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悪夢

作者: 朔夜

 肉が食べたい。ふとそう思った。肉ならばなんでもいい。ハンバーグ、から揚げ、とんかつ、牛丼。思い浮かべるだけで唾がわいてくる。加工食品でなくてもいい。ただ塩をふって焼いただけでも良かった。腹いっぱいに肉を食べることができるなら。野草と乾パンだけの生活にはいい加減うんざりしていた。


 そもそもどうしてこうなてしまったのだろう? 寝不足の体をひきずり歩きながら、俺は以前の面影も残っていないまっさらな平地を見渡す。ところどころにコンクリートの瓦礫が転がっているこの目の前の平地は以前、日野と呼ばれそこそこ発展した都市があった。かつて多くの人々が行きかい生活していたこの都市を俺は嫌いではなかった。

 だが、今は人影すら見当たらない。無理もないだろう。日野が焼け野原になったあの日、地球人たちは宇宙からやってきた生命体に捕獲され続けているのだから。

 最初のパニックを乗り越えた人々はたくましかった。隣人は敵となり、自分が助かるためには他人を蹴落とさなければいけない世界になったのだ。数少ない食料を奪い合い、隠れ場所を得るために殺しあう。みんなで仲良く助け合いましょうなんてきれいごとを並べるやつはいなかった。人間窮地に立たされると本性が出るというが、あまりの手のひらの返しように笑いがもれた。だが俺も偉そうなことは言えない。一日を逃げ延びるためにどんなことでもしてきたのだから。


 物思いにふけっていると視界の端に何やら動くものが映った気がした。

 焦点の合わない瞳でじっと見据えるとそれは徐々に俺のほうへ近づいてくる。よたよたと歩いてくるそれは近づくにつれて形をはっきりさせていく。

 肉だ。悲しいことだが、初めに思い浮かんだ言葉はそれだけだった。

 それを追いかけ捕獲し羽をむしる。取り出したナイフで首を落としさばいていく。下処理を適当にすませ、ライターでつけた火で肉をあぶる。火からおろした肉が冷めるのも待たずにかぶりつけば口いっぱいに肉汁がじんわりと広がる。

 こんなにおいしいものを食べるのは久しぶりだった。手や口が油でベトベトになるのもかまわず骨までしゃぶりつくす。人心地ついてふと悟った。カルガモだ。この肉はカルガモだと。俺は鳥の種類には詳しくないし見分けもつかない。それでもなぜか確信していた。この鳥はカルガモだと。


「ねぇ、知ってた? カルガモって食べれるらしいよ。しかも結構おいしいってウワサ。」

 声が聞こえた。女の、声。そうだ、昔アイツと話したんだっけ。

「私ね、一度食べてみたいんだ、カルガモ。本当においしいか確かめてみたいじゃん? こんなこと言ったらヒンシュク買っちゃうから大っぴらには言えないんだけどさ。」

 クスクスと笑いながら彼女はそう言っていた。確かにそうだった。

「カルガモ、うまかったよ。」

 俺は誰に言い聞かせるともなしに言葉をこぼすと、えーそうなの?と笑いながら言う彼女の顔が鮮明に映り、そして……。


 瞬間、目が覚めた。目を開けると灰色の天井。俺は眠っていたらしい。と、いうことはこれまでのすべては夢だったのだろうか。宇宙人の侵略も、知り合い同士の醜い争いも、すべて俺が作り出した悪夢だったのだろうか?

 だとすれば彼女は…………。

 とにかく外の光景を確認しよう。俺はベッドから降り、周囲を見渡す。視界に黒く物々しい鉄格子と、ランプが明滅する機械が飛び込んできた。

 めまいがする。ああ待ってくれ。いったいどこからが夢だった?

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