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ビュ=レメンの舞踏会 ―はじまりの招待状―  作者: 滝沢美月
第2章 忘れ去られた恋の唄
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第9話  魔導師の杞憂



 次の街チェに到着した一行は、宿を探すために大通りを歩いていた。


「なんだか静かな街ね」


 ティアナが大通りを見回しながら言う。


「先に寄ったザッハサムは国境の街として貿易が盛んだが、このチェは王都からは少し離れているからか活気に溢れた、というよりも穏やかな気風の街なのです」


 ティアナに抱かれたエルが説明をする。


「それにしても、なんだか静かすぎる気もするが……」


 その後ろを歩くジークベルトが微妙な違和感を感じて首をかしげる。


「あっ、見て下さい! あそこの宿はいかがですか?」


 先頭を歩いていたイザベルは、少し先を指さして走り出そうとして……つまずいてしまった!


「イザベル! 大丈夫……?」


 ティアナは、イザベルの側に慌てて駆けよる。エルはするりとティアナの腕から降り、ティアナはイザベルを抱き起すようにして顔を覗きこみ、異変に気づく。

 額に汗がにじみ頬は上気し、ぜえぜえと荒い息づかいでぐったりとしている。イザベルの額に手を当てたティアナは、眉根を寄せて、ぎょっとして声を上げる。


「すごい熱だわ……!」

「とにかく、宿に運びましょう」


 エルに言われて、ジークベルトがイザベルを抱き上げ、すぐ側の宿屋に駆けこみ、案内された部屋のベッドにイザベルを寝かせる。



  ※



「ティアナ様……ここ、は……?」


 倒れてから眠ってしまっていたイザベルが目を覚まし、体を起こそうとしたのを、慌ててティアナが押しとどめる。


「イザベル、そのままでいいわ。あなた、熱があるのよ……」


 ティアナがベッドの横の椅子に座りながら、心配そうにイザベルの顔を覗きこむ。


「申し訳ありません……ティアナ様。急ぎの旅なのに、体調を崩してしまい……」

「いいのよ。こんなになるまで黙っているなんて、辛かったでしょう? 気づいてあげられなくてごめんね、イザベル」

「いいえ、私は大丈……」


 言いかけたイザベルの言葉を、ティアナは首を振って遮る。


「いいから。さあ、この薬を飲んで。今は眠って、ゆっくり休むのよ。まだ、舞踏会までは余裕があるわ」


 そう言って、ティアナは持っていた小さな革袋の中から数粒の丸薬を出して、水の入ったコップと一緒に渡す。イザベルは黙って受け取り、薬を飲むと、再び眠りに落ちて行った。



「その薬は?」


 その様子を見ていたエルが問う。


「これ?」


 くすっと苦笑してティアナが薬を革袋にしまいながら言う。


「王宮にいた時、私が作った薬よ」

「ティアナ様が薬を……?」


 エルは目を瞬かせ驚いて、ティアナを見つめる。


「ええ。今飲ませたのは、解熱薬と念のため抗菌薬よ」


 エルは関心したように瞳を輝かせる。


「薬を作れるなんて、すごいですね……」

「そういえば、ティアは薬草学だけは熱心に聞いていたな」


 そう言って、ジークベルトがニヤニヤとする。


「お兄様とジークベルトは魔導師としての魔力の使い方を教わっていたけれど、私にはその魔力がない。だから、マグダリーナ様は、魔力がない私でも出来る薬草学を教えてくださったのよ」

「俺は苦手だったけどな、薬草学」


 眉間に皺を寄せるジークベルトを、くすっと笑って、ティアナは表情を引き締める。


「それにしても……イザベルには無理をさせてしまったわね。旅を初めて十二日……かなり強行に旅を進めてしまったから、きっと疲れが出てしまったのよ」

「ああ、俺とティアはレーナに鍛えられていたが、侍女がこんなに毎日歩き続けたのだから、よく頑張ったさ。イザベルが良くなるまではしばらくここで滞在するか?」

「ええ、私も賛成よ」

「私にも異論はない」


 ティアナとエルが頷く。

 窓側に座っていたジークベルトが立ちあがり、椅子を部屋の中央に持っていき、長い足を絡ませて座り直す。


「それにしても、この街の様子は少し気になるな……」


 ジークベルトの呟きにエルが、片眉を上げる。


「何か気になることでも?」

「しいて言うならば……空気が悪い。淀んだ風がたまっている……」


 普段のニヤニヤした顔から、一気に魔導師の顔になる。


「私には何も感じないが、それも魔導師としての力なのか?」


 おそらく、そんな感じ……とエルに視線を送り、首をかしげるジークベルト。


「何か悪いことの前触れじゃなければいいが……」

「やだ、不吉なこと言わないでよ」


 ティアナは少し怯えた声で言う。


「ああ……、俺の杞憂で終わるといいんだが……」




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