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別の使い道

 






「はい。どうぞ」


 翌朝、起床早々にカーバインへ連れられて、リベラの元を訪ねた。

 勿論、ご機嫌伺いの為。


 そこで羞恥心を捨てて甘えまくったことにより、リベラをいつもの母様へ戻すことに成功した。

 カーバインには貸し一つ…と言いたいが、自分のせいでもあるので、今回は黙って協力した。


 そして、現在は屋敷の外。

 いつもの人目に付かない、陰になっている所で小瓶をレイチェルへと渡したところ。


「ごきゅ…」

「いや、飲んでくださいよ。我慢する意味ないでしょ…」


 この人ごきゅって言っちゃったよ……

 どれだけ美味しそうなんだ?

 至って普通の血に見えるけど。


 小瓶には今朝方採取した採れたての僕の血が入っている。


「で、では」


 勿体つけながら小瓶の蓋を外し、一息に飲み込む。


「どうですか?」

「…う…う、う、う」


 美味いのか…そんなに?

 後で舐めてみよう。


「不味い!」

「え?不味いの?」

「やっぱり、直接じゃないと意味ない」


 ダメだったか。

 モノは試しと間接的な吸血を試みたけど、予想通り無駄だったと。

 しかし、不味いのは予想外だったな。


「これだと、人以外の血と同じ」

「ん…あ、そうか」


 人とそれ以外の違い。

 それはオーラの習熟度だ。


 この世界には獣と魔獣がいる。

 その二つの違いは、オーラを使えるか否か。


 あれ?それだと……


「魔獣の血も有効なのでは?」

「正解。でも無理」

「無理?…あ。生きていないと意味がないからか」


 死んでしまえば、その小瓶に入っている血と同じ。

 そして、生きている魔獣に喰らいつくのは至難の業。

 ただでさえ獣は臭いしね。


「直接摂取で、且つ僕が吸血種にならない方法……」


 悩む僕をレイチェルが不思議な瞳で見つめる。


「そんなに嫌?」

「嫌ですよ。別に差別とかではないですけど。

 僕に不老になりたい願望は少なく、その願望よりも必ず来るであろう辛い現実を見ることは恐ろしいですから」


 リベラやカーバインとの死別(わかれ)。それはいつか来る。吸血種にならなくとも。

 でも、不必要な別れが増えることは目に見えている。

 そうまでして長生きはしたくない。

 いくら健康で若いとはいえね。


「そういえば…吸血種って子供は残せないのですか?」

「…えっち。遺せない。そっか。ジークは貴族、子孫を作らないといけない。つまり、作ってしまえば?」

「エッチな話ではないのですが…そうですか、わかりました。

 ついでに言うと、子供が出来たら尚更嫌ですね」


 子に先立たれる苦悩はもう味わいたくない。

 あれ?

 前世の(ぼくに)子供は居なかったはず。

 何故、そう思ったんだろう……


「それに老けないということは、成長もしないのでしょう?流石に五歳児(このまま)というのは困りますね」

「じゃあ待つ」

「え?聞いていました?」


 吸血種になると難聴になるのか?


「人として大人になるまで待つ」

「ですから…僕になるつもりは」

「……いつか、きっと後悔する」


 しないだろうな。

 生への執着が人よりも薄いから。


「何故、あの時食べなかったのか」

「そっちかっ!」


 やばっ。また声に出しちゃった。


「でも、我慢の限界はくる。それで勘弁して」

「そう宣言されましても……」


 でも、それはレイチェルの精一杯の優しさなのだろう。

 本当であれば、昨夜無理矢理にでも吸えたはずなのだから。

 それほどに吸血衝動はキツい、と。


「これまではどうしていたのです?」

「?何の話?」

「いえ、だから。その吸血衝動ですよ」


 人の世界で暮らす吸血種は身を隠さなくてはならない。

 だからフードを目深に被ったり、無駄な会話を避けたりもしている。


 この口調はその弊害なのかもしれないな。


「これは、ジークの所為。普段は年一くらいで吸えたら問題ない」

「えっと…つまり、衝動はない、と?」

「全くないわけじゃない。人の飢えと同程度。でも飢餓感を感じる前に飲むから、それも大したことはない」


 成程…毎日食事を摂る感覚が、年に変わるくらいか。


「普段というと?」

「オーラを使い過ぎると、短縮される」

「成程。それが嫌なら等価交換ですか」


 不老の代償。

 それはオーラを回復する術を持たない。というところか。


「自然にオーラが回復しないと?」

「以前は回復してた。でも、段々回復しなくなってる」

「年々人から悪魔族に変異している、という感じでしょうか」


 悪魔族というのは間違っていそうだけれど。


 いや、問題はそこじゃない。

 話を逸らすのはやめよう。

 言い辛いが、レイチェルにはここを出て行ってもらう。


 それしか、僕が人のままでいられる手段が存在しないからだ。


 レイチェルは待つと言っているが、どこで我慢の限界を迎えるかわかったものではない。

 それに、何かの弾みというものも十分考えられる。


 やはり……追い出すしか。


 それには飾る言葉を捨て、誠心誠意、伝えるしかない。


「レイチェル…ごめ『オーラの別の使い方、知りたい?』……なんだ、と?」


 意を決して、別れを告げようとしたその時。

 レイチェルは僕の凍りついてしまった心を揺さぶった。













「しゅ、しゅごい…これを、僕が?」


 レイチェルからオーラの新たな使い方を教わって、一年が経っていた。

 基礎から教わったので習得に時間は掛かったが、後悔はない。


「…予想を上回る威力。ムカつく」

「はは…」


 レイチェルは習熟速度にも文句を垂れていた。

 普通…というか、レイチェルの感覚では、これを覚えるのに十年は掛かる見積もりだったのだから。


 習熟速度に関しては持論がある。

 僕に他のオーラツールが使えないから。


 だから元々オーラ自体に才能(くせ)がなく、オーラの操り方にも癖がなかったお陰。


 ま、当たらずも遠からずだろうね。


 それよりも!見てくれたまえ!この状況を!


 ウチの庭には何もないけど、立派な塀だけはある。

 家から10m程離れた位置で家を取り囲む塀は、厚さが50cm、高さが5mもある石造りの堅牢な壁だ。


 それが見たまえ!

 僕の放った氣弾(オーラショット)により、上下の中間地点に半径1mの大穴を開けたのだ!


「何の音だ!?」「何事です!?」


 流石に音が大きすぎたか。

 焦った大人達がわらわらと集まってくる。


 そうだ。見よ!これが僕の力だ!


「こ、これは…」


 驚くカーバインへ答えたのはレイチェル師匠。


「ジークの仕業」

「え?…あ」


 僕の頬を冷たいものが伝う。


「ジークっ!お前の小遣いで直せ!」


 そこで漸く気付いた。

 僕は、師匠に売られたのだ。













「…ちょっと。笑ってばかりいないで、悩んでください。他人事じゃないんですよ?」


 石造りの塀を壊した代償。

 それは至極当たり前のものだった。


「見てる。誰に頼んでも同じ」

「だから悩ましいんじゃないですか…全く…」


 直す手段はない。

 だから頼むしかないのだけど、誰に頼むか。

 それを選ぶ基準は二つ。


 一つ目は信用に足る人物かどうか。

 そこには技術的な意味も、人柄的な意味合いも込めている。


 もう一つは、費用。

 何せ、六歳児のお小遣いの範疇で直して貰うしかないから。


 五歳の祝いを迎えた後、僕には毎月貴族年金が与えられることになった。

 これは僕だけが特別という話ではなく、貴族であれば誰もが受け取っているお金。


 貴族年金を貴族みんなが受け取るようになった理由は……

 お金がない貴族にも見窄らしい格好をさせない為だとか、犯罪を犯させない為だとか、色々あるみたいだ。


 そのお金は立場によって金額が変わる。

 大貴族の当主であれば、それこそ庶民の家が買えるほど貰えたりする。


 僕の場合は下級貴族の子供。

 同じ立場の人達は、晴れ着にそのお金を使うみたいだね。

 コツコツと毎月の年金を積み立てて、社交の場に出る機会にそのお金を使って子供服を仕立てると。


 下級貴族の殆どがお金持ちではないみたいだから、現実として必要な年金なのかも。


 その大切な年金を、壁の修繕に充てるってこと。


 勿論、子供のお小遣いにしては多いけど、かと言って職人を何人も雇えるかと言われると怪しい。

 そんな金額ではある。


 この世界は例に漏れず貨幣制度がある。

 貴重な貴金属がそれに使われており、国によって形やデザインは多少変わるが、価値自体は重さで判断されるので、そこに差は少ないと書物で学んでいる。


 白金貨、金貨、銀貨、銅貨、銭貨。

 この順番はどこの国でも同じ。

 後は大金貨や大銀貨などがあるかどうか。

 この国には存在する。

 金貨十枚分の重さがある大金貨はそのまま価値も十倍ある。


 書物と人から聞いた話を纏めると、だいたいこんな感じかな。


 白金貨=千万円

 金貨=十万円

 銀貨=千円

 銅貨=十円

 銭貨は使用できたり出来なかったりと、場所を選ぶから省く。


 地球換算だと違和感しかないけど、ところ変われば産出量も変わるしね。


 銅自体はその辺でも採れるらしいけど、採算が見合わないから誰も掘ったりはしないみたい。

 公共工事のついでに採れた銅からお金は出来ているって書物には書かれていた。


 お金よりも銅としての使い途の方があるけど、溶かすのは勿論御法度。

 見つかれば死罪。よくて奴隷落ちだって。


 話が脱線したけど、そんな僕の貴族年金は金貨二枚。

 年間で、二枚なんだ。


「誰かに借りたら?成人したら増えると聞いた」

「確かに成人後、貴族年金は増えるけど……借りるのは無し、で」


 それだと流石に意味がない。

 これは生まれて初めて、カーバインが僕に与えた罰なのだから。


 リベラも口出ししなかったのだから、この罰は甘いのだろう。

 もしかしたら、僕にお金を持たせたら何をするかわからないからって理由からかもしれないけど……


「見てもダメ。私のお金は私のもの」

「はあ…少しは責任を感じて欲しいのですけど…まあ、いいです」


 不足分を補ってもらえないかと淡い期待を抱いたけど、そもそもお金を貰う立場の人。

 払うはずないよね。


「この方を呼んできてください」

「わかった。ギルドに行ってくる」


 眺めていたのは履歴書の様なもの。

 それは組合(ギルド)から貰ったもので、ギルドは互助会みたいな組織。

 今回は職人ギルドから使える人材の名簿を借りたのだ。


 その一枚を握りしめ、レイチェルは部屋を出て行った。


「お金を貸し渋ることよりも、弟子に使いっ走りにされることを嫌いましょうよ…」


 普通、お金を出すよりも渋らないかな?

 ま、僕はまだ勝手に町に出ることを許されていないから有難いけども。

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