ヨシロー 2
昼食が済むと少し時間ができる。この時間は子供達の遊び相手をして過ごしたり、麻袋に入った小麦や雑穀を運ぶといった力仕事をすることもある。
子供達も掃除やできる範囲の手伝いをする。働かざるもの食うべからずなのだ。
「うりゃー」
「まじんぎり!」
子供達の発想は面白い。
棒切れを振り回して斬りかかる。それを同じく棒切れで振りはたく。子供達が元気に右に左に跳びながら棒切れを振り下ろすのを、ヨシローは座りながら片手でいなす。
今、子供達の間では冒険者ごっこが流行りだそうだ。やられた。なんてリアクションしたら機嫌を損ねる。まじんぎり。をかわすと次から次へと技名が出てくる。
「イナズマぎり!」「ほのうぎり!」「ケモノづき!」
創造力の天才か。無邪気に遊ぶ子供達が可愛くて仕方がない。実はヨシローも、このくらいの年頃の時は枝切れではしゃいでいた。しかし、こんなに発想力に富んだ幼少期ではなかった。と思いながらも、そろそろ薬草の採取に行く算段を考えていた。日が暮れる前に自生の薬になる草や食用の葉なんかを探しに行かなければならない。
薬草は傷薬や火傷の薬、胃薬のように用途によって色々な植物がある。そろそろ探索範囲を広げてみないと、今の採取範囲は根こそぎ採取してしまうことになる。気をつけて次の薬草になりうる植物達の成長を待たなければならない。
もちろん薬草も大事な収入源だ。
夕方になると酒場に行く。裏の勝手口から入り酒場のマスターに一言挨拶すると黙々と木箱にいっぱい入ったじゃがいもの芽をとって皮剥きをする。
呼ばれたらホールに出て配膳を手伝う。また裏方に戻って作業の続きをしたり、水を汲んで来たり、酒樽を補充したりと時間を費やす。たまに、厨房に入って煮豆の番をさせられたり、何かのガラのスープが入った寸胴を掻き混ぜたりしている。皿洗いもする。
実は、あまり表に出たくない。きっと接客に向いてないのだろう。営業スマイルは苦手だ。いや、それ以前にヨシローは表情の無愛想さを自覚しているためだ。
そして前にタチの悪い客に絡まれたからだ。
自分は、こうして歳を重ねるのだ。この村で生きていくのだ。それが運命なのだ。何も不満はない。
開拓地の中継地点と位置付けされているため、商隊や冒険者達が立ち寄ることがあるため、比較的物資の配備が優先してもらえるおかげで、それなりに賑やかだ。
店を閉めたら、今日の給金を貰って帰路に着く。
一日が終わった。
たまに、灯りを持った人達が何か叫びながら走ってくることがある。村の外に向かって男手を集めながらヨシローを追い越して行く。女性達は家の前で子供がいたら抱きしめて走る大勢の男手達を見守るように立ち尽くす。
これは、だいたい決まって冒険者の凱旋が理由だ。
狩り、いや討伐した魔獣を運んで来た時は解体に男手がいる。山のように大きければ翌朝に現地へ大八車の手配も必要だ。なにより彼らの冒険譚が肴になるし、村の最大の娯楽になるからだ。
ヨシローは道を走る大勢に譲り、自分はさも無関心を決め込んで帰路を優先した。自分が剣を手にするところも村から出ることも想像できないからだ。
「おかえりなさい」
修道院の正面の門の段差に腰を掛けてシスターが声を掛けてくれた。
「ただいま」
ヨシローは給金の入った袋をシスターに手渡した。
「また星を見てたの?」
シスターは星の動きや明るさを記した手帳を閉じて給金の入った袋を礼をしてボケットにしまった。
以前、手帳を見せてもらったがさっぱりだった。シスターは丁寧に説明してくれたが学がないため興味も引かなかった。
「ヨシロー。あなたも見に行ってきなさい。後学になりますから」
冒険者の活躍を聴いても、魔獣の遺体を観てもヨシローの胸をワクワクさせることはないだろう。後学もなにも冒険者ではないのだから。
「まぁ、この辺に魔獣がうろついてるみたいだから注意する意味で見に行ってみるよ」
シスターはヨシローに冒険者とまではいかないが、男子としてもう少し外に興味を持って欲しいようだ。
「姉さん、風邪ひくよ」
「…もう少しだけ」
シスターはとても賢い。3年ほど前にこことは別の修道院からやって来た。こんな辺鄙な田舎に自ら志願してきたのだ。孤児の面倒もよくしてくれるし、ヨシローや子供達に読み書きを教えてくれた。子供達と違ってヨシローはそこそこ大きくなっていたので勉強は苦戦したが、簡単な足し算引き算も暗算でできるくらい本当に丁寧に教えてくれた。
修道女として各地を転々としているらしい。
「姉さんは、なぜここに転属してきたの?」
「選ばれし王子様を見つけに…かな」
昔、たわいもなく会話した事を思い出した。シスターの渾身のジョークだと思って笑ったことがある。もちろんシスターも笑顔だったから、そのつもりで言ったのだろう。
シスターは手帳を開きまた何かしら書き込んでいる。
「極星の輝きが僅かに違う…」
詩でも書いてるのだろうか。シスターの呟きを聞き流し、邪魔しないように部屋に戻った。
昔は、よく星の話を聞きながら小一時間一緒にいたものだ。やれ星の等級だの、やれ流星群の話だの、やれ天体のなんとかだの。ちんぷんかんぷんだったがシスターにとっては憩いのひと時なのだろう。そのうちヨシローはその話を聞かないようになった。シスターは女の子でロマンチストで、ヨシローは少し大人になった。そう結論付けた。別に聞き飽きた訳ではない。朝が早いのだ。




