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脱獄

 






「後は、その時を待つだけね」


 セフィリアとレイチェル、それからシュナウザーとガーベラ。

 その四人で作戦を立てた。


 決行は明日の夜。

 今日までに準備を終わらせ、後はその時を待つだけである。


「姉上。これが今生の別とならぬことを願っています」


 シュナウザーは別れを告げる為にアメリアの元を訪れていた。

 その言葉からわかるように、アメリアが無事に帝国を脱出することは疑っていない。


 完璧な姉が自信を持って立てた計画。失敗なんて起こり得ない。そう確信している。


「大丈夫よ。私はそこまで薄情ではないわ。目的を果たしたら機会を見計らって会いに来るわ。

 それまでガーベラ達をよろしくね?」

「勿論にございます。彼らは皆優秀であり、個々に才能も違います。

 彼らを助けるよりも、私の方が助けられることが多いと愚考する次第です」


 預けるのはアメリアが帝国で培ってきた人脈。

 アメリアが彼らへの忠義に報いるには、弟へ頼む他ない。


「それでも、尻拭いさせることには変わりないわ。ありがとう。

 何度も言うけど、貴方が弟で本当に感謝しているわ」

「過ぎた言葉です」


 シュナウザーは最後までアメリアへ敬意を払う。

 アメリアが過去シュナウザーへ掛けた言葉は少ない。

 この過剰なまでの敬意はアメリアの背中を一番近くで見てきたからこそ培われたもの。


 その努力。

 そして結果。


 それらは全て繋がっており、明日へと集約している。


 それを理解し、益々の尊敬を向けていた。














「来たわね」


 普段であれば寝静まっている時間帯。

 帝都には夜の帳が下りており、開いた窓からは冷たい風の音しか入ってこない。筈だった。


「手を貸すわ」

「揺らさないでよ?レイチェルが壁に当たると五月蝿そうだから」

「ふふっ。後が怖そうね」


 窓から入ってきたのはセフィリア。

 その姿は頭からすっぽり被っている黒い布に覆われており、声でしか判断出来ない。


 その二人でアメリアが事前に降ろしていたロープを引くと、もう一人の黒装束が釣れた。


「早く解いて」

「わかってるわよ」


 レイチェルの腰にはキツくロープが結ばれており、その細い指では解けない模様。


「誰にも見つかっていないでしょうね?」


 そこは計画にない。

 だから、確認が必要だった。

 もし、既に見つかっていたら、作戦に変更点があるのだろう。


「大丈夫よ。城を囲っている高い壁はレイチェルの風のバトルツールで越えてきたし、それに気付いた者もいないわ」

「そう。それにしても、便利ね。私にそれが使えないことが残念でならないわ」


 アメリアがオーラツールを何一つ使えないことも二人には話している。

 その時にジークリンドも同じだとセフィリアが伝えると、予想していたわと返された。


「これを」

「それ、爆発する使い捨てのバトルツールじゃない。危なくないの?」


 アメリアが差し出したのは、紐のついた模様が入っている金属製の筒。

 それを受け取ったセフィリアがその正体に気付き疑問を呈する。


「これ…偽物」

「そうなの?」


 見ただけのレイチェルに気付かれ、アメリアは少しだけ驚いた様子を見せた。


「一目で見抜くとは恐れ入ったわ。かなり精巧に作ったつもりだったけど、意味ないかしら?」

「脅しに使う?なら有効。それを見抜ける者は少ないから」

「じゃあいいわね」


 アメリアは自信作を見破られ計画の変更を覚悟したが、大丈夫と言われればこのままいこうと判断した。


 これまでに会ったツールマスターはどれも強くはなくただバトルツールを使っているだけで胡散臭く思っていたが、レイチェルは違うのだと考えを新たにする。


「では、囚われのお姫様になりましょうか」


 そう言うとアメリアは自身が着ている寝間着を引きちぎり、その頬をセフィリアが殴打した。


「くっ…手加減は必要ないけど、躊躇もなかったわね…」

「殺したら報酬が貰えないからちゃんと加減はしたわよ」

「これを私の首に」


 アメリアの口からは血が滴り、その頬は次第に赤くなりそして腫れてくる。

 そんなアメリアは先ほどの模造ツールを自身の首に巻くように指示した。


「剣聖は?」


 この国にもアルバートと同等の実力を認められた剣聖がいる。

 それが脱出を試みる三人にとっての最大の壁として立ちはだかっている。


「今日は騎士団と近衛騎士団との合同定例会議の日だから帝都にある自宅で休んでいるわ」


 それも計画の内。

 そうでないと、城へ二人が入った瞬間に斬られていただろうとアメリアは予想していた。


 ここへ二人が辿り着いた時点で計画の半分以上が達成されているのだ。


「もう少し立ち話に花を咲かせていたいけど、残念ながら時間よ」


 アメリアはテリトリーでとある人を感知した。

 それを二人に伝えると、二人は黒い布を被り直し、短剣を構える。


「ふぅ……」


 アメリアは深呼吸し…そして。


「きゃぁぁあっ!!」


 叫んだ。


『殿下!?』


 扉の外で待機していた護衛と侍女が慌てる。


『何故開かないっ!?』


 それはセフィリアが扉を押さえているから。


『何事だ!?今の悲鳴は姉上のものでは!?』


 そこに現れたのは計画通り、シュナウザーだった。

 アメリアがテリトリーで捕捉した人物は彼だったのだ。


『シュナウザー様!アメリア様が』


 近衛騎士は緊急を伝えるが、状況が掴めていないので言葉に詰まる。


「きゃあ!?」

『殿下ぁっ!?如何されましたか!?扉をお開けくださいっ!』


 ドンドンッ


 二回目の悲鳴。

 それが合図だった。


『不味い!下がれ!』


 扉に群がっているだろう近衛騎士と侍女をシュナウザーが扉から引き離す。


 ドンッ


 低い音と共に扉は吹き飛び、その残骸は粉々になって散らばる。

 レイチェルのバトルツールだ。


「姉上…」

「貴様らぁ…」

「アメリア様っ…」


 そこからゆっくりと姿を現したのは、アメリアとそのアメリアの両脇を抱えながら首に短剣を当てる黒装束の二人。


「待ちなさい!この者達は私を何なく捕らえられる程の手練れ。…攻撃を仕掛けたら、私は間違いなく殺されるわ。

 そうじゃなくても、この首のバトルツールを見なさい。自分達が死ぬことも恐れていないような相手。

 手出しすれば、どれ程の爆発が起こるのか想像もしたくないわ」


 近衛騎士がオーラを操作して身体強化を掛けた瞬間、アメリアから待ったが掛かる。


「二人の目的は私。この城から連れ出すことが目的よ。抵抗しないのであれば、命までは取らないと約束してくれたわ」

「くっ…」

「アメリア様…」


 近衛騎士は自身の失態を悔やみ、侍女はアメリアの頬が腫れていることに気付いてその恐怖を知る。


「何を悲観しているの?良かったのよ、私で。貴方達…いえ。帝国にはシュナウザーがいるわ。

 この者達に逆らったところで得られるものはなく、ただ私が無駄死にするだけ。さあ道を開けなさい」


 二人がセフィリアとレイチェルであることはバレるわけにはいかない。

 事後騎士団による捜査が進めばやがて容疑者の一人にはなるだろうが、そこには証拠も確信もない。


 それに二人が皇女を誘拐するメリットも見つからない。

 時が過ぎれば、皇女個人に対してか、帝国に対しての敵対組織による犯行であると結論づけられるだろう。


 黒装束の二人は城の中をアメリアを前後に挟む形で進んでいく。


 そして、遂に終わりが見えた。


 そこでアメリアが立ち止まると、後ろを着いてきた近衛騎士達も歩みを止める。


「先程も伝えましたが、この者達は私の身柄を求めています。恐らく他国の仕業でしょうが、どんな要求にも応じてはなりません。

 シュナウザー。いいですね?」

「……はい。姉上」


 帝国は力を示し続けないと存続出来ない国。

 皇女を拐われたくらいで動揺しているようでは、他国や国内の有力者達に示しがつかないのだ。


「例えこの者達を殺せたとして、二の矢三の矢が来ることでしょう。

 私で終わらせるのです。

 帝国はどんな状況下においても何者にも屈しない、と」


 まるで悲劇のヒロイン。

 自分で考えた台詞だが、アメリアも少しやり過ぎたかしらと内心で反省しているくらいには、近衛騎士達の身体は弛緩していた。


「寝静まる帝都を混乱させてはなりません。これ以降、私を追う必要はないわ。

 代わりにお父様とお母様へよろしく伝えてください。

 アメリアは死にません。

 ですが、助けも求めませんと。

 皆の健勝を遠い空の下で祈っています」


 そう告げると踵を返し、二人に連れられて城を出て行く。

 この場でアメリアを追う者はいない。

 もし居たとしても、シュナウザーに『姉上の想いを無駄にする気か!?』と止められていたが。


 かくして、一行は城を抜け出すことに成功した。

 後は帝都。

 そこを抜ければ、もう捕まることはないだろう。

 油断は禁物だが。

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