちわかるさ」

 

 ルレンはリーゼの心境を見透かしたように言って、それからイリアに視線を送った。

 イグで会えたらな。

 軽く手を挙げて、彼はGDUを出て行った。






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