嫌われたくて公爵様に惚れたふりをしてみたら、何故か溺愛が始まりそうなんですが
「わたくし、ランヴェール公爵様のことが好きになったの!」
きらきらとした純真そうな笑顔で、私の妹シャルロットはそう言った。
「……え?」
その言葉を聞いて、私は青ざめた。
時刻は夜。私の部屋へ押しかけてきた舞踏会帰りのシャルロットは、珍しく機嫌良く続ける。
「今日の夜会で公爵様を見て思ったの、私の運命の人は、皇太子殿下ではなくて彼だって!」
「ど、どうしてまた、そんなに突然……」
そう言うと、シャルロットは頬を染めて手を胸の前で組んだ。恋をする乙女のような表情で私に話す。
「わたくしが落としたハンカチを公爵様が拾ってくださったの。その時に手が触れて……!」
運命的な出会いでしょう、と言うシャルロットに、私は呆然とすることしか出来なかった。
シャルロットは、恥じらうように美しい金髪を耳にかけて、潤んだ青い目で私を見上げた。窓から差すぼんやりとした月光が、彼女の金髪を淡く照らしている。
「だから……ね?お姉さま」
突然のことに呆然としている私に、シャルロットが顔を寄せる。天使のような笑みを浮かべて、彼女は明るく言った。
「わたくしが公爵様と結ばれるように、地味なお姉さまが、次の舞踏会で引き立て役になってね!」
引き攣った笑顔を浮かべて、私は頷く。内心では、ああ、終わった……と絶望しながら。
(私と公爵様がそこそこ仲良くしていると知られれば、シャルロットにナイフを持って追いかけ回されるかもしれない……!!)
私は、冴えないただの伯爵令嬢だ。名をエリシアと言う。両親は可愛らしい容姿のシャルロットを溺愛し、私には興味がない。それをいいことに、色々な趣味に没頭したりと好き勝手させてもらっている。
シャルロットが好きになったと言ったランヴェール公爵とは、とある舞踏会で出会った。
舞踏会といっても、きらびやかな会場でではない。人気のない庭園で、である。しかもその時の公爵様はストレス性の胃の痛みで死にそうだった。
噴水の影で公爵様が「胃が痛い……」と呟いているところを発見した私は、「これを!この草をお食べください!」と薬草を口に突っ込んだ。舞踏会で食べすぎてお腹が痛くなった時用に摘んでいたやつである。ちなみに薬草摘みは私の趣味の一つだ。
「ご令嬢方から逃げてきたら急にお腹がきりきりと痛くなってもう駄目かと思っていた。エリシア嬢、礼を言う」
少しして、胃の痛みが引いてきたらしい公爵様は、比較的すっきりとした顔でそう言った。彼は子供の頃から体が弱いらしい。
「い、いえ!むしろ申し訳ないです、いきなり草を食べさせてしまって……」
公爵様に正体不明の草を食べさせた罪とかで捕まらないだろうか、と冷や汗をだらだらと流す私に、彼は言った。
「君は薬草に詳しいのか?」
「えっ?いえ、これはただの趣味といいますか……」
それから私達は、いい感じの薬草を教えたり、他の趣味、例えば化石の収集、魚釣り、乗馬、言語学習などなどについても話したりする仲になってしまった。公爵様は私の話を大変面白そうに聞いてくださるので嬉しかったのだけれど。
(私が公爵様とお話ししているところを見られでもしたら、シャルロットは烈火の如く怒り狂うわ……!)
その様子を想像して、私はぶるりと身震いをした。怒ったシャルロットは本当に恐ろしい。シャルロットが前まで夢中だった皇太子殿下とほんの少し視線が交わっただけでも、彼女は射殺さんばかりの目で私を睨んだ。
(もう絶対に、公爵様とは関わらないようにしないと……!)
公爵様には申し訳ないが、私の平穏を保つためにはそうするしかない。私は、そう強く心に決めた。
◇
嫌なことを忘れるには、趣味に没頭するに限る。そんな考えで、翌日、私はとある店を訪れていた。
からん、と店の扉のベルが鳴る。静かな店内に足を踏み入れた私は、真っ直ぐにカウンターへ向かった。
カウンターの硝子のショーケースの中には、妖精の羽の化石や、琥珀が並べられている。
私はそれを目を輝かせながら見つめて、はっとした。いけない、今日は別の化石を買いにきたのだ。
「すみません!」
そう店の奥に呼びかけると、髭を生やしたお爺さんの店主が現れた。細い目が、私を見て更に細くなる。
「おお、来たか」
「はい!あの、例のものは……」
「ああ、あるぞ。今持ってこよう」
そう言って、店主はごそごそと奥の棚を探り始めた。期待に胸が膨らむ。今日のために、私は他の化石を買うことも我慢して、少しずつお金を貯めてきたのだ。
「あったぞ、これだ」
そう言った店主は、カウンターの上に丁重に木箱を置いた。ゆっくりと蓋が持ち上げられる。その中身を見て、私は歓声をあげた。
「わぁ……!」
中に入っているのは、古代竜の背骨だった。
しかも、ただの骨ではない。一部が宝石化していて、水晶のように光を弾き、きらきらと輝いている。
「すごい……!この色、形、輝き、本物だわ……!」
興奮しながら、私は色々な角度からうっとりとその化石を眺めた。そして、ぱっと顔を上げて、カウンターの上に金貨の入った袋をどさっと置く。
「これ、買います!」
「はいよ」
店主が、袋の中の金貨を数え始める。私はほくほくしながらその化石を見つめた。帰ったら、いつの年代の化石か、どんな種類の竜なのか、図書館で本を見ながら考えよう。にこにこと微笑んでいると、背後でドアのベルの音がした。
他にお客さんが来たのだろうか。この店は小さいが、とても質のいい化石を取り扱っているので、ここに来るとはお目が高い。
ちらりと振り返って、私は絶句した。
月光にも似た白い髪、澄んだ湖のような青い目。とても整った顔立ちをしたその男性と、ばっちり目が合ってしまった。
(こ、公爵様……?!)
何故ここに、と考えて、思い出した。そういえば先日、「そういえばおすすめの化石店があって……」「今度そこに楽しみにしていたものを買いに行くんです」みたいなことを話したような。
(昨夜、公爵様と関わらないって決めたばかりなのに、まさかこんなに早く出会うなんて……!)
無表情だった公爵様が、わずかに微笑んで私の方へ歩み寄る。私は後退りしようとして、カウンターに阻まれた。
「……奇遇だな、エリシア嬢」
「え、えぇ、そうですね……?」
いる訳がないと分かっているけれど、私は無意識にシャルロットの姿を窓の向こうの通りに探してしまった。
焦る私の後ろの化石を覗き込んで、公爵様が言う。
「それが、君が話していた化石か?」
「はい」
公爵様はしげしげと竜の骨を眺めた。そして、興味深そうに呟く。
「一部が水晶のようになっているが、そこに価値があるのか」
その言葉に、私はぱっと顔を上げて言った。
「え、ええ!そうなんです、この魔力による宝石化は、竜の化石によく起こる現象でして。竜は魔力を多く持っているため、死後の魔力の侵食に耐えやすいから、竜の骨が宝石化して残りやすいという説が主流なんですが……」
そこまで目を輝かせながら説明して、私ははっとした。まずい、興味のあるものの話をされてしまったから、つい喋り過ぎてしまった。
「……嬢ちゃん、長話になりそうなら他所でやってくれよ。ほら、お目当ての化石はここだ」
「す、すみません!」
店主に頭を下げて、私は大事に化石の入った木箱を抱える。そして、私は公爵様にも小さくお辞儀をした。
「申し訳ありません、私、この後これをじっくり観察するという用事がありますので……!」
そう言うなり、箱は落とさないように大切に持ちながら、急いで店を出ていった。何が何だかよく分かっていない公爵様を置いて。
(ごめんなさい、公爵様……!本当なら、健康を守ってくれるという言い伝えのある化石をご紹介したかったけれど……でも、やっぱりシャルロットが怖い!)
公爵様に謝りながら、私は急いで通りを歩き……そして、その二つ隣のお店で足を止めた。
(あ、あれは……!)
私の視線の先には、少し古びた薬草のお店がある。そしてそこには、紫の花の可愛らしい薬草が売られていた。
(あれって、咳、のどの痛み、熱、腹痛、切り傷、虫刺され、やけどにまで効果があるあの薬草じゃない……?!それがあの価格で?!)
薬草の隣の値札を見て、私は驚きのあまり口元を覆った。安い。あまりにもお買い得である。しかも、新鮮な状態で売られている。
(どうしよう、買いたい……!でも、帰りの辻馬車に使うお金が……)
そう悩みながら店の前で立ち止まっていた私は、公爵様が店から出てきていることに気が付かなかった。
「……あの薬草を見ているのか?」
「はっ、公爵様?!」
驚いて、木箱を落としそうになった。慌てて抱え直して、私はふぅと安堵の息を吐く。
「そ、その、あれは万能な薬草で、ぜひ買いたいところなんですが……」
「先程の化石を買って手持ちのお金がほとんどないと?」
「どうして分かるんですか……!」
公爵様はちらりとその薬草を見て、店のカウンターへ当たり前のように向かう。
(え、ええ……?)
そして、気づけばあの新鮮な薬草が、私が抱える木箱の上にあった。
「公爵様……!」
私は喜びと申し訳なさを感じながら、彼を見上げた。公爵様は、いつも通りの無表情に、ほんの少しだけ笑みを浮かべて口を開く。
「大した金額でもないから気にしなくていい。いつも薬草をくれる礼だ」
「こ、公爵様……!」
なんて良い人なんだ、と私は感動しながらそう言った。薬草を道に落とさないようにしながら、私はぺこりとまた頭を下げる。
「ありがとうございます、今度この薬草を乾燥させて持っていきま……」
そこまで言って、私は口を閉ざした。いやいや、また会う約束なんてしてどうするのだ。
(でも、公爵様はこんなに良い人なのに……!)
突然黙り込んだ私に、公爵様は不思議そうに名前を呼ぶ。
「エリシア嬢?」
「えっと、その、私……」
一体どう説明すればいいのだろう。またもや口ごもって、私は彼から目を逸らして、ようやく言った。
「申し訳ありません、詳しくは言えないんですけど、諸事情によりもう公爵様とは今までのようにお話し出来ないと言いますか……」
公爵様は目を大きくして、何も言わずに私を見つめた。そして、少し声を低くして言う。
「理由を詳しく説明してもらえないと納得出来ない」
「えっ、と……それは……」
いつもよりも冷たくなった目が、私をじっと見つめる。言えない、絶対に言えない。私の妹が公爵様のことを好いていて、彼女の逆鱗に触れたくないので!だなんて。
(何か上手い言い訳は……実は公爵様のことを嫌っていて……とか?いやいや、そんなの嘘だとしても失礼過ぎる!)
必死に頭を働かせて、私は言い訳を考える。そして、いつかの公爵様との会話を思い出した。
(……もうこれしかない!)
小さな通りなので、周囲に貴族らしき人はいない。恥じらいだとかは押し込めて、私は勢いに任せて言った。
「私は、公爵様のことが好きなんです」
公爵様の目が、大きく見開かれた。
(公爵様は、好意を分かりやすく向けてきて擦り寄ってくる女性が苦手だと話していたから、きっと私への嫌悪感でいっぱいになるはず……!)
そう考えながら、私は言葉を続ける。近くを人が通りかかったので、少し声を小さくしながら。
「このままだと歯止めがきかなくなりそうで怖いんです、だから……」
すると、公爵様は自身の口元を手で押さえて、ふいと顔を背けた。それを見て、私は確信した。間違いない、彼は今私に嫌な感情を抱いているのだろう。
「公爵様の為にも、もう会わないようにしましょう!それでは!」
そう言い残して、私はぱーっとその場を急いで立ち去った。道の脇の辻馬車にお金を払って、急いで乗り込む。
(ここまですれば、もう公爵様と関わることはほぼなくなるはず……!)
それは寂しいことだけれど、シャルロットの怒りを買う心配はない。私は馬車に揺られながら、屋敷へ帰った。
◇
それから私は、竜の背骨の化石の年代を考察したり、薬草を摘みにいったり、湖の主を釣りにいったりと、いつも通りのんびりとした日々を過ごした。いつもと違うのは、一度も公爵様と会わなかった点だ。きっと、彼は私のことが嫌いになったのだろう。
それからまた少しして、ついにシャルロットが言っていた「次の舞踏会」の日が訪れた。
気が進まない中、地味な色合いのドレスを着せられ、どこにでもいそうな髪型にしてもらって、したのかしてないのかも分からないくらい薄く化粧をされた。
そして、希望に胸を膨らませているシャルロットと共に、私達は舞踏会が行われる大広間へと足を踏み入れた。
高い天井では、シャンデリアが美しくきらめいている。奥のテーブルに並べられている果物を食べたいなぁと思いながら、私はシャルロットの近くで静かに突っ立っていた。
「きゃっ、公爵様だわ……!」
ひたすらぼーっとしていた私は、シャルロットのそんな声で我に返った。
見ると、少し遠くに確かに公爵様の姿が見えた。シャルロットは、ぽっと頬を染めて彼を見つめている。
「わたくしは公爵様に話しかけに行くから、お姉様はわたくしの隣で、何も喋らず地味な顔で立っていてね」
(地味な顔ってどんな表情なんだろう……)
そんな疑問を抱きながら、私は大人しくシャルロットについて行った。公爵様は私のことが嫌いになったはずなので、何の心配もないだろう。
「あの、公爵様……」
怒った時とは似ても似つかない可愛らしい声で、シャルロットは公爵様に声をかけた。私は、彼女の斜め後ろで大人しく地味な表情を心がけて立っている。
公爵様が振り返る。そして、私の姿を捉えると、驚いたようにその目を見開いた。
(も、もしかして、私のことが嫌いになりすぎて逃げ出しちゃったりするんじゃ……!)
そう心配したが、公爵様はただ目を大きくして動きを止めるだけだった。幸いなことに、シャルロットは恥ずかしさのあまり彼の顔を見れていないので、そのことには気がついていない。
「そ、その、先日はわたくしが落としたハンカチを拾ってくださり、ありがとうございました」
「……礼には及ばない」
公爵様の視線が、シャルロットに移る。シャルロットはちらりと彼を見て、また恥じらうように目を逸らした。こういうところだけを見ると、可愛らしい妹なんだけれど。
「……」
「…………」
そう言ったきり、シャルロットは黙り込んでしまった。公爵様も黙っている。
(シャルロット、何か喋らないと……!)
そう私がはらはらしていると、先に公爵様が口を開いた。
「……そちらのご令嬢は」
「え?」
シャルロットはぱちぱちと瞬きをして、思い出したように私を紹介した。
「わたくしの姉ですわ」
「……」
喋るなと言われていたので、私は何も言わずになるべく地味に微笑む。
(初対面ってことにするのね!ありがたい……!)
そう喜んでいると、やたらじっと彼に見られていることに気がついた。内心首を傾げながら、私は無言のまま目を逸らす。
「……その、公爵様……」
シャルロットが何とか話をするが、公爵様は上の空で、話を広げようとする気がない。
(こ、これはまずいわ……このままだと、後で「公爵様とうまくお話しできなかったのはお姉様のせいよ!」って怒られる……!)
ここは、後からそんな言いがかりをつけられないように立ち去るとしよう。そう思って、私はシャルロットに耳打ちをする。
「その、シャルロット……二人きりのほうが盛り上がるかもしれないから、私はもう行くわ」
「…………ええ」
シャルロットが怒っているような気配を感じて震え上がりながら、私はそそくさとその場を後にした。何となく、公爵様の視線を感じながら。
華やかな大広間を出てきた私は、いつものように庭園へ向かった。庭園の植物を観察するためだ。たまに恋人らしき男女に出会って気まずい思いをするけれど。
外に出ると、肌寒い風が私の頬を撫でた。風にさらわれるハーフアップにした髪を手で押さえて、私は庭園を歩く。
夜空では、美しい星々が輝いていた。大広間のシャンデリアよりも、ずっと美しい輝きだ。
私は、ラベンダーを見つけて立ち止まる。シャルロットにラベンダーのアロマでもあげたら、怒りを鎮めてくれるだろうか。
ラベンダーの香りに癒されていると、突然、私の肩にふわりと上着がかけられた。
「え?」
驚いて、私は振り返った。そこには、公爵様が立っていた。
(えっ……え……??)
訳が分からず呆然としている私に、公爵様が口を開いた。
「夜は冷えるから、これを」
「あ、ありがとうございます……?」
公爵様はシャルロットと話をしていたのではないのか。頭の上に疑問符を浮かべながら、私は取り敢えず上着を手でぎゅっと持つ。というか、上着が必要なのは公爵様ではないだろうか。どう考えても風邪をひきそうなのは体が弱い彼である。
何も喋らなくなってしまった公爵様に、私はおずおずと尋ねた。
「あの、シャルロットは……」
「君の妹のことか?」
「ええ、そうです」
そう頷くと、公爵様は少し気まずそうにしながら説明した。
「……急に体を寄せてきたのと、沈黙に耐えかねて逃げてきてしまった」
「う、うわあ」
公爵様はべたべた触られるのが嫌いだと教えておけば良かった。何故知っているのと詰め寄られるのが怖くて、何も言わなかったことを私は後悔した。
帰ったら怒って当たられるだろうな……と悲しんでいると、ふと公爵様の視線に気がついた。
綺麗な青い目から読み取れる感情が、いつもとは何だか少し違う。私は心の中で首をひねった。公爵様は、私のことを嫌いになったのではないのか。
「エリシア嬢」
「はい」
名前を呼ばれて、私は返事をした。風が、さぁっと私達のすぐそばを吹き抜けていく。
「先日、君は俺のことを好きだと言っていたが、あの気持ちに変わりはないか」
私はきょとんとして目を瞬いて、なるほど、と納得した。きっと、最後にもう一度だけ確認して、まだ話し相手として付き合っていけるかどうかを判断するつもりなのだ。
私は、真面目な顔で頷いた。シャルロットのためにも、公爵様が最も嫌う女性像を演じなければ。
「え、ええ」
公爵様は少し目を逸らしてしまった。聞かなくても分かる、彼は今私への嫌悪で走って逃げ出したくなっている。
シャルロット、私はやったわ、と満足していると、公爵様が言った。
「エリシア嬢……いや、エリシアと呼ぶことを許してくれるか」
「はい…………ん?」
反射的に頷いてしまって、私はまたもや首を傾げた。何故今更呼び方を改める必要があるのだろう。
「では、俺のことはギルフォードと」
(なぜ公爵様の名前を……??)
不思議だったが、何だか有無を言わさない雰囲気だったので、私は曖昧に頷く。
ラベンダーが隣で揺れて、月にかかっていた雲が流されて、薄らと綺麗な月光が差す。何だか少しそわそわして、私は無理やり話し出した。
「……ラベンダーって綺麗なお花ですけど、実は頭痛を和らげたりする効果がある薬草なんです!公爵様……いえ、ギルフォード様も、頭痛に悩まされた時は使ってみてくださいね!」
私は、そう言ってにこりと笑う。ギルフォード様は、意表を突かれたようにぽかんとして、そして、ふっと笑った。
(あ、笑った)
なとなく微笑む姿は見たことがあるけれど、こんなふうに柔らかく笑うところは初めて見た。
ギルフォード様は、優しい目で私を見つめながら、言った。
「……君が好きだ」
私は、一瞬何を言われたのか理解出来なかった。
何も言えずに、ただギルフォード様をぽかんと見つめる。彼は、微笑みながら続けた。
「ここ数日、ずっと考えていて気がついた。きっと俺は、前から君のことが好きだったんだと思う」
「…………え?」
ようやく状況を理解して、私の顔が熱くなった。どうして顔が赤くなったのか、自分でもよく分からなかった。
「どうか、これから言うことに頷いて欲しい」
ギルフォード様が少し顔を寄せる。私の心臓が早鐘を打つ。
「エリシア、俺と……」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
そう言って、私は自分の肩にかけられた上着をギルフォード様に突き返すような形で渡した。
ギルフォード様が目を大きくしている。私は、そんなことに構わず焦りながら早口で言った。
「ごめんなさいちょっと色々あって私もう帰らないといけないんですそれでは!」
そう言い切ると、走りにくいドレスで大広間へと急いだ。
庭園から廊下を歩きながら、どうしてもギルフォード様が頭によぎる。彼は何て言いかけたのだろう。
(どうして、どうしてあんなことになるの……?!好き?私を?何で?!)
本当に分からない。あぁもう、顔が熱い。急いで元に戻さないと……。
私は決めた。もう絶対に、絶対にギルフォード様……いや、公爵様には関わらない!
お読みくださりありがとうございます!
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