Project ZとZ cell
(Project Z?どんな計画なんだ?)
相坂はアイコンをダブルクリックしてその内容を確かめてみた。
(これは……日記?)
そこには日記のような物が記されていた。
(…………とりあえず、読んでみるか。今回のは重要そうな情報だ。)
相坂は日記を最初から読み進めてみた。
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2014年 4月21日
私、大住 智也は天才と言ってもいいほどの人体科学者だ。だが周りのバカどもは私の実力を妬み決して認めようとはしなかった。
さらに、あろうことか私を研究所から追い払った。私は大変遺憾に思い酒に明け暮れる毎日を過ごしていた。
だが、今は違う!私の実力を認め、新たな仕事を任せてくれた、偉大なあの人のおかげだ。私は今日から再びこの腕を存分に振るうことができるわけだ。全てはあの人のために。
2014年 4月28日
この研究所に来てますますあの人の偉大さがわかってきた。あの人は真の天才だ。このプロジェクトも先生無しでは決して生まれなかっただろう。私達は素晴らしい人に拾われたものだ。例えあの人の助手だろうともこの素晴らしい計画に関与できて非常に嬉しく思う。
この計画が成功した暁には人類は新たなステージに到達するだろう。私達にはできるはずだ。このProject ZとZ cellがあれば。
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(Z cell?cellは確か日本語で細胞?なんの細胞だ?)
相坂は新たなワードに少し戸惑いつつ、再び日記を見ていった。
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2014年4月30日
Z cellは素晴らしい細胞だ。なんでも、あの人が偶然、実験用のマウスの死体から見つけたらしい。
Z cellは本来その生物が持っている細胞に付着しその細胞と侵食し、全く別物の細胞にしてしまう物だ。
そして何が素晴らしいのかというと例え生物が死んでいたとしてもZ cellは活動出来るということだ。
むしろ活動が停止している死んでいる細胞のほうが圧倒的に侵食していくスピードが早い事が最近の実験でわかってきた。
そしてZ cellに侵食された細胞を持つ生物は人の血や肉を求め、狂ったように暴れまわる。これが一番素晴らしい。それこそZの名にふさわしくゾンビのように肉を求める姿はとても美しい物だ?
だが難点もある。最もやっかいなのはゾンビ共は我々人間の言うことなどは一切聞かない。もちろん彼らの生みの親とも言えるあの人の言うことも聞かない。全く遺憾である。
そこで私達は先生を筆頭にZ cellと完璧に結合できる細胞を持った生物を探し、そいつから取った遺伝子を元にクローンを作り、人間の言うことを聞き、人の何倍も打たれ強く、ただひたすら敵を喰らうために存在する人間兵器を作るのだ。それが偉大なるProject Zの全貌だ。
これは革命だ。私達はそれを成し遂げるのだ。
2014年 5月17日
今日から被験体を集める。人間はもちろん、鳥や犬からライオンや虎などの大型動物。さらにはアメーバなどの微生物も、被験体として扱う。
人間以外の動物共は比較的楽に手に入る。
だが、どうしても人間は手に入れるには誘拐をするしか手段は無い。これも革命の為に必要な犠牲だ、致し方ない。いや、むしろ被験体の連中は誇りに思うべきだと私は思う。
誘拐は金を払って力しか能がない連中に任せた。ちっぽけな金で貴重な被験体が手に入るんだ、安い物だ。
2014年 5月26日
くそッ‼︎どの被験体も全くうまくいかない。全ての細胞がZ cellに喰い尽くされてしまう。日にちにイライラがたまっていく。
2014年 6月3日
犬とカラスでZ cellに対してある程度抗体を持つ細胞を持った個体が発見された。
研究者は私を含めて大喜びをした。
あの人も革命の一歩が踏み出せたと語っていた。
2014年 6月24日
最初の二つの個体から様々な動物で抗体をもった細胞を持つ個体が発見されたがそれらも段々とZ cellに打ち負け、結局はゾンビ化する物が多かった。
それに、人間の方はまだある程度の抗体を持つ者もいない。もっと人間の被験体が必要だとあの人はおっしゃった。
連中にも金を倍払い攫う人数をどんどんふやしていくことにした。
これを機に何かが変わることを祈ろう。
2014年 7月5日
ついに人間で抗体をもった個体を発見した。だが、こいつも他のと同様どんどんと細胞が侵食されていっているが、他のと比較すると緩やかなペースで侵食をされていっている。
とりあえずコイツの細胞をサンプルとして保管しておく。
最近、実験に失敗したゾンビの始末に手こずっているらしい。ゾンビの弱点は基本、脳だけらしい。背骨をおっても動くことが出来るし、心臓を刺しても数分は動くことができる。
よって、ゾンビ共は離れの棟に隔離しておくことになった。
そっちの方が殺すより都合もいい。これで私達もより実験に集中できるというものだ。
2014年 7月13日
初期の頃に発見された個体はほとんどゾンビ化してしまった。その前兆としては高熱、吐血、心拍上昇だ。
これに気をつけて私達も観察をしなければならない。
それにしても、あの個体はうるさい。女といえど現存する中で一番危険な被験体だ。まだ人間としての人格もあり、力も普通の女子としては格段に高い。
しびれをはきらしゾンビの檻の目の前に一回放置したのだがゾンビ達はその小娘に全く興味を示さなかった。
これらを含めて私達は小娘を拘束器具に縛り付け24時間体制で監視をすることに決定した。これで少しは落ち着くことができる。
2014年 7月20日
今日はとても素晴らしい日だ。
あの人は完璧にZ cellと結合できる個体が見つかるのは何年も先になるだろうと言っていたが、まさかこんなにすぐに発見できるとは。
しかもその個体は捕獲される時に手荒な真似を受けたため気絶をしている。これで騒がれることはない。パッとしない顔立ちの日本人だった。
しかしその個体の変化にはとても驚かされた。脳、運動能力の急激な発達。そして五感もさらに鋭くなっており、全ての数値が普通の人間をはるかに超えている。
さっそく明日から細胞の摘出をする。こんなにも早く革命がなされると思うと興奮して寝れない。本当に明日が楽しみだ。
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相坂は一旦日記を読むのをやめた。
体中がガタガタ震えており、真実をとても怖がっていた。
(7月20日?手荒な真似で眠らされてた?日本人とかパッとしない顔立ちとか、当てはまるのが多すぎる……!)
ふと相坂は先ほど自分が叩きつけて粉々にした机の一部を見た。
(………よくよく考えたらこんな立派な机が脆いわけがない。これも俺の中にあるゾンビの細胞のせい?
そういえば最初にあんな暗い部屋の中でスイッチを探せるほど目が良かったのもそのせい?
しかもゾンビは同じゾンビを襲わないからさっき襲わなかったのも理解できる。けど……………。)
相坂は髪の毛をかき乱し、片手で顔を覆い……
「こんなの……信じたくねぇよ。」
その事実は相坂にとっては重すぎた。自分は既に人間でもゾンビでもない存在……。自分がこれからどうすればいいのか全く分からなくなった。
「………………でも、なんでこんなゾンビがうろついてんだ?」
相坂は顔を覆ってた手を離してそう呟いた。
落ち込んでいる気持ちをなんとか奮い起こして日記の続きを読んでみる事にした。
相坂は特にゾンビがそこら中に徘徊している原因を探した。
(こんな事をしてたんだ。原因はまずここだと見ていい。あ、これか。)
そこには……
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2014年 7月29日
ゾンビの数が足りなくなっていたという報告を受けた。
が、今は貴重な個体から得た細胞の解析に忙しくそんな事にかまってられずカウントミスという結論を下しておいた。
2014年8月3日
最近ゾンビ共が居る別棟が騒がしい。ゾンビの量が増えすぎて棟のほとんどの部屋がゾンビ共でいっぱいになった。
移し方はガラスケースに入れて大広間のようなスペースに一体一体運ぶのだがそろそろ新しい棟も解放しなければならないかもしれない。
2014年 8月7日
最近、研究所の周りが騒がしい気がする。鳥がよく研究所の上空をまわっているのをよく見る。少し不気味だ。
2014年8月8日
あろうことかゾンビの監視員がゾンビになってしまった。理由は棟に忍び込んだ鳥がゾンビの肉を食べてしまいそのまま細胞が侵食されたらしい。
だが、あの人は大丈夫だと言っていたのだから大丈夫だろう。私達は自分の仕事をすればいい。
2014年 8月12日
ゾンビ共が離れの棟から何体か逃げ出したらしい。ヤツらは人の血肉を求めている。
研究所にいる人員が一つの棟に固まった。あの人は先にここからヘリで出て新たなヘリと共に私達を救いに来てくれるらしい。なんとも心優しいお方だ。
そういうことで私達はここで籠城することになった。あの人も3日で帰ってくると言っていたし、食料も1人、5日分あるから充分足りる。楽なものだ。
2014年 8月15日
あの人はいっこうにやってこない。何かあったのだろうか?心配だ。
2014年 8月17日
食料が尽きた。これから食料探しに行かなければならない。大丈夫、きっと食料はまだある。大丈夫。
2014年 8月18日
クソっ!保管してあったサンプルが無くなっていた。まさかあの人が持って行ったのか?そしたら私達はどうなる?まさか見捨てられたのか?
もう食料もない。生存は絶望的だ。
2014年 8月19日
館内でゾンビが発生して私はすぐ隣の実験室と自室に籠城している。
こんな時でもこの被験体は寝ている。
羨ましい、この男が羨ましい。
まだ死にたくない‼︎誰か助けてくれ‼︎
あの人はきっと来てくれる。私はそう信じてここで待っている。
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日記はここで終わっていた。
相坂はチラリとゾンビに喰われて死んでいる白衣の男を見た。よく見ると白衣の男は手に何か紙のような物を持っていた。
相坂は死体に近づいて行ってその紙を取った。
恐怖はもう感じてはいなかった。
その紙は写真だった。白衣の男ともう一人知らない人物が握手をしていた。
(………………この男か。「あの人」というのは)
そこに写っていたのは中年で小太りな少し禿げている外国人だった。すごく優しそうな笑みを浮かべている。白衣の男も幸せそうに笑っていた。
相坂は直立不動のままその写真の男を見つめていた。
自分を、世界をこんな風にした男の顔を脳に焼き付けるために。
次回、たぶん主人公外にでます。