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ビュ=レメンの舞踏会 ―はじまりの招待状―  作者: 滝沢美月
第3章 月に叢雲 花に風
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第22話  花のバノーファ



 チェの街の疫病騒ぎも、ティアナの作った虹色の丸薬の効果で沈下し、他の街に広がることもなく、一段落ついた。

 イザベル、ティアナは疫病にかかり、ティアナは三日間意識を失ってたこともあり、大事をとってもう二日間留まり、チェの街を後にした。

 街を出る際、イヴァン医師やマグダレーナ、長屋の人達が見送ってくれた。姿が見えなくなるまで、手を振り続けてくれたマグダレーナとの別れを惜しみつつも、舞踏会までの日数があと九日と日が迫っていたこともあり、旅の先を急いだ。

 次の街はバノーファ、首都の手前の小さな花の街である。チェからバノーファまでは五日間、バノーファから首都ビュ=レメンまでは二日間かかる。予定外の疫病騒ぎに巻き込まれ、行程がギリギリになってしまったことを心配しつつも、チェの街を出てからは予想以上に道中を順調に進み、北上を続け、首都の手前バノーファの街に四日間で辿り着いた。

 舞踏会は五日後。イザベルが舞踏会用のドレスを仕上げたいと言い出したので、舞踏会に向かうギリギリまで首都より宿代が安いこの街に滞在することにする。

 泊る宿屋を決めると、ジークベルトとエルはどこかへ出かけてしまい、部屋の中にはイザベルとティアナの二人が残される。

 イザベルは部屋の中央の椅子に座り、若草色の生地、胸元と袖が純白に薄い桃色の紗がかけられた眩い生地を手に持ち、夢中になって舞踏会用のドレスの仕上げをしている。

 ティアナは窓辺に置いた椅子に腰かけて外を眺めた。数日前、チェの街でかかった疫病もすっかり治り、目眩もしないし体力も回復し体調は万全のはずなのに、どこか無気力で、時間をもてあましている。

 街には三階建ての白い壁赤い屋根の建物が並び、どの建物の窓にも色とりどりの花が飾られている。街の規模といい、建物の大きさといい、自国とのあまりの違いに驚かされる。外は麗らかな風が吹き、花を揺らしている。

 本当だったら今頃、畑で収穫している頃なのに、こんなところに私はいていいのかしら、と今更後悔の念が募る。

 お父様には手紙を置いてきたけど、きっと怒っていらっしゃるでしょうね。収穫の人手は足りているかしら……まあ、今年はあまり収穫出来る物がないから大丈夫ね。でも勝手なことをしてしまって心配しているかしら。

 ティアナはそう思うと、知らずため息が出て、それに気づいたイザベルがドレスを縫う手を止めて言った。


「ティアナ様、気分転換に街を散策して来てはいかがですか? 街の中央に社交場があるらしいので、そこで何か楽しいお話が聞けるかもしれませんよ」


 あまり外出をする気分ではなかったが、何もすることのないティアナは、イザベルに教えられた社交場に行ってみることにした。



 宿屋通りから大通りに出、大きな広場の横にある社交場とかかれた扉を恐る恐るくぐる。

 社交場、そこには国内外の噂話がすべて集まるという。中は酒場のようなカウンターが中央にあり、右左のソファーには人々が座り談笑している。

 ティアナは辺りを見回し、同じ年頃の少女達が談笑している群れに向かって歩き出す。近づくと一人の少女がティアナに気づき、話しかけてきた。


「あら、見かけない顔ね」


 そう言った少女は、扇で口元を隠しにこりと微笑み、ティアナを輪の中に誘う。


「イーザ国から裁縫師の修行に来たのです」


 ザッハサムでのやりとりを思いだし、姫とは名乗らずにそう言うティアナ。

 ドルデスハンテ国は裁縫技術が豊かで、各国から裁縫師の勉強をしにドルデスハンテ国にやってくる者が後を絶たない、イザベルもそれを夢見てる一人である。


「あら、裁縫職士なのね。そう言われてみればあなたの服、この辺りでは見かけないけど素敵な服ね」

「ありがとうございます」


 ティアナが今着ているものは、青地の裾に白い糸で小花柄の刺繍が施され胸元で切り返しのされた服。これもイザベルのお手製で、ザッハサムで売った服以外に着替え用に数着持ってきていたものだ。

少女はティアナの服を眺めまわし、髪に目を止める。


「それに銀髪だなんて、珍しいわ」


 イーザ国では国民の大半が銀髪だが、ドルデスハンテ国では珍しい髪色らしい。そう言って隣の少女に話しかける。


「本当ね。銀髪といえば……行方不明の王子様、まだ見つかっていないらしいわよ。もう舞踏会まで五日しかないというのに」

「なんの話ですか?」


 そう言ってティアナは歓談の輪の中に溶け込む。最初に話しかけた少女が親切に教えてくれる。


「この国には二人の王子様がいらっしゃってね、それぞれ髪の色から金の王子、銀の王子と呼ばれているの。その銀の王子が二ヵ月前から行方不明なのですって。もうすぐ舞踏会が催されるというのに、近衛兵の必死の捜索も甲斐なく未だ行方が分からないそうよ」

「その銀の王子とは、レオンハルト王子の弟君……?」


 ティアナの呟きに気づいた少女が、不思議そうな顔をする。


「あら、違うわ。弟君のオスカー王子は金髪。銀の王子はレオンハルト王子の事よ」


 えっ……?

 ティアナは違和感に首をかしげるが、少女達は気にせず会話が続けられる。


「レオンハルト王子の花嫁探しの舞踏会だというのにどうなるのかしら?」

「あっ、私、知っているわよ。舞踏会までに王子様が見つからなければ、王妃様が花嫁を決めるっていう噂よ」


 少女達は舞踏会の話で盛り上がっていて、ティアナは疑問を聞くことはできなさそうだと判断すると、その輪からそっと抜け出し宿屋に戻った。




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