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第29話  塔に閉じ込められたお姫様



 レオンハルトはドルデスハンテの王城から、荷馬車の荷台にこっそり忍び込んだり歩いたりしてやっとイーザ国の王城についた。王城――といっても、自国ドルデスハンテ国の王城とは規模も小さく、城壁さえない城だった。

 初めて訪れる場所でどうやってエリク王子を探そうかと思案していると、王城の隣にそびえ立つ古びた塔の下で何か光っているのが見えた。近づいてみると、どこか見覚えのあるラピスラズリのブレスレットが落ちていた。ラピスラズリはドルデスハンテで多く取れる鉱石の一つ、きっと同じような意匠のブレスレットを見たことがあるのだろうと納得する。

 ふと塔の上を見上げると、窓が開いている。現在は使われていなさそうなとても古い塔なのに窓が開いていることに違和感を覚える。何かに導かれるように、ブレスレットを咥え塔の近くに立つ大きな木によじ登り始めた。

 猫になってから約一ヵ月が経ち、猫の体、生活にすっかり慣れてしまった。窓の高さまで登ると枝を伝って窓に飛び移る。

 塔の中は薄暗く、明かりは窓から差し込む日の光だけだったが、猫の目は暗いところでもはっきりと見える。だから、室内に置かれたベッドに少女が腰かけていたのに気づき、声をかけた。


「これは、あなたの物ですか?」


 なんとなく、少女の持ち物ではないかという思いから、そう言った。少女はぱっと顔を上げると眩しそうに目を細め、それから窓辺に駆けより両手を広げたので、レオンハルトはそっとブレスレットを手のひらに置いた。


「ありがとう……」


 ブレスレットを受け取り、腕にはめ直した少女はブレスレットを抱きしめるように握る。その愛おしそうにする様子が、微笑ましくて――うらやましくて。


「大切な物なのですね。失くさないでよかった」


 心から良かったと思って言っていた。

 少女は目を瞬かせ、レオンハルトをじっくりと見つめる。

 レオンハルトはその視線を受けて、気味悪がられているかもしれないという思いと共に、エリク王子に会った時のことを思い出していた。聡明なエリク王子が、妹姫の話をする時だけは年相応の少年に見えたこと、どんなに妹姫を可愛がってるかが伝わりドルデスハンテ国のラピスラズリのブレスレットを妹姫へのプレゼントとして渡したこと、さっき拾ったブレスレットがその意匠に似ていることに気づく。


「あなたはもしかして……イーザ国第一王子エリク様の妹君ですか?」

「ええ、エリクは私の兄です。私はティアナと申します」

「なぜ、姫君がこのような塔に……いや、それよりもエリク様は今どこにいらっしゃいますか?」


 薄暗く古びた塔の中に一人、閉じ込められるようにいる少女――ティアナ姫のことは気になったが、今は彼女の心配をしている時間はなかった。

 早くエリク王子に会わなければ……急く気持ちに、座ったり立ったりと落ち着かない。


「お兄様のお知り合い? お兄様はまだ遊学の旅から戻っておりませんが……」


 ティアナの少し心配そうな返答に、レオンハルトはあからさまに肩を落とし、沈んだ声を出す。


「なんと……いらっしゃらないのですか……?」

「お兄様に用があるのですか? 私で何か代わりに出来ることはないでしょうか? ブレスレットを拾ってくれたお礼をさせて下さい」


 そう言われて、レオンハルトはしばらく考える。遥々、イーザ国にまで来たのだ、このまま魔導師を連れずに帰っても、自分にかけられた魔法を解くことができない。それは意味のないことだった。


「では、どなたか知り合いの魔導師を紹介して頂けますか?」


 エリク王子ほどの優秀な魔導師ではなくてもいい、若くて、それなりに力のある魔導師ならば――きっと、一国の姫の紹介であればそれが期待できると、レオンハルトは思った。

 ティアナは快く引き受け、魔導師を紹介してくれると言った。招待状を書く間、レオンハルトは窓辺に腰を落ちつけて、その間、彼女の様子を観察した。レオンハルトが思った通り、ティアナはこの塔に閉じ込められてるようで、侍女が食事と一緒に紙とペンを持ってきていた。軟禁――というほど悪い状況ではなさそうだが、なぜ姫が閉じ込められてるのかという興味がレオンハルトの中に湧いてくる。


「お待たせしました。これを鍛冶屋通りのカーンという料理屋、そこにいるジークベルトという男に渡して下さい」

「ありがとうございます」


 その興味に首を突っ込もうとは思わず、レオンハルトは手紙を受け取ると、優雅に一礼し、すぐに塔を出ようとした。だけど……外を向いたレオンハルトは振り返って問う。


「本当に、私はこのまま行ってもよろしいのでしょうか? 姫君はこの塔に閉じ込められているのでしょう? なにか理由があって?」


 レオンハルトは興味本位から、首を突っ込まずにはいいられなかったのだ。



 そうして、一緒に塔を抜け出し、ビュ=レメンに向かうと言ったティアナに、微笑む。


「私の行き先も姫君と同じ、ビュ=レメンです。奇遇ですね」

「同じ目的地なら、一緒に行きましょう。人数が多い方が旅は楽しいわ。えっと、あなたのことはなんと呼んだらいいかしら?」


 ティアナは足元を歩くレオンハルトを見て尋ね、その問いにレオンハルトは答える。


「私の事は……エル、とお呼び下さい。では行きましょう。まずは魔導師の元へ」




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