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ロストクラウン  作者: 柿の木
第五章
117/175

16、遠いつながり

 



 漠角は大群であっても、そこまでの脅威ではない。

 差し迫った脅威は、集まった漠角を狙って大型の砂獣が来ることだ。

 逃げ場を求めて漠角が外壁を突破することも、追って来た砂獣が街中へと侵入することも、充分に考えられる。

 そして、西ランス港に向かっていた旅人たち。

 レイグの話では、輸送車に乗った辺りで異変に気付き、そのまま立ち往生しているらしい。

 幸運にもデザートカンパニーのエイダという案内人が乗り合わせており、彼女の指示で後から来た案内人たちも客を連れて輸送車に避難したと言う。

 更にルレンがデザートカンパニーの精鋭を連れて西ランス港に向かってくれているそうだが、到着はやはり深夜になりそうだ。

 

 肝心の襲撃者は、というと。

 通行所の階段を延々上がった先。

 外壁から望んだ街道には、点々と茶色い塊。

 見渡す限り漠角、というほどではなかった。

 ざっと見て、二百はいない。


「…子ども連れているのも、いますね」


 様子を見るため、一緒に上って来たリーゼが遙か下方を覗き込んで言った。

 外壁にぶつかりそうな位置で輸送車が一台停まっている。

 何とか漠角たちから逃げて来たのかもしれない。

 二台も巻き込まれなかったのは、幸いだ。


「何て言うか『襲撃』って感じじゃないんだよな」


 彼らは特別殺気立った様子もなく、砂海で見かける時と同様のんびりうろうろしている。

 とりあえず安心だが、これでは誘導弾も効き目は期待出来ない。

 レイグとラスカが話し合った結果。

 海運は最悪の事態に備えて、避難のため船の準備を。

 案内人たちは漠角の誘導と輸送車の退避を同時並行で遂行することになった。

 が、漠角の誘導というのはフィルも経験がない。

 叡力銃の誘導弾は、「人を襲う砂獣」を相手に想定して作られている。

 ウォンがやらかしたように、ある程度怒らせれば誘導弾に反応するだろうが、あの様子では頭上を音が飛んで行っても、「あ、何か音したわー」くらいにしか思わないだろう。

 これはレイグも同じ危惧を抱いていたようで、ガーデニアの研究機関に問い合せてくれているが。


「…こっちも一応ティントに聞いてみっか」


「そう、ですね。あれでも天才って言われてますし」


 フィルはさっさと携帯通信端末を操作した。

 都合良く、漠角の研究が進んで論文が発表されて、とか。

 いや、ないか。


『はーいほー…………ら、ティント す!』


 やけに雑音混じりで、返答がある。


「ティント? 俺」


『え? 何? 流行りの  詐欺っ!?』


「や、そういうの、いいから」


『つれない… ――くんてば。今、どこ? ガーデニアじゃ  でしょ?』


「西ランス港」


 やっぱりなー、とティントは納得する。

 フィルの右側にぴたと張り付いて、聞き耳を立てていたリーゼも「随分聴き取りづらいですね」と眉を顰めた。

 昨日の救援要請より遥かに状態が悪く、完全に音が遮断される瞬間がある。


『僕、今首都―――さー。 んみ 活動――なんだよー』


「何つった?」


『だからね、   つー!』


 あんみつって聞こえる。

 駄目だ、突っ込んだら負けだ。


「ま、何してんのか知らねぇけど、ちょっと訊きたいことあんだ」


 不満そうな声を無視して、フィルはさっさと用件を伝える。

 ティントは静かに話を聴いていたが、


『んー、でも漠角に……… 、僕も くんと同じくらいの知識しか  よ?』


 と、あっさり答える。


『誘導弾は  かもしれないけど、閃光弾で…………して雄叫び上げながら―――けたら、びっくりするんじゃ  ?』


 出来ればそれをやりたくないから、通信を入れたのだが。

 途切れ途切れ聴いていたリーゼも、苦笑する。


「もっと学術的な話が聞きたい」


『注文多いね! うー、……だ! 海水、嫌いだ  ?』


「…潮風の話?」


『西………港――? みんなでバケツリレー……』


 あ、といやにはっきり声を上げて、ティントの声は聴こえなくなる。


「ティント?」


 耐えかねたのか、通信が切れていた。

 ガーデニアと首都なら可能な通信も、こう距離が開くと不安定になるのだろう。

 とりあえず訊きたいことは聴くことが出来たから良いが。


「バケツリレー?」


 リーゼが首を傾げる。

 火事じゃあるまいし、と笑い飛ばせないこの状況。

 漠角を誘導するには、やはり後方から追い立てるしかないだろう。

 最初の発破は、閃光弾だけでは心許ないのも事実。

 海水なら、爆発音をさせるより遥かに安全だ。


「やる? バケツリレー」


「え、本気ですか?」


 フィルは殆ど開き直って、笑った。


「効果があれば、儲けだろ」


 迷っていられるほど、時間もない。






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