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恋愛パセリ

作者: 鍛冶屋

 



  恋愛パセリ



 さっきからお前は熱心に庭の手入れをしているね。

 普段からめんどくさがり屋で、外に出るのもできる限り避けるお前が珍しい。

 明日はなにが降るのかな。


 「そこまで言わなくても」

 

 冗談だよ。

 しかし、本当にどこかのテレビ番組に応募したいぐらい奇妙な光景なのは確かだ。

 ああ、悪かった、悪かった。そう不貞腐れるなってば。

 でも一体、なにをやっているんだ? ハサミ片手に。



 「パセリを切ってるの」

 

 ああ、なるほど。夏に植えたのがもう育ったのか。

 お前にしては、随分たくさん植えたんだな。

 パセリ料理ってのはあんまり思いつかないけど、料理が楽しみだ。

 なにに使えるかな。スープにちょっとと添えたりぐらいしか思いつかないな。

 お隣さんにおすそ分けするのがいいかもしれない。

 

 しかし、ちょっと切りすぎじゃないか?




 「いいじゃない、たくさんできたんだし。豊作よ」

 

 まあ、そうだけどな。

 でも実のところ、パセリってそこまで好きじゃないんだよな……。

 ああ、食べるさ。そんな今さらって顔するなよ。分かりやすい奴だな。

 確かに大好きとは言い難い。むしろお前だってそうだろう。率先しては食べない。

 山盛りのパセリと根菜類のサラダが目の前に出されて、さあ、どちらか食べなさいと言われたら、答えはお前だって明らかだろう。

 だからと言って嫌いでもない。

 だけど、パセリって。




 「恋愛中にパセリを切ると、不幸が訪れたり、あるいは縁が切れたりする」




 ご名答。ついでに言うと、パセリの移植は悪魔が庭を支配するとも言われる。




 「あら、随分詳しいのね」


 お前がパセリを植えると言うから、調べさせてもらったんだよ。

 怠惰で植物を枯らせるのが上手なお前が、熱心にパセリの世話について俺に聞いてきたからな。

 これはいつ仕入れた情報かは……予測はできるけど。

 そういうことは仄めかさないではっきり示したほうが楽じゃないのか?

 ……それはお互い様って顔しているな。お前は妙なところで鋭い。



 「仄めかさないと、あなたに届かないから」


 そこまで俺は捻くれてなんかないさ。

 たとえ、ワンピースの刺繍をお前がなぞらない限り気付かなくたって。

 俺が冷たくあしらっていた時、紫陽花の花が出されて自分の行いに気づいたって。

 たとえ、嫌がるお前を無理やり恋人にさせたりしても……。

 

 捻くれてなんかない。世間が俺に追いついていないだけだ。

 だからこの性格を俺は直しはしないさ。

 ああ、言っているそばからまた切った。

 それだけ切って、俺たちの縁もあっさり切れるとでも思ってるのか?



 「心の癒しにはなるでしょう。私にはそれしかできない」


 なるほど、癒しか。

 その通りかもしれない。

 でも、それって可哀想だよな。




 「誰のせいかしら」


 それを言うのは、やめておいたほうがいいぞ。

 言えば言うほど惨めだよ。


 お前も俺も。






 「今夜はスパゲティにしましょうか」



 それはいいね。

 なるべく美味しいものを期待しているよ。





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