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第25話  口は災いの門

ここからは<間章>となり、舞台はドルデスハンテ国・王宮に移ります。


ネタばれ・・・というカンジになるので、楽しみを最後までとっておきたい方は、

間章は読まずに、次の第4章をお待ちください<m(__)m>



「あなたももう十八歳、婚約者の一人や二人や三人や四人くらいいてもいい年頃なのですよ。それなのに、お見合い話を持ってきても写真さえ見ようとせず……母は嘆かわしいです」


 そう言ってソファーに優雅に腰かけた三十半ばの女性が泣き崩れた――ふりをする。

 ここは北の大国、ドルデスハンテ国。代表鉱石はラピスラズリだが、その他にも様々な鉱石が取れる鉱山が数多あり、その鉱石から作られた宝石や豊かな裁縫技術で作られる織物や衣装を各国に輸出する貿易の盛んな国である。

 その王城、第一王子レオンハルトの部屋のティールームのソファーに王妃と王子が向かい合って座っていた。

 レオンハルトは、王妃が珍しく訪ねてきてティータイムを一緒にしましょうと言いだした時から何か嫌な予感はしていたが、またその話かと辟易する。


「婚約者は一人で十分です。そのうちに私が自分で見つけますから、母上はご心配なく」


 レオンハルトはため息をつき、早くこの話を切り上げようとする。しかし、王妃の方が王子よりも二枚ほど上手の様だ。


「それならば、今すぐ、母の前にその花嫁を連れてきなさい!」


 むちゃくちゃなことを言う王妃である。レオンハルトが二の句を告げずにいると、王妃は口元にあてていた扇で侍女に合図を送り、立ち上がりながら言う。


「二ヵ月後に、あなたの花嫁選びの舞踏会を開くことにしましたから。自分で見つけると言うのならば、それまでに母が納得できる花嫁を連れてきなさい、いいですね!」

「舞踏会? 私はそんな話聞いていませんよ!」


 レオンハルトは眉間に皺を寄せる。


「今、致しました。これは決定事項です。すでに選りすぐった各国の姫や貴族の子女に招待状を送っていますから、あなたも覚悟を決めなさい」


 そう言って王妃は、レオンハルトの方を振り返りもせずに優雅な足取りで部屋を出て行った。



 一人残されたレオンハルトは大きなため息をつき、ソファーにどさっと座りこむ。


「舞踏会なんて、出たくないな……」


 誰にも聞こえないような小さな声で呟いた言葉に――返事が返って来る。


「ならば、舞踏会に出ないで済むようにして差し上げようか?」


 どこから声が聞こえたのかと、レオンハルトは寄りかかっていた背もたれから肘かけに手をついて体を起こし、誰もいないはずの部屋を振り返り辺りを見回すが、やはり誰もいなかった。

 そう思った時、窓の前に突如煙と共に若い男が現れた。

 歳の頃は二十後半か、すらっと背が高く時代錯誤の黒いマントを羽織り、長い黒髪を無造作に後ろに流し束ねている姿は自信に満ち溢れた不敵な印象を受ける。


「あなたは……?」


 レオンハルトは突如現れた男をねめつける。ここは仮にも王城の第一王子の私室である。警護の厳しい王城にやすやすと現れた男に警戒心を抱くのは当たり前。だが、男はばかばかしそうに笑い、肩を落とす。


「そう警戒しないで下さい。私は、レオンハルト王子のお味方ですぞ?」

「なぜ、そう言い切れる? 初めて会う人間の言葉を信用しろというのか?」


 レオンハルトは言葉を選びながら男を見、この男が誰なのか、見当をつける。


「ふむ、確かに初対面であったな」


 そう言った男は優雅に一礼し、その顔に不敵な笑みを浮かべる。


「私の名はルードウィヒ。“森の魔法使い”と言えば、分かるかな? 最近の者は私の事をそう呼んでいるようだが、できればルードウィヒと呼んで頂きたい」

「やはり、森の魔法使いだったか……」

「王子もご存じとは、私もそれなりに有名な様だ」


 ルードウィヒと名乗った男は、顎に手を当てて酷薄な笑みを浮かべる。


「森の魔法使いが、私に何の用だ?」

「王子の望みを叶えて差し上げようと思ってね」

「そう言われて、私が“お願いします”とでも言うと思っているのか?」


 強い口調で言うレオンハルトに対して、ルードウィヒは首をかしげる。


「なぜかね? 舞踏会に出たくないと言っていたではないか。私ならば、舞踏会に出ないで済むようにすることなど簡単なこと」


 そう言ってルードウィヒは、底の見えない黒い瞳で笑う。


「魔法使いに願いを叶えてもらう時は、必ずその代価を求められる――と、聞いたことがある。是といえば、あなたは何か私に代価を求めるはずだ、違うのか?」

「ふふ、聡明な銀の王子。よくご存じで。しかし、私はそんな無粋なことは言わんよ。私は無類の面白がりでね、退屈を凌げる楽しいことがあるのなら、見返りなど求めずに力を貸すさ。今、私が興味を惹かれているのは言うまでもない――花嫁探しの舞踏会に王子がいなければどうなるか?――だ。だから、否とは言わせないよ」


 ルードウィヒがパチンと指を鳴らすと、レオンハルトの視界は眩み、現れた時と同じ煙と共にルードウィヒは姿を消していた。




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