人は見た目じゃない
「初めまして、ジークリンド・アイル・オーティアです」
片手を胸元へ寄せ頭を軽く下げ、漸く見慣れてきた自身の銀髪を掻き上げながら自己紹介を終える。
「ば、バーバラといいますぅっ」
ん?吃りがあるな。貴族を前にして緊張しているのだろうか?こちとら六歳児やぞ!
「バーバラさんですね。ドワーフの方だと伺ったのですが…」
バーバラの見た目は中学生女子。それもおさげが似合いそうなど田舎タイプの。
メガネがあれば絶対に委員長と呼ぶのに。
しかし、おかしいな。あの紙にはドワーフ(鍛治職人)って書いてあったはず。
僕のイメージだと、ドワーフは手先が器用で職人気質。
それなのに格安だったから選ぶまでもなく初めから一択だったのだ。
悩んでいたのは『安いには理由がある』というところ。
今回、その予想が大当たりしたみたいだね。
外れればいいのに……
ドワーフといえばずんぐりむっくりな体型に髭もじゃの男。
…あれ?女性はどうだったっけ……
「わた、わたすは、ドワーフです。がな」
ダメだ。彼女は真剣なんだ。
決して笑ってはいけない。
そう。この吸血種のように。
「いたっ!?何する!?」
失礼なので叩いておいた。
「こほん。バーバラさん。そうでしたか。何分若輩者故ドワーフを見るのが初めてでして、失礼を。
こちらへ」
ここの所騒がしいレイチェルは放っておいて、バーバラを事故現場へと案内する。
「こちらです。直せますか?」
「あひゃー。どないしたらこげなこちに。あいや!直せます!」
「お代は金貨一枚でしたね?では、お願いします」
そう伝えると、バーバラは驚愕の眼差しでこちらを見つめてきた。
書類にそう書いてあったのだから、いいよねっ!
他の人達に頼むと最低でも倍は掛かってたから。
今更値上げは聞きませんよ?
「…金貨一枚でお願いできませんか?」
口を開けたまま動かないので念を押しておく。
「あ、はい!頑張るです!」
「は、はい。お願いしますね」
何なんだ?
何か食い違っている。
このままでは不安で夜しか眠れないので、疑問を解消することに。
「何か…おかしなところでもありましたか?支払いが安い所以外で…」
そこを突っ込まれたら黙るのはこっちだ。
「いえいえ!支払いは充分です、だ」
「では、他にあると?」
レイチェルもバーバラも会話が疲れる……
「はい…何故、わたすに声を掛けていただけたのか…いえ!仕事はちゃんとするですだ!」
焦って語尾が大変なことになってますよ?
「えっと…ドワーフの方ですよね?」
「はいだ」
「じゃあ、問題ないです」
僕のドワーフへの信頼は、ちょっとやそっとじゃ揺らぎませんよ?
「でもぉ…わたすは女子ですぅ…」
「ん?よくわかりませんが、女性だと不器用だとか?」
それは困る。ちゃんと直してもらえないなら断るしかない。
「いんえっ!ただ…女子のドワーフは…嫌われてるです」
「そうなんですか?」
これはレイチェルへ向けた疑問。
「…本当。でも、それは職人として。人として差別されたりはない」
「成程。バーバラさん。貴女は男のドワーフの方と比べて、技術が劣りますか?」
怒るかな?
「あんな力に頼るだけのもんらにはまきゃーせん!…あば、失礼を……」
「いえ、こちらこそ失礼な質問でした。じゃあ、尚更断る理由はありません。お願いしますね」
そう伝えると、バーバラは涙を堪えながら大きく頷いてくれた。
カンカンカンッ
外から聞こえるリズミカルな音をオヤツに、自室にてお茶を嗜んでいる。
「成程。やはり、頼りなさそうな見た目が原因でしたか」
「そう。大切な武器や道具を、少女には任せづらいから」
ドワーフも長耳族と同じく長命種である。
殆どの女性が殆どの期間、女子中学生のような見た目なのだとか。
ただ、見た目は細いけどしっかりと筋肉はついているとか。
「分からないでもないですね。しかし、仕事ぶりを見れば理解できそうなものですが…」
「ドワーフ達は、仕事場に他人を入れたりはしない」
「成程…矜持ですか。それなら仕方ないですね。見えないものを信じられないのが人という生き物なので」
仕事がないお陰で、壁の修繕という鍛治からは離れた仕事を受けてくれたのだろう。
鍛治職人は炉も自作すると聞く。
壁くらいなら簡単に直せるだろうし、頼んでよかったな。
外で石を叩いて割っているバーバラを窓から見つめ、安堵の息を漏らした。
「ところで師匠」
「なに?」
「オーラの修行は次の段階ですか?」
今回の事故はオーラによるもの。
それは一つの完成でもあった。
勿論、ここから微調整含む鍛錬は積む予定だけれど。
「ん?ない」
「え?」
「だから。教えることはもうない」
もうないとは?
「修練は?」
「それはジークがすることで私の仕事じゃない」
「えええええええーっ!?」
覚えることがなくなってしまった。
いきなりのことで、しばし呆然とする。
「あっ、でもそうか」
「ほら。また何かする。こういう手合いは放っておくに限る」
レイチェルから教わることがなくなっただけで、僕のオーラ道は終わっていないんだ。
そこに気付けたので、落胆は喜びへと変化する。
何か言っているが無視しよう。うん。それがいい。
「氣弾はあくまでも可能性の一つ。ここからは創意工夫ですね!」
「…よくわからない。けど、頑張れ」
「はい!レイチェル師匠!」
返事は元気に。それが一番大切。
オーラの一段階目。
それは体内のオーラを活性化させ、身体を強化するというもの。
この鍛錬は単に慣れるしかなく、ゲレーロの指導は肉体言語が主だった。
そして、オーラの二段階目。
これは体内のオーラを消費すること以外で体外へと射出するというもの。
初めに口頭での指導があり、それを頭で理解した後は身体で理解する段階へと進む。
これに二ヶ月を要したが、レイチェルに言わせるとむしろここが早過ぎたらしい。
これも前世知識チートのお陰に過ぎず、嬉しさより気まずさが勝る。
そして身体で覚える番だけど……
それには最初にオーラを取得した時の痛み、それと同程度の痛みを伴った。
最初の痛みは身体の中に氣道を開通させる為のもの。
今回の痛みは体内にある氣を体外に射出させる為の出口を開く為のものだった。
『はっ!?馬鹿なの?』
普段無表情なレイチェルだけど、その時ばかりは感情を露わにした。
『馬鹿…は、否定しませんが。出口は多いに越したことはありません』
馬鹿にされた僕の提案とは『オーラの射出口を限りなく増やす』というもの。
これにより、普通?両掌の二ヶ所あればいい筈の出口を、僕は九つ作ったのだ。
その代償は酷いものだったけど……
思い出したくもない苦痛の日々。そして、その度に嬉々として看護するリベラ。
…うん。忘れよう。
出口といっても、身体に見えない穴が空いているだけで、見た目に変化はない。
九つの穴の位置は両掌、両足裏、両手の甲、両足の甲、最後に口。
本当はお尻にも欲しかったけど、レイチェルに全力で嫌がられたから無理強いはしなかった。
そこは褒めて欲しい。
と、いうわけで。
僕が次に目指すのは、全ての穴から澱みなくオーラを放出させること。
さて。これから忙しくなるぞー。
六歳になり、家相のタイラーから出される宿題も増えているからね……




