ヨシロー 1
目が覚めた。ぼんやり天井を見ながら、ゆっくり瞼を閉じてみた。
(…あと5分)
「ヨシローにいちゃん!」
「ヨチロー」
「ヨシロー起きてー」
まだ5、6歳の子供達が勢いよく飛び乗ってきた。さすがに重い。ヨシローはベッドに腰掛けて
「起きたよ。お越してくれてありがとう」
子供達を撫でて、口角を上げた。まだ半分睡魔と戦っている状態だ。瞼が完全に開かない。
「シスターに言ってくるー」
バタンっ!扉を勢いよく閉め
そう言って、子供達は走って部屋を後にした。
「〜寒い。」
肘を抱えこみ、窓から外の景色を伺った。
まだ、日の出の時刻ではない。
ヨシローの一日が始まった。
上着を肩に掛け、外に出て納屋に行って小さなカゴと軍手を手に取り建物を裏手に回った。
(そろそろ摘んでいいか)
小さな菜園があって、ナスやキュウリを手にとり優しく弾力や触り心地を確かめてカゴに納めた。
来た道を戻り、次は台所の勝手口から屋内に入って野菜の入ったカゴを台の上に置いた。
ヨシローは少し顔を覗かせ
「姉さん。野菜置いとくよ」
少し間を空けて
「今朝は、採れたの少ないから」
バツが悪そうな感じで、言葉を付け足しておいた。
「わかりました。あと水汲みは今日は大目にお願いします」
ヨシローは返事して台所から出て行った。
ここは、オルテラス大陸の辺境と言っても過言ではないような場所。街道に沿ってできたパッとしない村。それでも酒場もあれば露店や宿もある。住民もいる。商人が立ち寄ったり、冒険者を名乗るイカつい人達も訪れる。村に名前はない。
かなり離れた土地にこの辺を治める何かの爵位を持った貴族がいて、この村を中継地点として開拓を進めているようだが、そんなに発展はしていない。
貴族のいる街はきっと華やかなんだろう。いったことはないし、行くことはないだろうから詳細はわからない。
姉さんといっても血の繋がりはない。子供達だってそうだ。
ヨシローは空の桶を両手に持ち川に向かって歩いた。
住んでいる所は小さな修道院で建物の一部が孤児院も兼ねている。子供達はどこかの町で口減らしのために引き受けた子達で、姉さんと呼んでいるシスターは以前奉仕していた別の修道院から志願という形で来た敬虔な人だそうだ。子供達はシスターと呼んでいる。
(自分は、物心つく前からここにいたな)
ヨシローは自分の出生がわからない。でも気にやむ年齢でもない。自分は朝起きたら働いて、寝てを繰り返して一日一日を終え、人生を締め括ると思っている。
修道院は寄付によって運営されているが、全てではない。部屋を空けて宿の代わりに貸すこともあるし、ある程度自給自足もしなくてはいけない。裏手に菜園があるのはそのためだ。
エールを作って客に振る舞うこともある。そのための自生している香草の採取や麦の運搬の手伝いも日課のひとつだ。水汲みもなるべく上流の綺麗な澄んだ場所で汲むのがいいらしく、美味しいエールができて振る舞った客が上機嫌になれば商談の成功率が上がり、寄付に繋がるというわけだ。




