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赤と金

 





「貴女が私を呼びつけた張本人かしら?」


 セフィリアが巡回の騎士とは違い白いマントを纏った騎士に連れてこられたのは、帝城の入り口から程近い場所にある一室だった。

 部屋の広さは8畳程で、室内には大きめのテーブルとそれを囲むように六つの椅子が並べられているだけ。

 広くもなく、狭くもない部屋だ。


「随分な言い草ね?貴女が不躾にも私のテリトリーへ干渉してきたんじゃない。違う?」

「違わないわ。貴女は誰?」


 セフィリアは期待していた。

 ここでジークリンドに逢えると。

 しかし出迎えたのは見知らぬ金髪の少女。


 さらに先程のテリトリーは自分のものだとまで言われた。


(レイチェル…何が匂いがしたよ…間違えてんじゃないわよ…)


「貴女こそ誰なの?答えなさい」


 帝国に来て、敵意はないにしてもそう取られておかしくないことをあらぬことか帝城へ向けてしまった。

 これは分が悪いと、セフィリアは口を開いた。


「私の名はセフィー。旅人よ。さっきはごめんなさい。知り合いが貴女のテリトリーを知人のモノと勘違いしたの。

 他意はないし、敵意もないわ」


 次に面を食らったのはアメリアの方。


 セフィリアは勝ち気に見える。

 最初はその印象通りの言葉だったが、今は考えを改めさせられていた。


(この子…もしかしなくても、高貴な出。でも、私を知らないということは、他国の……まさかっ!?)


「貴女…まさか、セフィリア王女なの?」


 ガーベラから受け取った情報には、セフィリアの特徴も記されていた。

『アメリア様と同い年で赤髪。剣を得意とする変わった王女殿下として有名』

 その情報と一致した結果、この問いとなった。


 その質問を聞いた瞬間、セフィリアは瞬時にオーラを戦闘モードへと動かす。


「その首飾り、オーラ阻害を無効化するものね」


 アメリアに焦りはない。

 セフィリアを侮っているわけではなく、警戒はされているがセフィリアから敵意を感じなかったからだ。


「オーラを落ち着けて座りなさい。安心して。私は敵じゃない」


 依然として警戒を解かないセフィリアだが、アメリアが嘘をついているとは微塵も疑えなかった。

 それだけの意思が、瞳に宿っていたから。


「説明するわ。と、その前に。貴女の知り合いも連れて来てくださる?」


 落ち着いたところで、お互いの状況を説明し合おうとするも、アメリアも期待が勝る。

 ジンに早く会いたいのだ。


「わかった。連れてくるわ。その代わり、その人の詮索はしないこと。それが条件よ」

「勿論よ。門の騎士に事情は伝えておくから声を掛けて」


 その言葉にセフィリアは頷きを返して部屋を後にした。

 そして、アメリアもセフィリア同様がっかりすることになる。


 それまでは暫し期待に胸を躍らせて、何処にでもいる年頃の少女になるのであった。












「なるほどね…」


 レイチェルが無事に合流を果たし三人は密室にて全てを話し終え、アメリアはあからさまに落胆する。


「結局、アメリアはジークの何なのよ?」

「そうね…運命共同体とでも言っておこうかしら?」

「アイツ…浮気…コロス…」


 アメリアは大切な人としか伝えていなかった。

 故に、夫の交友関係が気になるセフィリアは詳しく聞いた。

 その結果、赤鬼が現れる。


「ジークリンドは貴女が死んだと思っている可能性がある」

「えっ…つまり?」

「本人に浮気する気がなくてもジークリンドは独り身で年頃の男。見た目も悪くないし、これからも増える」


 不機嫌を体現しているセフィリアは、命を預け合う仲間からトドメを刺された。


「セフィーは置いておくとして。何故アメリアからジークリンドの匂いがした?」

「私とあのお方は二つで一つの存在だから。それに、繋がりなら他にもあるわ。あの方から許可が降りない限り、他人に教えることは出来ないけれどね」


 セフィリアは生気が抜けていて、椅子にもたれ掛かり天を仰いでいる。

 その視線は定まっておらず、二人は放っておくことを選んだ。


「でも、一つだけ教えられることがあるわ」

「なに?」

「貴女達はこれまでの道中でジークリンドを探してきたのよね?」


 この部屋は城の地下にある。

 防諜設備もしっかりしており、部屋にいるものは逃げ出すことも難しい。

 そんな場所だから何処の馬の骨ともわからない二人が城の中へと入れたのだ。


 ただ、部屋の中はごく普通。

 最初に二人で話をしていた部屋と大差ないどころか家具も同じ。


「そう。名前、見た目、年齢、装備で聞き込みをしていた」

「じゃあ、すれ違っていてもおかしくないわね」

「…なぜ?」


 アメリアは知っている。

 二人の知らないことを。


「仮に特徴が合致していても、別の名前で知られていたらその存在は除外されるわ」

「…確かに、一理ある」


 特徴に当て嵌まっているけど、名前が違うからその人じゃないよね。

 と、脳内で補完して態々指摘しない人は多い。


「別の名前で探すことを勧めるわ」

「ジークとか?それならもうしている」


 セフィリアとジークリンドはバベル王国から追われている可能性がある。

 であれば、本名をそのまま名乗っている可能性は低い。


「違うわ。私は確信に近い偽名を知っているの」

「どういう意味?」


 アメリアの言葉の意味を理解できない。

 偽名を使っているのは考えれば答えに辿り着ける。

 でも、その偽名が何なのかは難しいのでは?

 レイチェルは素直に聞き返した。


「ジークリンドが偽名を使うとするわね。その時に選ぶ偽名ってどんな風に考えると思う?」

「…追っ手、恐らくバベル王国の。そいつ達に見つからないような偽名を考える」


 その数は無限に近い有限。


「抜けているわよ?」

「だから、何が?」


 アメリアはレイチェルで遊んでいるわけではない。

 その性格、為人、趣味趣向を会話から探っているのだ。


「誰からも見つからない偽名であれば、私もお手上げ。

 でも、彼には見つけて欲しい人がいるんじゃないかしら?

 例えば、家族とか友人…もしくは恋人とかね。

 その人達が探した時、全く関係ない偽名だと見つけられないと思わない?」

「…つまり、ジークリンドはセフィーにしかわからない偽名を使っている?セフィー。心当たりある?」


 アメリアからヒントを得たレイチェルは、直ぐに一番大切にされているだろうセフィリアへと聞く。

 しかしそれには矛盾が生じていた。


「……思い当たる節はないわ。ご家族かしら?」

「カーバイン達。あり得る」


 その二人の考察を黙って聞いていたアメリア。

 そこで確認は終わったのか、ゆっくりと口を開いた。


「二人とも、間違っているわ」


 その言葉には顔を向けることで応え、続きを促す。


「まず、セフィリアだけど。それはあり得ない。前提として、貴女はジークリンドの中では死んでいるのよ。

 次に家族。オーティア卿の戦死は私しか知らなかったけど、そうなるだろうとジークリンドが予想していたのも事実。

 そして残された他の家族。

 セフィリアとジークリンドが襲われたのは何処?

 無事だとしても隠れているはずの家族が捜索なんて出来るとでも?」


 二人の考察を真っ向から否定した。

 そして。


「残されたのは私。そう、ジークリンドは私だけにわかる偽名を使っているのよ」

「…なんなのよ、それ」


 セフィリアの言葉には二つの意味が含まれている。

 一つは単純に偽名が何なのかという意味。

 もう一つは、何でアンタなの。と。


「知りたい?」

「…ムカつくけど、知りたいわ」


 セフィリアは何処までも真っ直ぐだ。

 二人の間にこれまで何があって、これからもあるのか。

 それについてアメリアは許可なく話せないと言っていた。

 その理屈はわかる。

 仕える人の秘め事を、家臣が主人の許可なく話せないなんていうものは沢山見てきたから。


 それはジークリンドを見つけてから本人に問いただせば良いと考えている。


「教えてあげるけど、交換条件があるの」


 種族は違っても、レイチェルのことは直ぐに信用出来た。

 レイチェルもまた直ぐに信用してくれた。

 そんなセフィリアだが、アメリアのことは信用出来ないでいる。


 いや、アメリアは嘘をついていない。

 信用ではなく、信頼出来ないでいるのだ。


 いつか、何処かで裏切られる。

 それは確定事項ではなく、アメリアにとって不利に働いたり、有利に働く場合、自分達は裏切られるだろう。

 そうセフィリアは考え、裏切られることを覚悟の上で提案に乗ることを決めた。


「それで?なんなのよ」


 先ずは話を聞いてから。

 場合によってはレイチェルと相談しなくてはならない。


「私も連れて行って欲しいの」

「はあ?旅に?」


 それは予期せぬ提案だった。

 元王族のセフィリアは、皇女が城を抜け出し旅に出ることの難しさを誰よりも知っているから。


「それが無理でも、帝国を出る手助けをして欲しい。それが最低条件よ」

「…言っている意味…わかってないわけないわよね」


 どう転がっても、頭で敵う相手ではない。

 そのアメリアが求めているのだ。

 その難易度、全てを理解した上での頼み。


「レイチェル。出来そう?」


 先ずは城を抜け出すこと。

 それにはレイチェルの力の方が頼りになると判断して、セフィリアは確認した。


「恐らく可能」

「そ。とりあえず、帝国を出るまでね。それからのことはその時に判断するわ。二人とも良い?」


 セフィリアの答えは決まっていた。


 これまではそもそもの探し方を間違えていた。

 このまま行けば見つかるものも見つけられない。

 であれば、アメリアを出奔させる以外に手段はないのだ。


「問題ない」

「一応、手段は幾つか用意してるの。レイチェルに何が出来るか聞いて、作戦を固めましょう?」


 二人がアメリアの元へ来たのは想定外の出来事。

 それがなくてもアメリアはいずれ帝国を抜け出す気でいた。

 今は不可能でも、二人の力があれば可能になると踏んで、交換条件を出したに過ぎない。


 交換条件といえば聞こえはいいが、二人に拒否する選択をなくした一方的な押し付けともいえる。


「私がここを出るために集めた人材がいるの。その人達を交えて、明後日にでもまた話し合いましょう」


 一先ずではあるが、アメリアは二人に聞きたいことは聞けた。

 二人は聞きたいことの為に行動する。


「わかったわ」

「次は茶菓子も」


 その言葉にセフィリアはギョッとした目を向けるが、レイチェルはいつもの涼しい表情に戻っているのであった。

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