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ロストクラウン  作者: 柿の木
第五章
122/175

21、終息




 やっと帰り着いた西ランス港は、別段作戦成功に浮かれているという雰囲気でもなかった。

 救出対象車に乗っていた面々は無事に街まで辿りつけたことを喜んでいるが、それ以外はすでに後片付けや住民たちへの説明で慌ただしい。

 迎えてくれたラスカも、「御苦労」と一言。

 それでも、含みのない笑みだっただけ、ましかもしれない。


「楽しかったわ。西ランス港(ここ)で運転手として働いちゃおうかしら」


 ゲルドは指先を口元で合わせて、小首を傾げる。


「娯楽として流行りそうですね。私も、また乗りたいです」


「…違う意味で、商売になりそうだな」


 盛り上がるゲルドとリーゼの後ろ、げんなりとしたフィルとウォンを窺ってラスカは苦笑する。

 往路ほどではないが、結局は帰路も中々の絶叫振り。

 ウォンに至っては何度か窓から顔を出して、完全ダウン。

 哀れな。


「避難してた人もだいぶ戻って来たんですね」


「ああ、砂獣被害に慣れていないとは言え、西ランス港も圧力に晒されて来た街だ。明日には元通りだろう」


 灯りの戻った街並みは未だ静かだが、深々と漂っていた緊張感は綺麗に払拭されている。

 彼女の言う通り、明日には何事もなかったように人々が行き交うだろう。


「それと、GDUのレイグとか言ったか。あいつに今回の件の調査を依頼しておいた。少なくともエラ・ディーネの連中よりはまともな対応をしてくれるだろうさ」


 砂海に関して素人だからこそ、慢心がないのだろう。

 素早い原因究明策だ。

 フィルは頷く。


「レイグさんなら、大丈夫でしょう」


「何やら仕事を抱えているようで、時間はかかると言っていたがな。仕方ない。変なところに頼むと、今度は全滅なんてことになりかねない」


「…そーですね」


 そこは上手く和解、とはならないようだ。

 寧ろ、今回の一件で更に軋轢が生じそうな予感。

 こればかりは、関係のないフィルたちが口を出せる問題ではないが。


「とにかく、西ランス港を代表して礼を言おう。ゲルド、助かった」


「あら、良いんですよ。取締にはいっつもお世話になってるもの!」


 そして、二人はにこやかに握手を交わす。

 さらっとスルーですね、とリーゼが笑った。

 何だかんだ、運転したのはゲルドだし、代表して注目を集めてくれるなら面倒事が少なくて助かる。


「疲れたし、宿戻るか」


「はい。ところで、予定通り明日ガーデニアに帰るんですか?」


「んー、一応見送ろう」


 狂う予定がある訳でもない。

 リーゼはまだ砂海慣れしたと言い切れないし、そう焦って無理をさせてみることもないだろう。


「今夜中にはルレンさんもこっち着くみたいだし、挨拶くらいしとかないとな」


「じゃあ…、もう一回くらい、あのスープ飲みたいです」


「気に入った?」


「はい!」


 そんなにか。

 スープくらいで喜んでくれるとは、お嬢さんの割に安上がりな子だ。


「じゃ、明日はルレンさんに挨拶して、飯食って、のんびりするか」


「賛成です」


 リーゼは屈託なく笑って、頷いた。



「…あの、さ。ちょっと待てよ」



 ごく控えめに、ウォンが口を挟む。

 ぱっと視線が集まって、彼は気まずそうにこめかみの辺りを掻いた。

 おずおずとラスカを見ながら、「こいつにも」と顎でフィルを指す。


「こいつにも…、お礼とか言ったほうが、良いんじゃないっすか」


「ほう」


 ラスカは面白がるように眉を上げた。

 ウォンは慌てて、「案内人も協力したんだ。それくらいは認めてくれよ」と付け加える。

 ゲルドが「そうねぇ」と腕組みをして考え込む。


「GDUと連絡つけてくれたのはフィルだし、誘導も流石的確だったわ。酔いかけてたけど、頑張ったものね」


 え、誰のせい?

 ゲルドは知らん顔で、「ラスカさん」と取締を促す。

 ラスカは初対面の時のように、あっさりとフィルに手を差し出した。

 急かすように、リーゼが腕を押す。


「世話になったな、案内人」


「いえ。何事もなくて、良かったです」


 今度は不意打ちの気配のない握手だ。

 ラスカは嫌に真剣な表情で、


「そうだな。砂海案内人としてやっていけなくなったら、うちで雇ってやろう」


 と、提案をしてくれる。

 縁起でもない。

 顔に出たのだろう。

 フィルの様子に、堪え切れず彼女は笑う。


「その子もまとめて面倒見てやるよ」


 それは有り難いことで。

 良かったわぁ、とゲルドが目元を拭う振りをした。

 

 誰も死ななくて。

 

 囁くような微かな呟き。

 フィルと目が合うと、ゲルドはいつもの見透かすような瞳をして。

 何故か泣きそうな表情で微笑んだ。





 



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