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罪人に情けは無用

ジン視点です。

とりあえず三人とジン視点を交互に進めていきます。

 





 男爵領で敵国から襲撃を受けた後、王国南部から南方向へ山を越えたところにあった寂れた町でセフィリアを亡くした辛さを紛らわせる為に呑んだくれていたが、これではダメだと意識を新たに旅立つ。


「それにしても、何の手掛かりもないね」


 転生前の白い世界の支配者を名乗る女性から、手掛かりというか、目印はいただいている。

 でもそれは近くにいないと意味のないもので、結局手掛かりなしには探し歩くしか方法が思い浮かばなかった。


「アルバート王国は大陸の北西に位置していた筈だから、このまま南下して逆時計回りに大陸を一周してみよう」


 それが終わっても見つからなければ、次は大陸中部を探せばいい。

 あの女性は言っていたからね。

 来世のラヴは人として産まれてくるって。


 つまり、時間はあるんだ。


「この捜索の旅も、観光だと思って気軽に行こう」


 気を張っていればラヴが見つかるのであれば、幾らでも張ろう。

 でもそうじゃないよね?


 僕が疲弊しても悲しんでもラヴは喜ばない。

 それなら楽しもう。


 この世界で再び巡り会えた時、心から笑い合えるように。


「よし。そうと決まれば街道を行こうか」


 ジークリンド(この身体)は強くて丈夫。

 その気になれば道なんて関係なく真っ直ぐ南下することも出来る。

 でも、それはしない。


 道なき道を進んでもラヴに気付かずすれ違ってしまうことはないと思うし、その方が移動も圧倒的に速いことを知っている。

 でも、面白くないよね。

 どうせなら楽しまなきゃ。

 会えた時に、土産話の一つもないのは情けないからね。


 それにラヴは焦っているだろうし、僕が急がなくても向こうからやって来そう。

 どちらかというと、焦ったラヴと焦った僕が延々と同じ方角に同じような速さでグルグルと進み続けることの方が心配なんだよね。


 でも。


「逢えるさ。きっとね」


 僕は信じている。

 愛だとか、運命だとか、前世でくだらないと思っていたもの全てを。













「うわぁ…こっちで見ても雄大だなぁ」


 前世では飽きるほど見た光景。

 でも、今世では初めて見る海が目の前に広がっていた。


「ここは波が高くて泳ぐにはちょっと向いてないかな?」


 立っているのは断崖絶壁の丘。

 下を見下ろせば吸い込まれそうな感覚になるね。

 火サスかな?


「でも、いい景色だ。潮風も久しぶりだから嫌な気もしないし、このまま暫く海岸線を進もう」


 普通の人なら一歩間違えば死んでしまう場所だけど、僕なら落ちても何とでもなりそうだね。

 空を飛べたらもっと色んな景色が楽しめそうだけど、それを覚える為に足を止めるわけにはいかない。

 焦ってはいないけど、こんなことで足を止めたらラヴに失礼だし、僕も出来るなら早く会いたいしね。




「はあ…折角、いい気分だったのにね」


 海岸線は断崖絶壁になっていて見晴らしの良い丘。

 つまり、他よりも少しだけ高い位置にある。


「あれは乗合馬車かな?」


 その海岸線より少し低い位置にある原っぱには幌付きの大型の馬車が停車していて、それを武器を掲げている複数の人間が取り囲んでいた。


「この世界には何処にでもいるらしいね。ああいう他人の物を奪うことでしか生きていけない人達が」


 海だけど陸上だから海賊じゃないよね?

 山でもないから山賊でもないし、なんていうんだろうか?


「考えても仕方ないね。聞きに行こうか」


 展開している一部のオーラを身体の内側に戻し、身体強化を掛けて馬車の元へ向かった。







「出てこい!抵抗するなら女子供以外は殺す!」


 近くまで寄ると、馬車を取り囲む人達が脅しをかけていた。

 良かった。見た目通り、この人達が悪人なんだね。


 争いの理由がわからないとついつい負けている方に加勢したくなるけど、悪人を助けても仕方ないしね。


「抵抗しなければ、全員を見逃してくれるのかい?」


 不意打ちを仕掛けても良かったけど、悪人も人の子。

 後悔なく死なれても何の学びもないからね。


「誰だ、貴様っ!?」

「誰だと言われても…」

「何だこいつ?やっちまうか!?」


 うーん。ジークリンドと名乗るべきか、ジンと名乗るべきか……


「多分冒険者だ!油断すんじゃねーぞ!」

「大きいけどまだガキだ!そっちの三人で対処しろ!」


 どちらを名乗ろうか悩んでいると、向こうは向こうで勝手に話が進み、八人いる中の三人が僕の方へとにじり寄って来た。


「僕の名前はジン。弱い人達の味方だよ」


 結局ジンを名乗った。

 ラヴはもしかしたらジークリンド=ジンと結びついているかもしれないけど、ジークリンドの名前はお尋ね者になっている可能性もあるからね。


 敗戦国の貴族なんてそんなものなのかな?

 それとも、僕には手配が掛かっていなくて、王族だけなのかな?


 いずれにしても、ラヴはジンでも探している筈だから、痕跡は出来る限り残すようにしよう。


「ああんっ?てめぇ、頭いかれてんのか?」

「ダッセェな!何が弱い者の味方だよ!ゲハハッ」

「弱い僕ちゃんは誰が味方してくれるのかなぁ?」


 煽っているつもりなんだろうけど、何も響かない。


「だって。君たち、もう死んでしまうから」

「え?」


 指先を向けて、オーラを放つ。

 そう気弾(オーラショット)だ。


 バンッ


 一番手前にいた男の腹に大穴が空いた。

 あれ…加減が難しいね。


「ひぃっ!?」

「何しやがった!?」


 想定では指先くらいの穴を空けて、悔い改めさせてから介錯するつもりだったけど、これじゃあ即死だね。

 来世では、同じ過ちを繰り返さないでね。


 僕は男の御魂にそう願いながら剣を抜いた。


 これは剣聖アルバートから頂いた(つるぎ)

 漆黒の意匠だから、以前の黒髪の方が似合いそうだけど、今世の僕は残念ながら銀髪。


「く、くるなっ!」

「もう来てるよ」


 ヒュッン…


 軽快な風切音の後、男の首筋から鮮血が舞う。


 これなら痛みは少なく、後悔する時間は僅かながら作れる筈。


「ひぃ…たしけて…」

「馬車の人達もそう言っていたんじゃないかな?」


 ヒュンッ…


「やべえっ!ニロ達がやられちまったぞ!?」

「こっちはまだ五人いる!一斉にかかるぞ!」


 三人を倒し終え馬車の方を見ると、リーダーらしき人物が仲間へ檄を飛ばしていた。


「いいかっ!合図で飛びかかれ!せーのっ、今だ!」


 その男が合図を出すも、誰も動こうとはしない。


「何してんだ!?え…」

「生き残っているのは君だけだよ」


 というか、全員で飛び掛かるんじゃなかったのかい…?

 明らかに自分は様子見していたよね?


「ば、バカな…」

「ごめんね。僕、ちょっと強いみたいなんだ」


 このリーダーが呼びかけてくれたお陰で、残りの五人が集まってくれた。

 だから同時に手間なく倒せたんだけど……


「何で、人質を取らなかったんだろう?」

「ふぇ?」


 リーダーの男は喉から音を出し、そのまま崩れ落ちていく。


 そうか。馬車の中からの抵抗が怖くて手が出せなかったのか。

 そういえば、そんな展開だったね。


「くぽっ…」

「最期くらい、過ちを後悔して欲しいんだけど」


 今際の際の男だけど、恨みがましい視線でこちらを睨んでくる。


「来世では、今世の分も頑張ってね」

「………」


 輪廻転生にはその人生で積んだ徳が関わってくる。

 どれだけ徳を積んだのかは人の価値観じゃ測れないけど、それでもこの人達が積めていたとは到底考えられない。


 僕を殺そうとした時も躊躇なかったし、なんなら楽しんでさえいるように見えた。


「はあ…やだやだ」


 考えてもキリはないけど、嫌にはなるよね。


「彼等は皆死んだので、ご安心くださーい」


 死人のことよりも、今を一生懸命に生きている人たちのことを考えよう。


 そう切り替えた僕は、馬車の中の人達を安心させる為に声を掛けた。


 暫く待つと、カサカサと衣擦れの音が聞こえ、幌に隙間が開き、そこから誰かが様子を窺うと。


「ほ、ホントに死んでらぁ…。おい、アイツら死んでるぞ」


 その人が中に声をかけると幌の入り口は完全に開き、ゾロゾロと中にいた人達が降りてくる。


「すげぇ…これみんなあの人がやったんだよな?」

「騎士様かな?」

「いや、冒険者じゃないかな?」


 賊?が全滅して静かだった原っぱも、ガヤガヤと賑やかくなる。


「みんな無事だね?御者の人は?」

「お、オラです」

「馬も無事みたいだから、大丈夫だね?」


 背は低いけどガッチリした体格のおじさんが手を挙げて応えてくれた。

 大丈夫かの質問にも頷いてくれたし、僕が出来ることはもうなさそうだね。


「じゃあ、気をつけてね」


 潮風を楽しんでいたのに、今では血の臭いが鼻にこびりついてしまった。


 早々に立ち去りたかったから、有無を言わさずに背を向けた。


「あ、あの!せめて、お名前を!」


 そういえば、折角名乗ったのに誰も生きていないね……


「ジンだよ。ただのジン」


 振り向かず、歩みを止めないまま答える。


「ありがとう、ジン!」

「ジン様。このご恩は忘れません!」

「ジン兄ちゃん、ありがとー!」


 それぞれの呼び方で感謝を伝えられる。

 僕としては何ら危険もなく、手間でもなかった。

 だから感謝の言葉には少し気恥ずかしくなるけれど、応えないほどコミュ障でもないからね。


 僕は振り返ることなく、手を挙げて感謝に応えた。


 これが水戸黄門か…と、独り変な感想を抱いた。

ジンが殺しを戸惑わなかった理由は多々ありますが

ジークリンドだった時にセフィリアを目の前で簡単に殺された(と思い込んでいる)ことがあったのが一番大きな理由です。


他にも初めての王都への旅の時にも、騎士が抵抗できない賊を殺しているところを目撃したりしていましたので。

そういう風に慣れている上に、そうせざるを得ない環境だと理解しているのも大きな理由ですね。


ええ、勘のいい方にはもうバレているでしょう。

この回はジンの死生観を出すためだけの回です。


補足失礼しました

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