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ビュ=レメンの舞踏会 ―はじまりの招待状―  作者: 滝沢美月
第2章 忘れ去られた恋の唄
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第11話  疫病の街 2



「十日ほど前から、熱と咳で倒れる者が続出。はじめは季節性の風邪かとも考えたのですが、明らかに風邪とは異なる別の病の様で……特徴は耳の下が腫れる症状が現れること、それから伝染すること。分かっているのはこれだけです。私の処方する薬では、完治する者はおらず病人は増え続け、早い者は四日、長くても一週間で死に至る。まだこの病は、街の一部でしか起こっていないが、チェの街全体に広がるのは時間の問題です。五日前に、王都に早馬を出し、援助を求めたのですが……いまだ王都からの返事はなくて……」


 エルがティアナの腕の中で、耳をピクピクと揺れさせる。


「薬は……どんなものを処方したのですか?」


 ジークベルトの横に座っていたティアナが尋ねると、イヴァンが片眉を上げて視線を向ける。


「こちらの方は?」

「俺の旅の連れです。彼女は薬草学に詳しいので、俺よりも役に立つかもしれません」


 ジークベルトの言葉にイヴァンは頷いて、部屋の棚から三つの箱を取り、ティアナの前に並べた。


「右から小黄竜(ショウコウリュウ)銀犀薄(ギンセイカ)桂枝松苓(ケイシマツレイ)。小黄竜は、麻黄(マオウ)乾姜(カンキョウ)甘草(カンゾウ)などをほぼ同量で合わせた季節性の風邪薬。銀犀薄も同じく季節性の風邪薬で、銀金華(ギンキンカ)犀連(セイレン)を合わせたもの。桂枝松苓は、炎症を抑える薬です。しかし、この薬で熱は下がるものの、咳と腫れものは引かず……一度病に倒れた者は残らず……」


 そう言ってイヴァンは目を伏せ、続ける。


「伝染すると分かってからは対策として、患者に近づく時はこのタイムの葉を口と鼻にあてるようにいました。この葉は抗菌効果があるものなので、いまのとこ私どもには移っていません。それから住民には、症状が出た者はすぐに申し出ること、症状のある者には近づかず、外出も控えるように言いました。それで少しは感染を停滞させているとは思うのですが、発症者は後を絶たず……」


 ティアナはそれぞれの箱を指さして言う。


「これらの薬は効いてるけど、病の根本的なモノを治す薬はないんですね?」


 イヴァンは静かに頷く。


「そうです。ないと言うか、病の原因が今だ分からず、他にどのような薬を処方するべきか判断に困っているのです」


 ティアナはエルを横に下ろすと、スカートのポケットから革袋を取り出して、イヴァンの前に置く。


「これは私が調合した薬で、パナンという球根、ジュニーベルという果実を砕いたもの、プチグランという葉を刻んで煎じた物を合わせたものです。殺菌作用のある薬です。もしかしたら、効くか、効かなくても病の進行を遅らすことはできると思います」

「パナンにジュニーベルにプチグラン……? 聞いたことのない植物ばかりだ……」

「パナンはタイムと同じような葉で、だけど、タイムよりも強い殺菌効果がある植物です」


 イヴァンは出された薬を一粒手に取ると、繁々と眺めて、渋った声を上げる。


「うーむ……」


 すると、それまで黙っていたジークベルトが片膝を立てその上に手を置き、腰を四十五度曲げて頭を下げた。


「イヴァン殿、どうか彼女のことを信用して下さい」


 そう言って頭を下げるジークベルトをじっと見据えて、イヴァンは隣の部屋に向かって声をかける。


「ザシャ、こっちへ」


 ザシャと呼ばれた男――井戸の前からジークベルトを連れて行った中年の男――が隣の部屋から現れる。


「何でしょうか、先生」

「これを、患者に飲ませるように」

「これは……?」

「あっ、一粒ずつ、毎食後にお湯で飲ませて下さい」


 そう言ったティアナと薬を訝しげに交互に眺めるザシャに、有無を言わさぬ静かな威圧感のある声でイヴァンが続ける。


「魔導師様のお連れの方の言う通りに」


 ザシャはそう言われては仕方なく、渋々といった感じに頭を下げて、隣の部屋に戻って行った。




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