不運
久しぶりに短編を投稿します。
お休みしていた連載物も再開します。
良ければそちらも一読してみてください。
今日は空から植木鉢が落ちてきた。
いや、空と云う表現は間違っているか。正しくはマンションのベランダから落ちてきたのだろう。
鉢は私の目の前で粉々に砕け散っている。
何かが芽吹く前に落ちてしまったのだろう。そこに花はない。
もしかしたらそもそも種を植えていなかったのかもしれない。
飛び散った土はよく乾いている。
幸い私に怪我はない。
暫くマンションを見上げて、私は土を避けるように歩き出した。
マンションを見上げたことで私は漸く気づいた。
今日はよく晴れている。
実に気持ちの良い晴天だ。
そして私は目眩を覚えた。
こんなにも晴れている空を見ていると、瞳の奥が収縮して酷く痛む。
私は晴れた空が苦手だ。
できることなら昼間は外に出たくない。
昼間に外出するのであれば、曇っていたほうが良い。雨ならば更に良い。
暗ければ暗いほど良い。
暗い方が、余計なものを見ないで済む。
だから私は外出するのであれば、暗い方が良いと思っている。
私は幼い頃から、事ある毎に黒いものをよく目にしていた。
私以外の人には見えていないのだと、六つのときに知った。
そして蔑むような、哀れむような目で見られるようになった。
だからそれ以来、誰かに話すことはなくなった。
しかしそれは今も見えている。
見えてしまうものは仕方ない。
私はいつしかそれと折り合いをつけることができるようになっていた。
道を歩いていると黒いなにかが見える。
私は無意識にそれを避けて歩く。
するとその黒いなにかがあった場所に、先程のように鉢が落ちてきたりするのだ。
先程も道の真ん中に蠢いていた黒いなにかを見つけてしまい、少し立ち止まっていたところに鉢が落ちてきた。
私はとても嫌な気持ちになった。
普通の人には、私が見ている黒いなにかは見えていないらしい。
だから普通の人は道を真っ直ぐに歩くものだ。
それに比べて私はどうだろうか。
実におかしな人物に見えているのだろう。
それはとても嫌なことだ。
私も普通の人のように、真っ直ぐに歩きたい。
仮令その黒いなにかが、私に不運を報せるものなのだとしても、私はそれに気づかずに真っ直ぐに歩いてみたい。
私はあのときのような目で、もう見られたくはないのだ。
普通の人のように、私は不運を感じたいのだ。
私は晴天の街を歩いている。
ああ、また見えた。
そこに不運があるのだな。
もう分かったよ。でもね、私は不運を感じたいのだ。
だから私は、その黒いなにかに向かって、真っ直ぐに進んだ。
普通の人と同じように、私は晴れ渡った空の下を気持ち良く歩くのだ。
黒いなにかに近づいていく。
そして遂に、私と黒いなにかは重なった。
何かの笑い声が聞こえて、私は目を醒ました。
私のまわりにたくさんの人々が集まっている。
ああ、私は普通の人と同じように、不運に遭遇したのだ。
こんなに嬉しいことはない。
私もあなたと同じように、普通になれただろうか。
嬉しくて私は微笑んでしまう。
ひとりの男性が何かを叫びながら私に近づいてきた。
何かを必死に叫んでいる。
何を云っているのだろう。私には分からない。
近づいてきたその男性と目が合った。
止めてくれ。私はあなたと同じように、普通の人に成れたのだ。
だからその――。
――哀れんだ瞳で見つめないでくれ。
黒いなにかが、そこで笑っていた。
駄文乱文失礼しました。




